第12話 世界が、拒む


朝。


村の

空気が、

重かった。


 


理由は

誰にも

わからない。


 


だが、

確かに

違う。


 


ラストが

歩くと、

人の

会話が

止まる。


 


視線が

一瞬だけ

集まり、

すぐに

逸れる。


 


「……?」


 


気のせいだと

思おうと

した。


 


だが。


 


鍛冶場で、

鉄が

折れた。


 


農地では、

芽吹いた

ばかりの

苗が

一斉に

しおれた。


 


井戸の

水位が、

理由もなく

下がる。


 


どれも

小さな

異常だ。


 


だが、

連続して

起きすぎている。


 


ミアが、

声を

潜める。


 


「……ねえ」


「昨日から

 何か

 感じない?」


 


「世界が、

 落ち着いて

 ない」


 


ラストは、

答えなかった。


 


――自分が

 原因かもしれない。


 


そう

思ってしまった

瞬間、

胸が

締め付けられた。


 


境界へ

向かう。


 


魔物の

姿が、

ない。


 


逃げた

わけでも、

倒された

わけでも

ない。


 


「……動いて

 ない?」


 


地面に

残る

足跡は、

途中で

止まっている。


 


まるで。


 


進む

理由を

失った

かのように。


 


冒険者の

一人が、

苛立った

声を

上げる。


 


「魔物が

 減ったら

 経験値が

 入らない」


 


「仕事に

 ならない」


 


別の者が、

言い返す。


 


「じゃあ

 どうする」


 


沈黙。


 


誰も、

次の

選択肢を

持っていない。


 


ラストの

胸が、

ざわつく。


 


――選択肢が

 消えている。


 


その夜。


 


水晶板が、

激しく

震えた。


 


表示が、

乱れる。


 


【警告】

観測対象:

逸脱


 


【補正開始】


 


ラストは、

後ずさる。


 


「……やめろ」


 


水晶板の

奥から、

圧が

流れ込む。


 


頭が、

割れそうに

なる。


 


見える。


 


過去の

自分。


 


害獣の

前で、

立ち尽くす

姿。


 


檻を

開けた

夜。


 


境界で

話し合った

時間。


 


それらが、

“誤り”

として

塗り替えられようと

している。


 


「……違う」


 


声が、

震える。


 


「それは

 間違い

 じゃない」


 


水晶板が、

ひび割れた

ような

音を

立てる。


 


【補正失敗】


 


【再計算中】


 


圧が、

消える。


 


ラストは、

膝を

ついた。


 


息が、

荒い。


 


怖かった。


 


世界に、

否定される

感覚。


 


それでも。


 


胸の

奥で、

小さな

火が

消えていない。


 


――あれは、

 間違いじゃない。


 


外で、

鐘が

鳴る。


 


境界の

警鐘。


 


だが。


 


誰も

武器を

取らない。


 


皆、

迷っている。


 


ラストは、

立ち上がる。


 


足が、

震えている。


 


それでも、

一歩

踏み出す。


 


「……選ばなきゃ

 いけない」


 


誰に

向けた

言葉か、

自分でも

わからない。


 


夜空に、

見えない

亀裂が

走った。


 


世界が、

彼を

拒み。


 


同時に、

縋りついている。


 


――次の問いは、

 もう

 すぐそこまで

 来ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る