第18話 存在していい理由


境界の

向こう側と

こちら側。


 


その線は、

今も

引かれて

いる。


 


だが、

意味は

薄れていた。


 


ラストと

魔王

グラディオは、

互いに

数歩の

距離を

保って

立っている。


 


近すぎず、

遠すぎず。


 


逃げ道を

残す

距離。


 


「……問おう」


 


魔王が、

低く

言った。


 


「我は

 倒される

 ために

 在った」


 


「だが、

 今は

 誰も

 剣を

 向けぬ」


 


「それでも

 我は

 ここに

 いる」


 


一拍。


 


「これは、

 間違いか?」


 


ラストは、

すぐに

答えなかった。


 


彼の

視界には、

幾つもの

未来が

重なって

見えている。


 


討伐され、

英雄が

生まれる

未来。


 


魔王が

自壊し、

世界が

静かに

冷える

未来。


 


均衡を

失い、

別の

災厄が

立ち上がる

未来。


 


どれも、

かつて

「正解」と

呼ばれてきた

道だ。


 


だが。


 


彼は、

首を

振った。


 


「……間違い

 じゃない」


 


「ただ、

 役割が

 一つ

 減った

 だけだ」


 


魔王の

眉が、

わずかに

動く。


 


「減った?」


 


ラストは、

地面に

視線を

落とす。


 


踏み固められた

土。


 


争いの

跡。


 


「倒される

 役割は

 終わった」


 


「でも、

 存在まで

 否定された

 わけじゃ

 ない」


 


風が、

二人の

間を

抜ける。


 


魔王は、

静かに

問う。


 


「ならば

 何者として

 在れと

 言う」


 


それは、

命令では

ない。


 


懇願でも

ない。


 


空白を

どう

埋めれば

いいか

わからない

者の

声だった。


 


ラストは、

胸に

手を

当てる。


 


自分も、

知っている

感覚。


 


評価を

失った

不安。


 


数字が

意味を

持たない

世界で、

どう

立てば

いいか

わからない

怖さ。


 


「……選べば

 いい」


 


静かに

言う。


 


「敵で

 なくても

 いい」


 


「恐怖で

 なくても

 いい」


 


「世界に

 変化を

 与える

 存在なら、

 形は

 決まって

 ない」


 


魔王は、

しばらく

黙って

いた。


 


長い

沈黙。


 


やがて、

低く

笑う。


 


「人間は

 いつも

 答えを

 押し付ける」


 


「だが、

 お前は

 違うな」


 


ラストは、

少し

困った

ように

言う。


 


「……決める

 のが

 怖い

 だけだ」


 


その

正直さに、

魔王は

目を

細めた。


 


「ならば

 我は

 選ぼう」


 


彼は、

剣を

持っていない

手を

広げる。


 


「討伐されぬ

 存在として」


 


「恐怖を

 煽らぬ

 力として」


 


「世界の

 外縁を

 見張る

 楔として」


 


言葉が

終わる

前に、

世界が

応えた。


 


境界線が、

淡く

光る。


 


線では

なく、

幅を

持った

領域へと

変わる。


 


人と

魔物が、

踏み込める

余白。


 


ラストは、

息を

吐く。


 


「……それで

 いい」


 


水晶板の

残骸が、

空中に

浮かぶ。


 


新しい

表示が、

一行だけ

灯る。


 


【世界更新:

 完了】


 


魔王は、

境界の

向こうへ

一歩

退く。


 


敵として

ではない。


 


役割を

選び直した

存在として。


 


「ラスト」


 


最後に

名を

呼ぶ。


 


「次に

 会う時、

 我は

 魔王では

 ないかも

 しれん」


 


ラストは、

少しだけ

笑った。


 


「その時は、

 名前で

 呼ぶ」


 


影が、

霧に

溶ける。


 


境界は、

もはや

戦場では

ない。


 


選択肢が

交差する

場所になった。


 


――世界は、

終わらなかった。


 


倒される

物語を

捨て、


 


更新される

物語を

選んだ。


 


それを

可能にした

少年は、

まだ

最強を

名乗らない。


 


ただ、

今日も

選ぶ。


 


世界が

止まらない

ように。


 

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