第4話

「魔獣との戦い方……? 一体どうして……」


 不思議そうに男は尋ねる。


 はたしてスキルのことを彼らに伝えるべきか。


 俺のスキルは特殊だ。

 レベルが上がる。

 そんなことは普通はない。


 この世界におけるスキルとは、一〇歳の頃に授かったきりのものだ。

 成長したり、変化したりすることはない。

 だから、俺みたいにスキルにレベルがあるなんて、嫉妬の対象にもなったりするだろう。

 あまり広まって欲しくない情報だ。


 しかし、俺が魔獣を倒したい理由を説明するには、その話をしなければならない。

 正直リスクだ。


 ……でも。

 この説明をしないと、二人は納得できないだろう。

 今の俺は止血しているだけで十分な食い扶持になる。

 リスクを取ってまで魔獣と戦いに行く必要なんてない。


 二人は疑惑を持つだろう。

 俺に何かがあるのだと。


 それに、どうせいつかはこの能力についてバレることになる。

 レベルが上がって、使える能力が増えた時。

 俺にそれを使わずに他人を見捨てる選択が出来るとは思えない。


 ……伝えよう。

 二人に。

 この能力について。


 彼らが信用に足る人間かどうかは分からない。

 でも、彼らに魔獣との戦いを教わるなら、こちらから信用しないと話にならない。

 自分が信用してない相手に信用してもらおうなんて、おこがましいにも程がある。

 こちらから信用してこそ、信用が返ってくるのだ。


「俺のスキルについてだ」

「スキル?」

「ああ。俺のスキルには


 俺の言葉に男は訝しげに眉を寄せた。


「レベル?」

「ああ。つまり、何かしらのアクションをすれば、能力が増えていくというわけだ」

「……なに?」


 男の表情が険しくなった。

 レイアもまた、ハッとした表情をする。


「それってつまり……」

「そうだ。魔獣を倒せば、もっと多くの人を救えるかもしれない」


 レイアの言葉に俺は頷いて答えた。

 俺のその言葉に二人は驚き目を見開いた。


「本当か?」

「いや、まだ定かではないが……可能性はある」

「そうか……それなら、良いだろう。俺の持てる全ての技術をジンさん、お前に授ける」

「ありがとう。……ええと」

「レイだ。俺の名前はレイ。よろしく頼む」


 男から手を差し出された。

 俺はそれを握り返して言った。


「ああ、こちらこそよろしく頼む」






 それから次の日。

 俺はレイの家を訪ねていた。


 レイの家は、俺の家よりも幾分かボロかった。


 隙間風が吹く部屋の中、レイは片腕で器用に木剣を俺に放り投げた。


「いいか、ジン。お前の目的は魔獣を倒すことだ。だが、お前は素人だ。真正面からやり合えば、間違いなく死ぬ」


 レイの言葉は重かった。


 実際に片腕を失った男の言葉だ。

 説得力が違う。


「だから、お前が覚えるべきは殺し方じゃない。死なない戦い方だ」


「死なない戦い方……」


「そうだ。相手の攻撃を躱し、隙を見て急所を突く。卑怯でも何でもいい。泥を投げてもいいし、罠にかけてもいい。とにかく生き残って、相手の息の根を止めることだけを考えろ」


 それから、過酷な特訓が始まった。

 レイは右腕を失っているが、残った左腕と足捌きだけで俺を圧倒した。


 俺が木剣を振るうよりも早く、レイの蹴りが俺の足を払う。


 転がされた俺の喉元に、寸止めで木剣が突きつけられる。


「遅い。死んだぞ、今」


「ぐっ……!」


 何度も転がされ、何度も打たれた。


 体中がアザだらけになる。


 治癒魔法を使えば治せるが、魔獣との戦闘中に悠長に回復している暇はない。

 痛みを知れ、というレイの方針で、俺は特訓中は魔法を使わずに耐え抜いた。


 レイの指導は厳しかったが、同時に丁寧でもあった。


 彼もまた、必死なのだ。


 俺に希望を託している。


 自分がもう戦えない分、俺が強くなって人々を救うことに、自身の存在意義を見出そうとしているようだった。


 休憩中、レイの妹のレイアが水を持ってきてくれた。


「ジンさん、大丈夫ですか? お兄ちゃん、少し厳しすぎるんじゃ……」


「いや、これくらいでいい。俺は弱すぎるからな」


 俺は息を切らしながら水を飲み干した。


 正直、逃げ出したくなるほどキツイ。


 筋肉痛で体は悲鳴を上げているし、恐怖で足がすくむこともある。


 だが、その度に俺は思い出す。


 家で待っているツムギのことを。


 あのボロボロの体。


 何も出来ずに、ただ俺の帰りを待つことしか出来ない少女。


 彼女の四肢を取り戻すためなら、これくらいの苦痛、どうってことない。


「……いい目をするようになったな」


 レイが俺を見て言った。


「守るものがある奴は強い。俺も昔はそうだった」


「レイ……」


「俺は守ることに失敗して腕を失ったが、お前ならやれるかもしれない。……よし、休憩終わりだ! 立つんだ、ジン!」


 俺は呻き声を上げながら立ち上がった。


 木剣を握りしめ、構える。


 俺は強くなる。


 必ず、あのスキルを進化させてみせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る