第1話④

 カフェの穏やかな空気感は一変(その前からこよりたちと店員の押し問答を迷惑がる客はいたが)、悲鳴が上がり人々の視線は連結部分にある出入り口にいるこよりたち——ではなく、その背後で拳銃を構え、顔を覆う黒マスクをした超人らしき大男たちA、B、Cに集まった。彼らは安上がりの電気銃(それでも人を死に追いやることができる優れもの)を振り上げて怒鳴った。

「両手を上げて動くな! 動いたら殺す! 俺たちは超能力者排除派組織のテ・ロリスだ!」

「明らかにテロリスト!」

 こよりが驚愕するのも束の間、店員が「警備ロボ!」と叫ぶも、聞こえたのは「電源がオフになりました。警備を終了します」という機械室な音声のみだった。狼狽える店員に、一番奥で銃ではなくパソコンを持っていた大男Cがニヤリと笑う。

「チンケな防衛システムだな。俺でもすーぐハッキングできたぜ、ゲヘヘ」

「リアルで『ゲヘヘ』とか言ってる人初めて見たな」

「言ってる場合⁉︎」

 こよりの純粋な感想にすかさず少女が小声で突っ込む。二人は狐の面の少年を含めて両手をあげ、地面に座り、大男たちを見上げていた。

 彼らの前にはいつの間にか店員が出てきており、大人の最後のプライドか、体を張って子供である三人を守ろうとしていた。彼女は無法者には死を望むタイプだが、子供好きでもあったのだ。

「時間を稼ぎます。貴方たちはなるべく後ろに下がって、できれば助けを呼んできてください」

「でも…」

「列車が次の駅に到着するまでおよそ二時間。その間、彼らが何もしないとは限らない。貴方たちはまだ子供。ここで終わっていい命ではありません」

「店員さん……」

「あとまだご注文を承っておりませんので」

「ちゃっかり商売してますね貴方」

「私、オムライスとカレーとサンドイッチとデカ盛りパフェでお願いします」

「言ってる場合かよ!」

「仕方ないでしょお腹空いたんだから!」

「おいそこの三人!」

 話していた四人の肩が跳ねる。怯えた様子の彼らに覆面の大男は、あくどく微笑んだ。

「お前らは拘束して人質にする」

 その言葉を皮切りに、控えていた二人の大男がいつの間にか手にしていたロープを持って四人に近寄った。

「ちょっ、やめなさいセクハラよ!」

 大男BとCは、抵抗する少女をあっさり捕らえ、

「子供たちは関係ありません、人質だって私一人で十分でしょう⁉︎」

 必死に懇願する店員を拘束し、

「やめろぉまだコズミちゃんの羽のチャーム受け取ってねぇんだ俺はよォ!」

 過激なファンの形相にドン引きし、

「うわー離せー!」

 ジタバタと暴れるこよりをスルーし、リーダーと思しき銃を持った大男の元に拘束した三人を引きずっていった。それに驚いたのは少年と少女である。

「ちょっとテロリストさん! なんでアイツは人質に取らないんですか!」

 抗議する少年に、大男は「誰のことだよ」と鼻で笑った。「きっと気を逸らすための罠に違いない」「そうだな」と言葉を交わし、何事もなかったかのように三人の頭に電気銃の銃口を向ける。リーダーの男でさえこよりに気づかない。

 しばらくの間、何もされていないのに暴れていたこよりだったが、自分だけ何も起こらないことに気づくと、落胆した様子で清潔な床に両手両足をついた。

「また……私だけ省かれた……!この前の宇宙海賊のテロ騒動の時も、超能力者排斥運動の時もずっとそう……私だけ蚊帳の外……」

「どうでもいいけれど貴方、その様子なら助け呼べるわよね⁉︎ さっさと行きなさいよ!」

「そうだ! ここは俺たちに任せて先に行け!」

「さっきから何話してんだこいつら」

「知らん。ただの妄想だろ」

「まったく哀れな餓鬼どもだ」

「貴方たちテロリストの方がよっぽど哀れだと思うけれど…」

「なんだとこの餓鬼っ!」

 純ぱくのワンピースがはためく。胸ぐらを掴まれた少女は、冷や汗を流しながらも余裕の笑みを持っていた。

「あら、事実じゃない。非政府組織も差別撤廃法もあるのに、現に今、暴力に訴えることしかできていないでしょう、貴方たちは」

「この餓鬼ぃ…人質だからってさっきから調子に乗りやがって……!」

「おいやめっ」

 身を乗り出す少年を、少女は視線で制す。その体が微かに震えているのを彼は見逃さなかった。面の奥で目を見開いた彼は、「この状況をぶっ壊せるのは…」とこよりを見やる。少女も視線を追った。

「お水オイシイ! お水オイシイ!」

 ——こよりは無料のウォーターサーバーの下で、凄まじい勢いで喉を潤していた。

「何やってんだお前!」

 少年が思わずツッコミを入れる。

「ご飯は食べられる時に食べる。水は飲める時に飲む、これ常識!」

「言ってる場合か! はよ救助呼んでこい!」

「でもさっき確認したけどドアも窓も全部閉まってたよ。セキュリティロックがバグってるみたいで、何しても開かないし、私の力じゃ壊せない」

「そこは確認してんのかよ! ……そうだ、警備ロボ! 警備ロボを起動しろ!」

「さっきからうるさいぞそこの餓鬼ぃ!」

「今忙しんだよ後にしてくれ!」

「えっ…ごめん……」

 後ろ手に縛られあぐらを組んだまま、鬼気迫る気迫で怒鳴る少年に、テロリストたちは巨体を萎縮させる。が、すぐに調子を取り戻したようで、少女に加えて少年の胸ぐらを掴み上げた。尚、どちらの胸ぐらも掴んでいるのは大男Cである。側からすると子供に戯れつかれて遊んでいるおじさんのようにも見えた。それを看過できないのが、店員である。

「その子たちの胸ぐらを掴むなら、私の胸ぐらも掴みなさい!」

 彼女が食ってかかるのを、リーダーの大男は笑い飛ばす。先ほどから笑ってばかりである、この男。

「その生意気さだけは買ってやるよ。特別に俺様直々に胸ぐらを掴んでやる」

「やめなさい、掴むなら私の胸ぐらになさい!」

 減っていく酸素の中で、少女が叫ぶ。

「そうだー! 俺の胸ぐらを掴めー!」

 少年が両足をばたつかせる。

「ねぇなんでさっきからそんなに胸ぐらを掴まれたがるの⁉︎」

「ヤダこの人質たち怖い……」

「人選失敗しやしたね……」

「今だ」

 車両連結部の出入り口付近、拘束された少年、少女、店員を前にテロリストたちが話している隙に、こよりは両手をあげて項垂れる他の客たちのテーブルの間を通り過ぎ、ロボットの音声が聞こえた方向にあった、丸みを帯びたバックルームの扉を開け、中に入った。

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