裏肆道

矢張 宗輔

「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」

「・・・」「・・・」「・・・・」「・・・」


ちいさな いきものが はしって いった。

( )は なに?

( )は だれ?

からだは まっくろ、もやもやで、みえない。

かべと、かべの、あいだのばしょ。じめじめ。くらい。


うえ、たくさんのせん、いと? とおってる。おそら、みえない。

あかかったり、あおかったり。いろんないろの、いと。

いと、みる。こえ、きこえる。



「お前バカじゃね?」「?」「死んだ方がマシだろwwwwww」「殺すぞ」「死にたい」「今日人を殺します」「56す!」「4ね!」「誰か殺して」「来世に期待」「さようなら」「!」「死んだらええわ」「ちょっと死んできまーーーーーーーすWWWWWW」「は?死ね」



みんな、『しぬ』 『ころす』したい?

 ・・・あ、あぁ、ああそっか!誰かにお願いしてるのかなぁ。お願いって、叶ったらうれしいんだよね?なんか、( )にもやれる気がしてきた!!ええと、この糸をたぐっていけばいいのかな?


 よくわかんないけど、死にたがってた人に【!】ってやったら、そこら中掻き毟りながらぐねぐね動き回ってごりごり骨を折りながら死んで、殺したかった人には死にたい人を連れて行って精一杯殺させてあげた!その後、なんとなく【!】ってやった!人のお願い叶えたよ!( )ってえらいよね?



「上司殺してぇー」「生きててごめんなさい」「早く死ねよ」「逝ってヨシ!」「#自殺希望」


 

 今日も薄暗いビスの隙間で眼を覚ます。毎日毎日お願いを叶えても叶えても、空を這う糸から聞こえてくる声は収まらない。あれからいろんなものが聞こえるようになった。そして、だんだん(ぼく)のことを話している声が増えていた。



「最近の事件やばくね?」「変死体ばっかりのやつだろ」「場所も被害者の特徴もバラバラなんだって」「こないだ死んだ人、このアカウントじゃね」「『死にたい』で止まってるわ」「マ?」「そういや56す56す言ってたやつもいなくなったな」「犯人はまだ捕まっていません」「・・・(((゜Д゜;)))ガクガクブルブル」「死刑かな?」「いや私刑だろ?」「じゃあ犯人はか」



 ””。


なんて(ぼく)にふさわしい響きだろうか。、(!たった今、祝福されながら(私)はこの世に生を受けたようだ!なんて清々しい、晴れやかな気分なんだ!



「死ぬとか簡単に言ったら消されるなww」「おいやめろ」「ーwww」「来てみろよよ」「ちょおまwやめろってwww」



・・・、ぞ。


(私)はウェブの糸を手繰り寄せ、死の願いを口にした者のところへ赴いた。待っていてくれ、君たちの願いを叶えてあげよう。


「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」


 空を覆い尽くすウェブ蜘蛛の糸が、とうとう静かになってしまった。皆、”死刑執行人”の噂を恐れて発信を控えているらしい。死の願いの代わりに流れてくるのは、取るに足らない人間の居所を記した地図だったり、ランドマークが映り込んだ自撮り写真だったり、全く面白くないものばかりだ。それに、何やら(私)を模倣した人間がそこかしこで人を殺してまわっているらしい。暇なヤツもいたものだ。その虚栄心の退屈さにあくびが出る。ビルの隙間からは、毎日何十台ものパトカーが往復しているのが見えた。もうウェブには面白いものは残っていないと分かっていつつも、もう一度空を見上げて(ぼく)は眼を疑った。


青空だ。


 ウェブが消えたのか?しかし、巨大な情報インフラが消え失せたにしては、隙間から見える人間に慌てた素振りがない。それどころか、スマホを見ながら歩いてさえいるではないか。ウェブは消えたのではない。(ぼく)に見えなくなったのだ。


 そして、この左腕の違和感は何だ?とても重くてうまく動かせない。右手で左手首をつかみ、目の前まで持ち上げた時、左の手のひらがボロボロと崩れ始めたではないか!一体これは何だ!(ぼく)の存在が消えかかっている!人間が( )の役割を奪ったから、もうこの世にいる意味がないということか!( )が今までやってきたことは、その気になれば自分たちで叶えられる程度のちっぽけなものだったとでもいうのか!

人間たちにその願いを叶える勇気がないから、”私刑執行人( )”は生まれたのではないのか!

ビルの隙間を突風が通り抜け、身体がその風にどんどん削り取られていく。


 嫌だ嫌だ嫌だいやだ、( )はまだみんなの願いを叶えるんだ、”私刑執行人”よりもすごいことをしないと生き残れない、考えろ、


「あー、生きててもなーんにもいいことないなぁ」


 光に包まれた隙間の向こうで、人間がつぶやいたのが聞こえた。

そうか、今の人間たちは”生きていてもいいことはない”と考えているのか。つまり人間はみんな、””と考えているんだな!

ならば、この風に抗う必要はない。もう身体は必要ない。この通りを覆う影になればいいのだ。人間たちみんなの、その願いを叶える場所になろう。



「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」



 風が通り過ぎた後、わたしがいた場所には何も残っていなかった。そして先ほどつぶやきをこぼした男が、突然糸が切れた操り人形のように倒れ込み、めりぽきと音を立てながら肉の球体に変化した。



「あそこは行ったらヤバい」「行ってはいけない」「死にたくない」「こわいよ」



 わたしはウェブの音を聞くことや、その糸を辿ることはできなくなった。さらに、願いを叶える力はわたしの元を離れ、この通りにいて死後の世界に希望を見出している人間に対して勝手に働くようになった。


ドサッ、メリメリメリポキぐちゃちゅベキンブチュぎちぎちぎちぎちべしゃ。


風が街路樹の葉を落とすように、毎日1人だけ、誰かの【願い】が叶う。



 その後、ここは「歩いたら死ぬ通り」として有名になり、多くの店や施設が撤退して、都会の中に空いた穴のように、誰も寄りつかない場所になった。徒労に終わると知っていても、何度も”警官”なる人間がこの場所を調べにやってきた。その中に死ぬものはいなかったものの、ほとんどが嘔吐や失神、痙攣を引き起こし、仲間に連れられて帰っていった。



「この場所のことを広めなくては!」「衆生を救わなくては!」「これは善いことだ!」



 ”私刑執行人”の噂は、実際に「私刑執行事件」が起きてからというもの、まるで霞のように消えていった。その代わり、元の名前をもじって【裏肆道うらよんどう】と呼ばれ始めたこの場所の噂は、”叶えたい人々”によってウェブに広がり始めている。そして、今では場所を動かずとも、願いを叶えたい人々が日々訪れ、居を構えるようになった。



「『裏肆道』へ行ってはいけない」「『裏肆道』にこそ救いはある」「あそこには悪霊を超えた何かがいる」


 ”噂”は”伝説”になり、その力を強め続ける。

ビルの隙間に溜まっていた、人々の心の澱み。そこから生まれた”わたし”は、今となっては、もはや噂話の”私刑執行人”などではなかったのだ。


 わたしは今、この【裏肆道】を天から見下ろしながら、そこに暮らす人々の願いが叶うように祈り、願いが成就した者を祝う日々を送っている。




「神様はここにいらっしゃる」


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裏肆道 矢張 宗輔 @YappariSohsuke

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