第15話 最強の、いつもの朝


朝は、

変わらず

来た。


 


鶏が

鳴き、

井戸の

水が

冷たい。


 


ラストは、

いつも通り

顔を

洗う。


 


鏡に

映るのは、

痩せた

十三歳の

少年。


 


筋肉も、

魔力の

気配も、

ない。


 


「……ほんとに

 9999

 なのか」


 


小さく

呟く。


 


水晶板を

見る。


 


Lv:9999


 


数字だけが、

場違いに

主張していた。


 


外に

出る。


 


村人たちは、

普段通り

動いている。


 


だが。


 


視線の

置き方が

違う。


 


遠巻きで、

触れない

距離。


 


尊敬でも

恐怖でも

ない。


 


扱いに

困っている

目。


 


ミアが、

近づいてくる。


 


「……体、

 大丈夫?」


 


最初の

心配が、

それだった。


 


ラストは、

少しだけ

笑う。


 


「いつも

 通り」


 


嘘では

ない。


 


本当に、

何も

変わって

いない。


 


仕事を

手伝う。


 


薪を

運び、

水を

汲む。


 


重い。


 


息が

上がる。


 


「最強」の

実感は、

どこにも

ない。


 


だが。


 


村の

端で、

言い争いが

起きた。


 


畑の

水を

巡る

口論。


 


いつもなら、

長引く

話だ。


 


ラストは、

足を

止める。


 


無意識に、

見えて

しまう。


 


分岐。


 


怒鳴る

未来。


殴る

未来。


諦める

未来。


 


その

隙間に、

もう一つ。


 


彼は、

口を

開く。


 


「……水路、

 少し

 掘り直せば

 足りる」


 


皆が、

振り返る。


 


理由を

説明する

前に、

理解が

追いつく。


 


「……ああ」


 


誰かが

頷く。


 


争いは、

消えた。


 


ラストは、

胸を

押さえる。


 


勝った

感じは、

ない。


 


ただ、

「起きなかった」

だけだ。


 


昼。


 


冒険者たちが、

彼を

見て

ざわつく。


 


「魔物を

 倒さなくて

 いいって

 本当か?」


 


ラストは、

首を

振る。


 


「倒す

 ことも

 ある」


 


「でも、

 それしか

 ないわけ

 じゃない」


 


理解は、

されない。


 


それで

いい。


 


夜。


 


一人で

境界に

立つ。


 


魔物は、

遠くで

息を

している。


 


敵では

ない。


 


ただの

存在。


 


「……全部

 選べる

 わけじゃ

 ないな」


 


弱音が、

零れる。


 


見える

未来が

増えた

分だけ、

迷いも

増えた。


 


それでも。


 


足は、

止まらない。


 


壊さず、

押し付けず、

逃げない。


 


それが、

自分の

更新の

仕方だと

知っている。


 


空を

見上げる。


 


星は、

昨日と

同じだ。


 


だが、

世界は

確かに

一歩

進んでいる。


 


――最強の

少年は、

今日も

戦っていない。


 


それでも、

選択肢は

増え続けていた。

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