第3話 リベンジ
「
「そ。聞いたよ、目をやられたんだって? 見せて見せて」
軽い足取りで近くまで来て、前髪を持ち上げられる。
顔がぐっと近付いて目と目が合う。
前よりも伸びた髪。見たことのない指先のネイル。嗅ぎ慣れた香水。
すこしだけ大人びた雰囲気。
「あれ? 透夜ってそんな目の色してたっけ?」
「目の色?」
「うん。なんか違くない? 気のせい? なんか青っぽい感じ」
「医療魔術の影響かもな」
「あー、なるほど」
「お前らよくその距離で普通に会話できんな」
「え? あぁ」
「おっと、そうだった」
目と鼻の先にあった伊吹の顔が遠のく。
前髪が下りた。
「えーっと。そだ、いまは何してるの?」
「カンの戻し作業中。もうちょっとしたら一旦帰って夜にまた仕事だ」
「ひえー、退院したその日から」
「その日じゃないぞ。日付は変わってる」
「尚更やばいじゃん!」
「ま、魔術師の宿命って奴だな」
万年人手不足だし、動ける奴は動かされる。
病み上がりだろうが、喪中だろうが、な。
「それでそっちの用事は?」
「私? 私は……ううん、透夜を冷やかしに来ただけ。元気そうだし、私も満足! じゃ、もう行くねー」
ひらひらと手を軽く振って伊吹が帰って行った。
「お前らって別れたんだよな? より戻したのか?」
「いいや、別に」
「ふーん。ま、深くは聞かねぇでおいてやるよ」
「助かる」
「うっし、じゃあ続きやっか」
空のペットボトルと穴あきのキャップをゴミ箱に捨てて、獅子堂と一緒にトレーニングルームに戻った。
§
夜。
受け持ちのエリア内にあるコンビニ。
輪留めに寄りかかって、ビニール袋から取り出したあんパンをかじる。
なんとなく落ち着かない。味もあんまりわからない。
「一度手酷くやられるとビビっちまうもんか?」
獅子堂がコンビニから戻ってきた。
「ビビっちゃいないけど、恐れてはいるな」
「同じだろ」
「いいや、違うね。昔、訓練で習っただろ? 正しく恐れろって」
「あー……そういやそんなことも言ってたっけな」
「俺は今になってその言葉の意味がはっきりわかったよ。恐怖の解像度を上げて、なにを恐れればいいのかはっきりわかれば立ち向かえる。怖いけど、ビビっちゃいないんだ」
ゆっくりと視線を持ち上げて、少し欠けた満月を見据える。
「次は勝つ」
そう決意を固めた直後のことだった。
一瞬、ほんの一瞬だけ、月に大きな亀裂が走っているように見えた。
直後にはまた普通の、なんの変哲もない少し欠けた満月に戻っている。
今のは一体? 病院で目が覚めてから妙なことばっかりだ。
「情報だ。例の新種が出たぞ。俺たちが一番近い」
「お誂え向き。一番乗りしてリベンジだ」
コンビニの駐車場から跳び出して、住宅の屋根に跳び、奴のもとへ。
「手を出すなよ!」
「わかってる」
屋根から飛び降り、道路に着地。
ゆっくりと立ち上がると、視線の先に奴を見た。
「久しぶりだな。全身タイツマン」
その形状がいたく気に入ったのか、姿は球体じゃなく最後に見た人型だ。
そういや白の全身タイツが人生最後に見る光景だったかも知れないんだよな。
おお、ぞっとする。
視力が回復して本当によかった。
「この前の続きをしようぜ」
耳も目もないが、この声が届いたのか奴が動く。
背中から大量の触手を伸ばして、それが槍みたく一斉にこっちに向かってくる。
数多くの攻撃に対して、こっちは刀を抜く。
先着順に身に迫る触手を断ち切り、攻撃を捌いた。
「やっぱ意味ないな、これ」
切った先から繋がって、攻撃がダメージになってない。
驚異的な再生能力は健在。
でも、瀬戸さんから逃げたのは命の危険があったからだ。
つまり奴は不死身じゃない。必ず殺す手段がある。
それが何なのかはこれから確かめればいい。
可能性が一番高いのはなんと言っても魔術だろう。
「
刀身から立ち上るオーロラ。
赤に緑に、青に紫に、その色を変える神秘の光。
揺らめくそれを伴って、一息に奴との距離を詰める。
突き出される触手を捌いて一度たりとも足を止めず、刀の間合いに踏みこんで一刀を見舞う。
振り抜いた剣閃はオーロラを引いて馳せ、眼前の敵を斬り裂いた。
「浅い」
繰り出した一撃は寸前のところで後退され、致命傷には至らない。
「けど、避けた」
俺から距離を取った奴にはダメージが残ってる。
胴体の太刀傷も、断ち切った触手も、そのままだ。
いや、僅かにだが再生はしているか。
その辺に落ちてる触手の切れ端も、本体に合流しようと藻掻いてる。
「魔術は有効」
断ち切った触手は動いているが、再生には時間が掛かる。
再生が追い付かないほど素早く、そして細かく切り刻めば倒せるかも。
いいね、勝ち筋が見えて来た。
「不死身なんていない」
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