☆第二話 異世界転生(獣から人類へ)☆


「………ぅうん」

 正人が目を覚ますと、どこかの森の中らしかった。

 高い木立の間から、雲が浮かぶ青い空が見えて、温かい陽光も差し込んでいる。

「ここは…もう、異世界なのかな…?」

 身を起こして周囲を確かめて、立ち上がろうとして、裸足で気が付いた。

「うわっ、裸だ!」

 肉体は生前と変わりない姿だけど、衣服は何一つとして、身に着けていない。

「…あ、そうか…」

 意識しなくても肉体の変化は解ったし、同時に、煉獄での出来事も思い出せた。

「僕は超人になって…たしか、以前とは別の世界へ 転生したんだっけ」

 そう認識をすると、死んだ事も、雲の上で美しい女神様とナニかあったらしい事も、事実だったと理解が出来る。

「ぅ…」

 そして、金髪美女の恵まれた裸体を思い出してしまい、強い欲求で、部分が固い反応を示していた。

「しかし、完全無敵か…。つまり最悪 食べれなくても死なないワケだ」

 つまり、お金も掛からない。

「おぉっ…それは案外、素晴らしい事なのでは…っ? 前世みたいに、生活の為に会社勤めをする必要もないし…いやむしろ、このまま山の中で、いつまでも好きなように過ごせる…とかっ!」

 そう思いながら、無意識に、安心を求めていたのだろうか。

 周囲に見える木々に、変化が訪れた。

「ん…あれ、樹が 透けて見える…っ!」

 一番手前の樹が半透明になって、向こう側の樹が見えて、その樹もまた透けて、更にその向こうの樹も、また向こうの樹もと、次々に透けて見える。

「…これはいわゆる、透視能力…という事か!」

 自分の周囲が半透明に開けてきて、環境が把握でき、そのままグルりと見回したら、少し離れた場所に崖があって、洞穴も見えた。

「お、取り敢えず 身を隠す場所に、良さそうだぞ」

 野に裸でいるという不安感にも押され、正人は急いだ感じで洞穴へ向かうと、今度は身体に変化。

「…身体がっ! そうか、僕は飛べるんだっけ♪」

 垂直に身を浮かせたまま、正人は木々の間を通り抜け、崖の前へと到着をする。

 目の前の洞穴は、岩に深く穴が空いた感じで、高さは三メートル程だろうか。

「中は…何もいないぞ」

 奥まで透視して、熊とかいない事を確認し、洞穴へ足を踏み入れた。

「…足下が、ヌルヌルしてる感じだな。蝙蝠とか、いるのかな」

 陽の差す入り口あたりに全裸のまま腰掛けて、木々の上を染める青い空を見上げ、なんとなくホっとする。

「………この異世界にも、やっぱり 魔王とか、いるのかなぁ…」

 なんとなく、そんな事も考えたり。

 ボンヤリと空を眺めながら「お腹とか空かないなぁ…」と感じ、単なる生前反応として水が飲みたくなって川へ出歩き、魚なんかを捕って目からの怪光線で焼いて食べた。

「…ん、美味しい…♪」

 陽が沈んだら洞穴で寝て、朝陽と共に起きて、川で魚を捕ったり山菜などを食べたりして、また日が暮れる。

 そんな生活を三日ほど続けながら、生前の「生きる為に勤務していただけの人生」をフと振り返り、現在の自分を考えた。

「…なんであれ、寿命までは不死身らしいし。こんな風に、山奥で静かにノンビリしながら、ふふ…小説家を目指すっていう人生も――っハアァっ!」

 新しい人生を想い、気付く。

「こんな…原始人みたいな生活でっ、どうやって小説を書けば良いんだっ? っていうかアレだっ! そもそもっ、この洞穴じゃあ、小説どころかっ、普通の生活すら…っ!」

 いくら無敵の生命体だとしても、現在の状態は決して文化的な人類のそれではないし、言い換えれば「このままでも別に死なない」というだけの話だ。

「こんなっ、裸で洞穴に生きるなんてっ、動物そのものじゃあないのかっ? そもそも僕はっ、小説家になりたいんだっ!」

 最強無敵の身体を手に入れたとして、それは人助けという、正義の味方としての力であって。

「小説家になるには、小説を書かなければならないっ! 小説を書くには、町とかで最低限の生活が出来なければならないっ! そして町で生活をする為には、最低限っ、何かの職業をっ…はあぁっ! これじゃあっ、生前と何も変わらないいいいっ!」

 立ち上がって、裸のまま頭を抱えて悩乱する正人は、更にハっと気がつく。

「ハ…っ! そ、そもそもっ、この世界って…どういった世界なんだっ?」

 ラノベの異世界転生物などでは、剣と魔法の中世世界へと、よく転生をする。

 そこでは、紙が超高価だったり、本そのものが庶民には超縁遠かったり、そもそも娯楽誌そのものが描写されてなかったり。

「ここは、いったい…っ! と、とにかく…ここがどんななのかっ、確かめないと…」

 とはいえ森の中なので、周囲の景色はアテに出来ない。

 もっと、人間の痕跡を探さなくては。

「どうしよう…。あ、そうか」

『完全無敵の超人にぃ、し・て・あ・げ・る♡』

 あらためて、女神様に言われた事を思い出し、頭で理解した自分の能力を、意図的に実践してみる事にした。

 洞穴から出て、空を見上げて。

「えぇと、こうだったかな…ぉおおっ!」

 再び空を飛ぶ事を意識したら、身体がフワりと地面から浮かび上がって、想像した通りの速度で想像した通りに上昇をする。

 正人はほんの数秒で、高い木立の上まで飛翔をしていた。

「よしっ! ちゃんと飛べる…っ! 飛べてるっ!」

 子どもの頃から想像をした、まさにヒーローの能力。

 森の樹上は緩やかな風が吹いていて、遠くに山の稜線や、蒼い水平線も確認できる。

「山と海か…お、海の方角に集落があるぞ♪ でも、港とかは無いんだな」

 小さな漁村が見えたので意識をしたら、超望遠というか、数キロと離れた村の建物や人々だけでなく、人たちの衣服の繊維までもが、ハッキリと視認出来た。

 人間と思しき生命体は、正人たちと全くと言って良い程に、違いは無い。

 頭髪があって目鼻立ちもハッキリしていて、四肢も体格も生活感も、人間そのものだ。

 表情や感情もあって、意識をすると、楽しそうに笑っている声も聞こえてくる。

 聞こえた言葉も、同時に理解が出来た。

「よく見えるし、聞こえるなぁ…あっ!」

 若い女性たちがみんなで魚を運んでいて、無意識に注視をしたら、衣服が透けて裸体が見えて、更に。

「…うわっ、骨とか内蔵が見えたっ!」

 透視能力が過ぎたらしい。

「な、なるほど…意識しすぎるのも、というか。意識した感じに 能力が使えるのか」

 漁村の建造物は、殆どが木造の一階建てで、陸側に二階建ての少し高い、しかし造りそのものは、さほどに周囲と違いの無い建物が見える。

 物見小屋だろうか。

「…服装とか建物とか、やっぱりラノベっぽいな。ん…?」

 海上を飛んでいる何かの群れを注視すると、小型の翼竜というか、生前の世界にはいない、異形の生物だった。

「うむ。やっぱり、ラノベ世界だな。っていう事は…」

 とりあえず、中世風の文化的な生活は営まれている、と考えて良いだろう。

 となると、正人にとっての問題は一つ。

「紙っていうか…小説とか娯楽とかって、存在してるのかな…?」

 そもそも、出版という文化が存在していなければ、小説家どころの話ではない。

「見る限り、あの漁村は 生活する為の村っぽいし…。もう少し、都会というか、町を探した方が 良さそうだ」

 宙に浮いたまま思案をして、そのままグルりと廻って周囲を意識すると、山の方から不快な気配を感じた。

「ん? なんだろう…あ、もしかして! これが、いわゆる『悪の気配』なのかな?」 

 感じた気配を、意識して視覚化したら、木々の間から黒いオーラみたいな揺らぎが、ハッキリと見える。

「って事は…誰かが危険に晒されているっ!」

 そう理解をすると、考えるよりも早く、身体が動いていた。


「…この辺りか…ぁっ!」

 木々の向こう五十メートル程に、巨岩を背にした、木造の古くて汚い山小屋が見える。

 狭そうな扉の左右には、人相の悪い中肉中背の男が二人、剣を携えてダラダラと周囲を気にしていた。

 男二人からも、そして小屋の中からも、黒いオーラが立ち上っている。

「…悪意の連中だ。あの感じだと、盗賊グループとか…んっ?」

 巨岩の向こうから、三人の男たちがやって来た。

 真ん中の大男が大きな布袋を背負っていて、その袋がモゾモゾと動いていたり、中からくぐもった若い女性の声が聞こえる。

 戻ってきたメンバーに、見張りの二人が言葉を掛けた。

『よぉ、早かったな。首尾は、上々だったらしいな』

『ああ。目を付けてた上玉の小娘、この通り、見事に攫って来たぜ』

 下卑た笑いで袋をポンポンと叩くと、中の少女らしい声が、モゴーっと悲鳴を上げた。

「あれはっ――もしや、誘拐じゃあないのかっ!?」

 その推測は正解であると、小屋へ入っても正人には聞き取れる男たちの会話で、確信を得る。

『ほほぉっ、こいつぁ確かに上物だぁっ! グラン商会のシーデリアお嬢ちゃんじゃあねぇか。ぐっぐっぐ…♪』

『あなたたちっ、こんな事をして、どうなるかおわかりなのですかっ!?』

 少女の声は、凜としていながらも、怯えている。

『どうにもならんさ! 俺らはこれから、漁村を襲い船を奪って、南の街ドンザゥへ逃げるんだからなぁ!』

『お嬢ちゃんも、ついでに村の娘っ子も何人か とっ捕まえて、ドンザゥの奴隷商人にでも売っ払って、金に換えてやるさ。ゲッケッケ!』

 笑い声から、どうやら盗賊団は計七人の男たちで、さっき正人が見た漁村も襲う算段らしい。

「誘拐のうえ、漁村の人たちにも危害を加えるつもりなのかっ! 許さん…っ!」

 正義の怒りに燃えた正人は、裸のまま大地へと降り立って、力強く歩き出し、盗賊団の小屋へと向かう。

「俺の力はっ、こういう時の為にあるのだっ! 俺はっ、正義の味方なのだっ!」

 言いながら、手頃な葉っぱを手にして、歩きながら怪光線で穴を開けた。

「…何だ?」

 茂みからの音に、見張りの二人が気付いて警戒をしたら、裸の青年が姿を現す。

「おいっ、お前たちっ!」

「うわっ、なんだっ!?」

 葉っぱのマスクで顔だけを隠した全裸というイカれた男に、さしもの盗賊たちも一瞬だけど、驚かされる。

「どうやら誘拐のみならず、漁村を襲撃しようとはっ! この俺っ…えぇと…と、とにかく許さんっ!」

 勢い任せの突撃で、偽名が思いつかなかった正人だけど、堂々とした志でビシっと指をさしたその姿勢は、とても美しかった。


                        ~第二話 終わり~

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異世界スーパーマンなのに夢が叶わない! 八乃前 陣 @lacoon

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