詠唱の「ルビ」が丸見えなんですが? ~無能と蔑まれた俺、最強魔術師の弱点を読み解きキャンセル無双する~

たらこの子

第1話俺にだけ見える『弱点のふりがな』

「……また落ちたか」

 手元に返ってきた『魔力適性試験』の結果表を眺め、俺、ハルトは小さく溜息をついた。

 判定は『E』。魔法の才能は絶望的、学園の定義によれば「ただの一般人」だ。

 この世界では、長く複雑な詠唱ができる者ほど偉い。

 仰々しい呪文を唱え、大がかりな魔法陣を描くことが、強者の証なのだ。

「ちょっと、そこ! 邪魔よ、どきなさい!」

 鋭い声に振り返ると、そこには不機嫌そうな少女が立っていた。

 燃えるような赤髪をツインテールに結び、仕立ての良いローブに身を包んだ美少女。この学園の特待生、リゼット・ヴァレンタインだ。

「悪いな、リゼット様。考え事をしてた」

「フン、あんたの低すぎる成績のことでしょ? そんなに悩んでも無駄よ。無能は無能らしく、私の練習の邪魔にならないところで掃除でもしてなさい」

 相変わらずの言い草だが、彼女の視線は俺ではなく、その奥にある標的(ターゲット)に向けられている。

 リゼットは杖を構え、高らかに詠唱を始めた。

「――火の精霊よ、我が呼び声に応え、烈火の渦となりて敵を焼き尽くせ! 焦熱の嵐、インフェルノ・バースト!」

 その瞬間。

 俺の視界の中で、彼女が紡ぐ言葉に『文字(ルビ)』が浮かび上がった。

『火の精霊よ、我が呼び声に応え(※魔力の練り込み不足)』

『烈火の渦となりて(※第三節・発音ミス)』

『焦熱の嵐(※制御不能により自分に跳ね返る)』

「っ、おい! 詠唱を中断しろ! そいつは――」

 俺の制止は間に合わなかった。

 リゼットが放とうとした爆炎が、標的に当たる直前で不安定に歪み、あろうことか彼女自身の足元に向かって逆流し始めたのだ。

「えっ……!? あ、あああっ!?」

 パニックで硬直する天才美少女。

 俺は反射的に走り出していた。

 

 魔法の才能はない。だが、俺にはこの「ふりがな」が見える。

 そして、その『ふりがな』には、魔法を止める方法すら書かれているのだ。

『焦熱の嵐(※左斜め下45度の術式核に指を突っ込めば不発に終わる)』

「……そこだ!」

 俺はリゼットの懐に飛び込み、無防備に展開されていた魔法陣の「一点」を指先で強く弾いた。

 

 パンッ!

 という抜けたような音と共に、今にもリゼットを飲み込もうとしていた爆炎が、まるで嘘のように霧散して消える。

「…………へ?」

 静まり返る練習場。

 俺の腕の中では、リゼットが目を見開いて呆然としていた。

「あんた……今、何をしたの……? 私の魔法を、指先だけで……?」

「さあな。それより、さっきの呪文。三節目、微妙に噛んでただろ」

「か、噛んでないわよ! ちょっと掠れただけ……って、そんなことより! いつまで抱きついてるのよ、このエロ無能!」

 顔を真っ赤にしたリゼットに突き飛ばされる。

 ……さっきまで腰を抜かして震えてたくせに、相変わらず元気なやつだ。

「まあ、無事ならいい。練習、頑張れよ」

 背を向けて立ち去ろうとする俺。

 だが、俺の視界には、リゼットの頭上に新しい『ルビ』が表示されていた。

『フン、助けてもらったなんて絶対に認めないんだから!(※本当は、心臓のドキドキが止まらない。誰にも見せたことのない助けられた顔を見られて、死ぬほど恥ずかしい)』

 ……この能力、心の声まで「ルビ」で見えるのかよ。

 

 俺は聞こえないふりをして、苦笑いしながら歩き出した。

 どうやら、俺の静かな学園生活は、今日で終わってしまったらしい。

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