第2話天才美少女、落ちこぼれのストーカーになる

翌朝、学園の石造りの廊下を歩いていると、背後から猛烈な殺気を感じた。

「ちょっと! 説明しなさいよハルト!」

 振り返るよりも早く、制服の胸ぐらを強く掴み上げられる。

 そこにいたのは、燃えるような赤髪を揺らし、翡翠色の瞳を釣り上げたリゼット・ヴァレンタインだった。

「……リゼット様か。朝から元気だな。あと、近い」

「近くて結構よ! 昨日のこと、あれはどういうことなの!?」

 彼女の叫びで、周囲の生徒たちが足を止めた。

「おい、あの無能のハルトがリゼット様に絡まれてるぞ」

「また何か粗相でもしたのか? 身の程知らずだな」

 周囲の陰口は、俺の耳には届かないふりをする。だが、俺の視界には、彼女の表情とは正反対の『文字(ルビ)』が鮮明に浮かんでいた。

『な、なによ昨日のあの手……(※思い出すだけで顔が熱い。私の腰を抱き寄せて、魔法を消した時のあの目。今まで見た誰よりも、頼もしくて――)』

 ルビがうるさすぎて、目の前の彼女の怒鳴り声が頭に入ってこない。

「あのさ、リゼット。俺はただ、魔法陣のバランスが悪いのを直しただけだ」

「直しただけ!? 私の『インフェルノ・バースト』は、王立魔導院の賢者様が考案した、三十もの高密度な術式を重ねる最高難度の魔法なのよ! それを指先だけで、まるで糸屑を払うみたいに消すなんて……あんた、隠してるわね。本当はとんでもない魔法使いなんでしょ!」

「いや、俺の適性検査はEだ。お前も知ってるだろ」

 俺が淡々と答えると、リゼットは顔をさらに近づけてきた。石鹸のような清潔な香りが鼻を突く。

「……信じない。あんたの正体、私が暴いてやるんだから!」

 そう言って、彼女は俺の腕を掴んだ。

「放課後、また練習場に来なさい。来なかったら、あんたが私のローブを剥ぎ取ろうとしたって学園中に言いふらしてやるんだから!」

「……冤罪がひどすぎるだろ」

 有無を言わせぬ勢いで、俺の平和な日常にヒビが入る音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る