第二話 まだ明るいその日

The Day Still Felt Bright


 赤褐色と淡色の縞が連なる尾が、警戒するようにゆっくりと揺れた。そしてそのすぐ脇で、小さな桃色の羽が壁に身を寄せ、息を潜めている。


「……おーい」

 その時背後から、明るくも低く落とされた声が聞こえた。

「何してんだ、お前ら」

「ぴゃー!!」

「うおっ、うるせー……」


 二人の背後から、たしなめるように小声を投げかけたのは、幼いながらも立派なツノを備えた少年だった。しかしその不意の声に驚き、桃色の羽は喉を裂くかのような勢いで悲鳴をほとばしらせる。声をかけた少年は思わず指で耳を塞ぐ。


「ピーター! ニャロ! 静かに」

 名を呼び、制止したのは探偵一家の息子、リアム・ホワード。

 声をかけた少年はピーター・ジョルダーノ。

 そして、もうひとり。思わず悲鳴をあげてしまった少女が、ニャロ・クシランダーである。

 リアムは二人を指差し、威嚇するように眉をひそめた。


「そっそうだよ、ピーター! 今偵察中なんだから」

 ニャロは頬を赤く染めながら、先ほどから様子を伺っている方へと振り返る。

「……ていさつぅ?」

 またなんか企んでんのか、そう呆れたような顔をしながらもピーターは二人と同じ物陰に隠れ、視線の先を追う。

 二人が熱心に追う視線の先には、この町の護衛衆――ケラススの男性隊員が二人。どちらも白が基調な服装からするに、心理管理官だろう。


「……あー、これは……またか」

 ピーターは何かを察したようにニャロを見る。ニャロは赤く染めあがった顔をしながら、視線はケラススの男性隊員に釘付けだ。

「いつものやつですかねぇ、リアムさん」

 そんなニャロの様子を見て、少しからかい混じりにピーターはリアムに声をかける。だが、機嫌が悪いリアムはただピーターを睨みつけるだけだった。

「あらら、ご立腹ー……」

 ピーターはリアムが何故機嫌が悪いのかわかっていた。しかし、ニャロはそんなことも気にもとめず、瞳を輝かせ、隊員に夢中だ。その様子を見たリアムは更に臍を曲げた。ニャロの視線が自分以外に向くのが、どうにも気に食わなかったのだ。


「あー、ニャロちゃん……もう行こうぜ」

 見かねたピーターはニャロの肩に手を置き、声をかけた。が、その手すらも許さないリアムがピーターの腰めがけて足蹴りする。

「いってぇ! オレはお前の為になぁ!」

 見事に命中した足蹴りの痛みに声をあげながら、ピーターがリアムを落ち着かせようとした時。

「あれ、君ら……」

 隊員の一人がこちらに気づき、寄ってきた。

「もう学校の時間じゃない? サボってると怒られるよー」

 もう一人の隊員も気がついたようで声をかける。

「はい! すんません! お前ら、行くぞ!」

 この状況がまずいと察したピーターは、まだ成長しきっていない体でリアムとニャロを抱えると、足早に去っていった。


「あーくそっ! お前ら重てぇな!」

「ピーター! おろせ!」

「にゃあの王子様ー!」

そんな賑やかな声が、遠ざかっていく。

その声を聞きながら、隊員達も目的地へと足を運ばせた。


  ぱたん、と本を閉じる音だけが、まだ眠りの中にいるような静かな校舎に響く。

「そろそろですかね」

 読んでいた本を閉じ、杖に持ち替える。子供たちを出迎えようと、大きな羽をたたみ、扉にそっと手をかけたのはこの町――シルワタウンで唯一の教職員、デヴィン・ローレンだ。

 しかし、デヴィンは扉にかけた手をぱっと離す。先ほどまで眠っていた校舎に、騒がしくドタドタと足音が転がってきた。デヴィンにとって、子供の足音ほど分かりやすいものはない。だが、今日はやけに騒がしい。


「せ、せんせぇ! オレはもう限界だぁ!」

 聞こえてきたのはよく知る大切な生徒の声。その声は酷く息切れしていた。何事かと、急いで再び扉に手をかけ廊下を見る。


そこにいたのは、何故か自分と対して変わらない体格のリアムとニャロを担ぎ、肩で息をするピーター・ジョルダーノだった。

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