肆環
落ち着きを取り戻した私は疑問に思っていたことを口にした。
私「そう言えば仕事中もずっと気になってたんですけど、そばに居たならどうして話しかけてくれなかったんですか?」
神「君は仕事をしながら考え事をする癖があるだろう。私のせいでミスをされても困るから黙っていた」
私「あはは、ありがとうございます。でも『直せ』とは言わないんですね」
神「言ったところで脳を占めていた考え事が『直さなきゃ』に置き換えられるだけだろう?」
私「辛辣なようなやさしいような……?」
神「どちらでもなくただの事実だ」
私「あはは。その事実をどう受けとめるかの話ですよ」
神「そういうものか?」
私「はい」
笑顔で頷けば神様は「そうか」と少し考える素振りをして不思議そうに首を傾げた。
私「ふふっ」
神「なんだその眼は。……あ」
私「今度はどうしたんですか?」
神「君、今日はコンビニで荷を受け取る予定ではなかったか? ︎︎このまま帰っていいのか?」
私「あー! ︎︎よくないです! ︎︎ライブのDVD……! ︎︎神様、ありがとうございます!!」
…⋯
あれから私はDVDが楽しみ過ぎてコンビニでお酒とおつまみを買ってしまった。
太りそうだなとやや後悔したけど、これも含めて家ならではのライブの楽しみ方だと思う。
(明日休みでよかったー! ︎︎ゆっくり見られる〜)
私は缶チューハイを飲みながらダンボールを開けていく。
私「〜♪」
神「ご機嫌だな」
私「はい! ︎︎神様のおかげでこうして開封の儀を行えていますから。ありがとうございます!」
にこっと笑えば神様は怪訝な顔をした。
神「開封の儀? ︎︎これが?」
私「あ、すみません。えっと……神様の知っているそれとは別です。こうやって購入したものをワクワクしながら箱から取り出したりすることをそう言ったりもするんです」
なんとなく神様をまっすぐ見られずちらりと目をやれば、神様は眉間に小さく皺を寄せていた。
神「君達人間は時にそのような言葉を簡単に使いすぎではないか? ︎︎『神』『天才』もその類だろう」
私「その通り過ぎて返す言葉もありませんね……」
神「なぜそのような表現をするんだ?」
私「うーん……あくまで私の場合ですけど、語彙力がなかったり気持ちが大き過ぎると大げさな表現をしてしまいます。あとは相手がいる時は好意や肯定の気持ちを伝えたい時、励ましたい時などでしょうか……」
尻すぼみになりながら答えれば神様は小さく唸りながら眉間に指先を当てる。
私「やっぱり失礼ですよね。これからは気をつけ……」
神「いや、いい」
私「え?」
神様は私を制するように片手を出すと、自分を納得させるようにゆっくりと話し始めた。
神「正直なところ私からすれば正しい言葉の遣い方をしなければ言葉の価値は下がる。それに『語彙力がないならば増やせばいいだろう』と思う」
私「はい⋯⋯」
神「だが、今まで色んな人間の願いをきいたり君の生活を見てきて言葉の意味が全てではないとも思ってはいるんだ」
私が先を促すようにじっと見つめれば神様は頭を掻きむしる。
神「なんと言えばよいかわからないが、時に言葉の正確性よりもその奥にある温度感が伝わることが重要視されている気がする……んだが合っているか?」
私「!」
私は少し不安げにこちらを見る神様に力強く首を縦に振った。
私「すごいです⋯⋯! ︎︎ずっと人間やっていても私はうまく言葉にできませんでしたもん」
神「外側にいるからこそ見えてくることもあるからな」
(わ……)
神「どうした?」
私「いえ、なんだか救われた気持ちだなあと思って。ありがとうございます」
神様「大袈裟だな」
私「そんなことないですよ。本当にありがとうございます」
鼻にツンと来たものを抑えるよに笑顔でお礼を言えば神様がじーっとこちらを見た。
神「⋯⋯」
私「な、なんですか?」
神「いや、やけにしおらしいから何事かと思ってな」
私「わ、私だって感傷的な時もあるんですよ」
ふいっと横を向けば神様は「今は見逃してやるか」と言って小さく笑った。
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