伍環

1月下旬。

世間はバレンタインシーズンに突入。

個人的に今はあまり街に近づきたくないけど、買い出しをするためには避けては通れない。


私「はあ」


街中に近づくと思わずため息がでた。

神様は突然げんなりとした私を見て「どうした?」と不思議そうな顔をする。


(神様の姿が私にしか見えないことも、神様には荷物持ちをお願いできないことも残念だな〜と思って)


おどけて答えれば神様は私をじとっとした目で見てから更に目を細めた。


神「君は嘘が下手だな。気づかれたくないのならば隙を作らないことだ」


(う……ごもっともです……)


力なく答えたところで賑やかな街の音が聞こえてきた。


神「なんだ? ︎︎この浮かれた街は。前はこんなものなかっただろう」


神様はそう言って通りすがりにつん、とハートのバルーンをつつく真似をする。


(もうすぐ『バレンタイン』ってイベントがあるんですよ)


神「バレンタイン……そうか。だからこんなにもハートやピンクで溢れているんだな」


(え。神様バレンタインを知ってるんですか?)


神「西にいる神が話していたのを聞いただけだけどな」


(ああ。あの前に話してた神様の集まりですか?)


神「そうだ」


(へえ! ︎︎西の神様はどんな風に……)


私は質問をしかけて口を閉ざした。


神「どうした?」


(あー……いや〜、なんだか私いっつもこうやって質問してばかりいるなあと思って。めんどくさくないですか?)


申し訳なさそうに問いかければ神様は「それ自体も質問じゃないのか?」とくすりと笑った。


(う、そうですね……)


私が立ち止まって項垂れると神様もつられて立ち止まってはきょとんとした。


神「普段ならば『今のは例外です』などと言い返しそうなものだが……ふむ。今日の君は様子がおかしいな」


(あはは……)


苦笑いをして私が歩き出せば神様も歩き出した。


神「まだ答える気はないようだな」


(そうですね……怪我で例えるなら今はまだ『痛いよ〜』ってなってる状態なので、痛がることに満足して飽きたら話しますね)


神「わかった。そういうことならばこれ以上はやめておこう。すまなかったな」


(いえ……! ︎︎ありがとうございます)


神「詫びと言ってはなんだが、先ほどの君の質問どちらにも真面目に答えよう」


神様はまた立ち止まって私を見た。


神「まず君の質問が多いことに関してだ。私は自力で解決できる自身の問題についてならば答える気などないが、君は好奇心の他に会話をすること自体を目的としているだろう?」


(! ︎︎はい)


神「であれば私にとっては面倒なことではない。人間の話を聴くことにも応えることにもなれているからな」


神様の顔はどこまでも慈愛に満ちていて、本当に人が好きなんだと伝わってくる。


(神様……。ありが)


神「それに中途半端に会話を止められて遠回りさせられる方がよっぽど面倒だ」


神様はそう言うと今度は神らしからぬ心底面倒だという顔をした。


(一瞬で変わりすぎじゃないですか?)


神「神にも心はあるからな」


間髪入れずに答える神様に私は声を上げて笑った。

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