第1話③
コズミちゃんとコラボしているというカップル限定カフェは、第一銀河鉄道列車の第三車両の中にあった。白蛇の表皮に覆われた車内一両がまるまるカフェになっており、清潔な店内には、淡い桜色の丸テーブルが十個と、そこに二つずつ付随する宙に浮かぶ足のない丸椅子があり、その半数が埋まっていた。カップル限定なので、さぞや甘い空気が漂っているだろうとこよりは思っていたのだが、どの客も静かに談笑しており、チョコレートやバニラ、珈琲の匂いが香るだけだった。
客席の間を移動する、頭にお盆を乗せた丸っこいのは小型給仕ロボだろう。売れば向こう一年は困らない稼ぎになるな…と考え、すぐにこよりは首を横に振った。ここは窃盗違法区域だ。警察沙汰は勘弁願いたい。——
「ええと、お三方は一体どのようなご関係で?」
『恋人です』
こよりを中心に三人でピト、とくっつく。
「ええと……」
——スーツ姿、少年と同じくお団子頭の女性店員に現在進行形で怪しがられているが、どうにか切り抜けるしかない。
何より、ここ三日何も食べておらずこよりはお腹が空いていた。今もお腹がなりそうなのを、腹筋を使うことでどうにか抑えているのだ。ふわふわパンケーキ、もちもちパスタ、ほかほかオムライス…彼女の口内はすでに涎に塗れていた。
「ええと、それはそちらの方が、」
店員はこよりを片手で指し示す。
「左右のお二人と付き合われていると?」
『そうです』
「浮気では…?」
『違います』
「俺ちゃんとコイツのこと愛してるんです」
「私もです」
「お二人はどういう関係で…?」
店員が少年と少女をそれぞれ見やる。
『敵ですね』
「やっベエ客来ちゃったなオイ」
「あのぉ」
一歩前に出たこよりに、店員は「はい?」と口角を引き攣らせる。
「一応、ダブルカップルって感じなんですけど、この場合チャームってどうなるんですかね…」
「ええと、まあ、マニュアルでは二セットお渡しする感じになりますかね…2ペアですから……」
「よかったね二人とも!」
「おう!」
「ええ!」
手をこよりと固く繋ぎ、飛び跳ねて喜ぶ少年少女に、店員は苦笑いから一変、スッと切長の目を細めた。
「もしかしてお客様、チャーム目当ての偽装カップルですか?」
『違います』
三人も真顔で否定する。
「けどお三方とも母星違いますよね?」
「今時の若者は異星間内で恋愛するんですよ」
こよりが答え、
「今流行りの心だけの関係というものです」
少女が追従し、
「台詞全部取られた……」
少年が項垂れた。
「そうですか…では失礼ですが、お客様のお名前をお聞きしても」
「番条こよりです」
「俺は」
「お待ちください」
「え?」
店員が手のひらを見せ、少年と少女を静止し、こよりの方を見た。
「そちらのお客様が、左右お二人のお名前を答えてください。即席の恋人でないのなら、できますよね?」
「げっ」
ぶわりと三人から冷や汗が吹き出す。こよりの視線はおよぎ、少女はあからさまな愛想笑いを浮かべ、少年はお面をつけているにもかかわらず汗利用がわかるほど両手をパタパタ振り動かした。
「も、もちろん答えられますよ! なあ?」
「いや知らないんだけど⁉︎」
こよりが小さな声で言うと、聞こえているのかいないのか、店員は「相談禁止です」と言い放ち、ますます眉間の皺を深めた。
「答えられないのを見ると、ますます怪しいですね…。本当にカップルですか? 貴方たち」
『ギクッ』
「か、カップルに決まっているではありませんか。ほら、こうやって腕も組んでるし」
少女がこよりの腕に自信の腕を回した。
「手だって繋いでますし!」
少年がこよりと指を絡ませる。「後で二人にお触り代請求しよう」と考えながら、こよりも
「この通りラブラブです!」
と涎を垂らしながら笑った。
「では早く恋人の名前をおっしゃってください」
「それはぁ……そのぉ……なんというか、そう、あだ名で呼び合ってるから忘れちゃったなぁっていうか……」
「大切な恋人の名前をですか?」
「それは…そのぉ……」
「ここは詐称合法区域ではありますが、正当防衛という名の暴力が許されていることをお忘れなく。もし万が一、お客様の詐称が明らかになった時は…」
『時は……』
三人はごくりと唾を飲んだ。
「ムッキムキの警備ロボに、顔面の形が変わるまで殴らせます」
カラッと笑った店員に、三人は青ざめ、後ろを向いてスクラムを組んだ。
「思ったよりヤバい店員だこの人! 元バ先の店長の半分くらいヤバい!」
「お前のバ先どうなってんだよ! 物騒すぎんだろ世の中!」
「法律という後ろ盾を得た人間は強いわよ…気をつけなさい…」
「どうやって⁉︎」
「どうしろと⁉︎」
「それを今から考えるんでしょうが!」
「相談禁止」
『はい、すみません!』
三人同時に店員に向き直る。店員は貼り付けたような笑みを崩さず、むしろ若干この状況を楽しんでいるようにも見え、こよりたちの恐怖を煽った。
「さぁ、お答えくださいな?」
店員の魔の手(こより視点)がにじりよる。どう切り抜ければカフェのランチにありつけるのか、腹を空かせたこよりの脳内を占めるのはそれだけだった。
「二人の名前は…」
こうなったら適当な名前を言って二人に合わせてもらうしかない、と口を開いたその時、響いたのはこよりの声ではなく三発の銃声だった。
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