第6話 導かれる人々


変化は、

突然には起きなかった。


だが確かに、

広がっていった。


 


ノルド畑村では、

些細な出来事が

増えていた。


 


農夫が、

耕す場所を

変えた。


理由は、

はっきりしない。


「なんとなく」

それだけだった。


 


鍛冶屋が、

古い道具を

修理し始めた。


新品を

作る予定だったのに。


「……まだ、

 使える気がしてな」


 


誰も、

ラストの名前を

出さない。


だが。


ラストは、

その場に

いることが多かった。


 


彼が

何かを

言ったわけではない。


指示も、

命令も、

説得も。


 


ただ、

話を聞いただけ。


黙って、

頷いただけ。


 


それでも。


人は、

行動を

変えた。


 


ラストは、

それが

怖かった。


 


「……僕は、

 何もしてない」


そう

言い聞かせる。


だが、

胸の奥で

否定できない。


 


境界付近で、

小さな集まりが

できた。


冒険者と、

農夫と、

猟師。


以前なら、

交わらなかった

顔ぶれだ。


 


「無闇に

 入らない」


「境界を

 守る」


誰が

言い出したのか、

わからない。


 


ラストは、

少し離れた場所で

それを見ていた。


胸が、

ざわつく。


 


「……決めてる」


自分たちで。


誰かに

強制されず。


 


夜。


ラストは、

自分の

スキル板を

確認した。


【観察】

【対話】

【共感】


見慣れない

表示が、

増えている。


 


「……いつの間に」


覚えた

記憶はない。


使った

自覚もない。


 


だが、

熟練度は

上がっていた。


限界値に

近い。


 


「おかしい……」


スキルは、

使って

成長するものだ。


それが、

常識だった。


 


翌日。


ミアが、

ラストに

声をかけた。


「ねえ」


「ここに

 いてくれる?」


理由は、

それだけ。


 


ラストは、

首を縦に

振った。


何かを

するわけではない。


 


村人たちは、

話し合いを

続けた。


声を

荒らげず。


結論を

急がず。


 


不思議と、

まとまった。


 


ミアが

小さく

笑った。


「……安心する」


その言葉に、

ラストの

胸が

締め付けられる。


 


夜。


水晶板を見る。


レベル:1


変わらない。


 


だが。


スキル欄は、

確かに

増えている。


熟練度は、

異常な速度で

上がっている。


 


ラストは、

初めて

はっきり思った。


 


――僕は、

 戦っていない。


――倒しても

 いない。


 


それなのに。


人が

動く。


選ぶ。


変える。


 


「……それって」


言葉に

できなかった。


怖くて。


 


水晶板が、

淡く光る。


だが表示は、

変わらない。


レベル1。


 


村の夜は、

静かだった。


だがその静けさは、

以前とは

質が違う。


 


押し付けられた

沈黙ではない。


選ばれた

静けさだった。


 


――少年は、

自分が

中心にいることに、

まだ

気づかない。


気づいてしまう

その瞬間が、

近づいているとも

知らずに。

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