第16話 魔王は、理由を失う
玉座の
間は、
静かだった。
広い。
無駄に
広い。
天井から
吊るされた
魔力灯が、
淡く
脈打つ。
その中央に、
魔王
グラディオは
座っていた。
巨大な
体躯。
角。
黒い
外殻。
だが、
呼吸は
浅い。
「……減って
いるな」
側近が、
膝を
つく。
「討伐数が
落ちています」
「人間の
侵攻も
鈍化しています」
魔王は、
指先で
玉座を
叩いた。
「それは
問題か」
側近は、
答えに
詰まる。
「……本来
ならば」
「人間は
魔物を
倒し」
「魔物は
脅威として
存在し」
「その
循環が
経験値を
生み」
魔王は、
言葉を
継がなかった。
自分で
言っていて、
おかしいと
思ったからだ。
「……我らは
倒される
ために
存在して
いたのか?」
誰も、
答えない。
魔王の
胸に、
微かな
空白が
生まれる。
思い返せば。
自分は
なぜ
戦って
きた。
人間を
憎んで?
違う。
世界に
「敵」が
必要だと
知っていた
からだ。
討伐される
存在。
強さを
測る
基準。
それが、
魔王の
役割だった。
だが。
最近、
討伐が
起きない。
人間側が、
攻めて
こない。
魔物が、
自ら
戦線を
離れている。
「……役割が
消えている」
玉座の
背後で、
魔力の
流れが
乱れる。
かつては、
討伐される
たびに
世界から
流れ込んできた
力。
今は、
ほとんど
来ない。
「経験値が
減っている」
魔王は、
初めて
恐怖を
覚えた。
死では
ない。
存在理由を
失う
恐怖。
側近が、
小さく
言う。
「……人間側に
異常な
存在が
いると」
魔王の
視線が、
鋭く
なる。
「名前は」
「……ラスト」
その名を
聞いた
瞬間。
胸の
奥が、
きしんだ。
知らない
はずの
名。
なのに。
「……聞こえる」
魔王は、
呟く。
誰かが、
世界の
奥で、
何かを
選び直して
いる。
戦わない
未来。
倒さない
選択。
それが、
魔王自身の
輪郭を
曖昧に
している。
「……敵に
なる
理由が
ない」
それは、
敗北宣言では
ない。
戦争が、
成立しなく
なった
だけだ。
魔王は、
立ち上がる。
玉座が、
きしむ。
「行くぞ」
側近が、
驚く。
「どこへ」
魔王は、
答えなかった。
答えは、
まだ
形に
なっていない。
ただ。
このまま
座って
待てば、
自分は
“消える”。
倒される
でもなく。
封じられる
でもなく。
意味を
失って。
「……会わねば
ならん」
誰に、
とは
言わない。
だが、
世界は
すでに
知っていた。
敵として
ではない。
更新を
拒まれた
存在として。
――魔王は、
初めて
剣を
持たずに
歩き出した。
その一歩が、
最終部の
始まりだった。
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