左へ進んだ先

左へ進むよう、肩に軽く触れられた。

力は強くない。逆らえないほどでもない。

ただ、自然に体が従ってしまう。


足音が、少しずつ減っていく。


布の下で、空気が変わった。

冷たい。湿っている。


扉の軋む音。


外に出たのだと、すぐに分かった。


布が外される。

眩しさに目を細める。


――森だった。


振り返っても建物はない。旅館らしき影すら。


代わりに、遠くで聞こえる。


呻き声。

引きずるような足音。


視線を上げた瞬間、理解した。


ここは、外だ。

逃げてきた世界の続き。


喉の奥が、ひくりと引きつる。


「……え?」


声が、震えた。


あれだけの人がいた。

明かりも、廊下も、流れもあった。


それなのに――。


背後に、何もない。


気づいたときには、もう遅かった。


選別は、終わっている。


ここに出されたという事実が、

その答えだった。


森の奥で、枝が折れる音がした。


考えるな。

動け。


日が暮れる前に、身を隠せる場所を探せ。


こんな森の中。

どこに逃げればいい。


選別された先に、あったのは――

生き延びる資格を失った世界だった。

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