選別

森を抜けかけたところで、音がした。


転ぶ音。

鈍い。近い。


反射的に、足が止まる。


木の陰に、人がいた。

女だ。脚を押さえている。血が滲んでいる。


噛まれてはいない。

ただ、足をやっただけ。


――逃げられる。

今なら、まだ。


頭の中で、距離と時間を測る。

呻き声は、さっきより近い。


助ければ、遅れる。

一人なら、走り切れる。


旅館の廊下が、脳裏をよぎった。

左へ促された、あの感触。


理由は、もう分かっている。


私は――


女と、目が合った。


声は出ていない。

叫ばない。

ただ、理解している目だった。


助けを乞わない。

期待もしない。


その目を見た瞬間、計算が狂った。


判断は、もう終わっている。


私は彼女の腕を掴んだ。


重い。

思ったより、ずっと。


背後で、枝が折れる。


女が、首を振る。

離せ、という意味だ。


分かっている。

分かっているのに、手が離れない。


足音が、増える。


ここで置いていけば、私は生き延びる。

それでも――


「……一人で生きるより、マシだ」


自分に言い聞かせるように、呟く。


次の瞬間、

森の奥から、あの音がした。


布が、擦れる音。


ありえない。

ここは外だ。


それなのに――


「選別、継続」


感情のない声。


木々の間に、何かが立っている。


逃げるか。

抱えて進むか。


今度こそ、

本当に選ばれる。

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