第7話 自覚しない才能


ラストは、

自分の変化から

目を逸らしていた。


 


理由は、

単純だった。


怖かったのだ。


 


自分が

何かを

変えていると

認めてしまえば。


もう、

元には

戻れない。


 


朝。


村の集会所で、

小さな揉め事が

起きた。


水の分配。


畑の優先順位。


些細だが、

放っておけば

拗れる話だ。


 


ラストは、

壁際に

座っていた。


参加する

つもりはない。


ただ、

聞いているだけ。


 


「順番が

 おかしい」


「去年は

 違った」


声が、

少しずつ

強くなる。


 


ラストは、

無意識に

視線を上げた。


誰が

何を

言おうとしているのか。


何を

怖れているのか。


 


それが、

わかってしまう。


 


【観察】

熟練度:限界突破


 


水晶板が、

淡く

表示する。


 


ラストは、

慌てて

目を伏せた。


「……見てない」


誰に

言うでもなく。


 


村人の一人が、

ふと

口を開いた。


「……去年は」


「俺たち、

 雨を

 待ちすぎた」


 


別の者が、

頷く。


「今なら、

 調整できる」


 


声の

角が

取れていく。


 


ラストは、

何も

言っていない。


 


それでも。


話は、

まとまった。


 


集会が

終わったあと。


ミアが、

小さく

息を吐いた。


「……不思議」


 


「誰も

 怒らなかった」


 


ラストは、

答えなかった。


答えられなかった。


 


その夜。


スキル板を

開く。


 


【対話】

熟練度:限界突破


【共感】

熟練度:限界突破


 


数字が、

あり得ない

位置にある。


 


「……違う」


「これは、

 偶然だ」


 


自分に

言い聞かせる。


 


スキルは、

努力の

結果だ。


自覚して

使ってこそ、

成長する。


 


自分は、

何も

していない。


 


だから――

これは

間違いだ。


 


翌日。


境界で、

小さな事件が

起きた。


魔物と

人が、

鉢合わせた。


 


緊張が

走る。


だが。


誰も、

武器を

抜かなかった。


 


ラストが、

そこに

いたからだ。


 


彼は、

何も

言わない。


ただ、

立っている。


 


【存在】

スキル取得


 


表示が、

一瞬

走った。


 


ラストは、

息を

呑む。


 


「……違う」


「僕は、

 ただ

 いるだけだ」


 


魔物は、

一歩

退いた。


人も、

一歩

下がった。


 


衝突は、

起きなかった。


 


夜。


ラストは、

水晶板を

睨みつける。


 


レベル:1


 


それだけが、

救いだった。


 


レベルが

上がらない。


だから、

自分は

特別じゃない。


 


そう

思いたかった。


 


水晶板が、

静かに

震える。


だが、

表示は

変わらない。


 


――世界は、

彼を

「変化の中心」として

認識し始めている。


 


だが。


少年だけが、

それを

否定し続けていた。


 


自分の価値を

認めてしまうことが、

何より

怖かったから。

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