第33話 西園寺 愛菜(さいおんじ まな)

「西園寺さーん、今日の帰り、一緒に――」

「ごめーん、ウチ厳しくって……学校帰りの寄り道は無理なんだぁ」


 何度目だろう。こうやってお断りするの。


『な? 言ったろ? 西園寺さんは親が厳しいんだって』

『何人それで断られてるか知ってっか?』

『俺で八人目ー、だろ? イケると思ったんだけどなぁ』

『その自信はどっから出てくんだ?』

 ……がやがや、がやがや……


 全部聞こえてるんだけど……。

 あたしの家が厳しいってなら、いい加減遠慮してくれないかなぁ。

 家が厳しいっていうのは口実だけどね。


『でもさ、あんだけガードが固いってことは、だ』

『うんうん。まだ誰とも付き合ったことないんじゃね?』

『俺が知ってる限り、既に三人はマジ告白で撃沈くらってるよ』

『あー、純白の天使のような西園寺さん♥ 俺色に染めてぇー』

 ……がやがや、がやがや……


 ……全部聞こえてるんだけど。

 なによ『純白の天使』って。あたしは、そんなんじゃないよ?

 そ、そりゃー、まだ誰とも付き合ったことはありませんけども……。

 男子たちは勝手に『あたし』のイメージを作り上げていく。



 そんなある日の放課後、忘れ物を取りに教室に戻った、あの時――



 立ち聞きするつもりはなかったのよ?

 廊下まで男子たちの声が漏れてて、教室入りづらいなって思っていたら……


『西園寺さんってさー、いつもニコニコしてて、絶対怒ったりしなそうだよなぁ』

『彼氏になれたら、毎日癒してくれそう』

『何が好きなんだろうな~。食べ物とかさ』

『パンケーキに紅茶だろ。絶対』

『牛丼とか、めっちゃ似合わねぇよな』

『部屋にはぬいぐるみがいっぱいでさ、クレーンゲームじゃないヤツ』

『本棚は難しい本ばっかでさ、恋愛の仕方もわからないとか初心でさー』

『あ~俺がイチから教えてあげたい~』

『御手洗、さっきから黙ってるけど、どう思う?』


『あ? 呆れてんだよ。お前らなぁ、勝手な理想像ばっか押し付けてんなよ。

 お前らの目は節穴か? その節穴かっぽじって良~く見てみろ。

 西園寺の良さってのはなぁ――』


 ……ざわざわ……



 御手洗くん――



 あの時から、御手洗くんを意識するようになっちゃったんだ。


 ちなみに、あたしはパンケーキよりも牛丼が好き。

 ぬいぐるみは苦手。捨てられなくなっちゃうから増やしたくない。

 本棚に並んでいるのはー……ナイショ♡





 あれは、御手洗くんが長く学校を休む少し前――



『御手洗、最近調子にこいてるんだってぇ?』

『弱ぇくせにイキがってんじゃねーぞっ!』

『その小枝みてぇな腕、へし折ってやろうか? あ~?』


 また始まった……。

 石川くんたちは、隣のクラスの男子としょっちゅう揉めてて、そのイライラをああやって関係ない人にも撒き散らす。


『ぇ……ぃゃ、俺は別に何も……』


 ボカッ☆


「ちょっ……! やめなさいよ!」


「あ~? しゃしゃり出てくんな」

「女子だから殴られないとか思ってんなよ」

「それとも何か? その体で、俺らの怒りを鎮めてくれんのか~? ひゃっひゃっひゃっ」


「……西園寺、大丈夫だから下がってろって」


 ・

 ・

 ・


 次の日、御手洗くんは学校を休んだ。

 その次の日も、そのまた次の日も――。



 週末、配られたプリント。

 絶対に必要なお便りじゃないけど、でも……


「鈴木くんと太田くんってさぁ、御手洗くんと仲良かったよね?」

「ん? ああ、まぁ」

「今週はずっと休んでいて心配でござるなぁ」

「あの、もし知ってたらで良いんだけど――」


 御手洗くんの住所ゲット♪

 さりげなく自然に聞き出せてたよね?


 あわよくば、部屋にお邪魔して、

 散らかったお部屋のお掃除とかしちゃったりして♡


 なんて思ったけど――お留守かな?


 そうだ。せめて、あたしがプリント届けたってアピールしとかなきゃ♡

 プリントの端っこに『まな♡』っと書いて。これで良し!





 週が明けて、やっと会えた――


 御手洗くん、心配してたけど、元気そうで良かった♡



 あれから、ちょっとずつお話できるようになって、

 夜、一緒にお出掛け(肝試し)したりもして、

 これから、少しずつ距離を縮めて――なんてことを思っていた。

 思っていたのに……何なの!?


 あの転校生たちは!!!



 突然現れた恋敵! だと思ったら、神様!?


 御手洗くんと異世界を旅してきた!?


 異世界の温泉で何度も混浴したとか! 羨まし……許せない!!



 ……まだよ。

 まだ負けと決まったわけじゃない。


 なんたって、向こうは神様で? こっちは人間なんですから。





「御手洗くん! おはよ……って、大神さんたちも一緒だったのね」


「西園寺、おはよー」

「おはようなのじゃ」

「ガーッハッハッ! 俺ら裏の湯宿に一緒に住んでっからなぁ~」

「(ふぁ~)」


 月読さんは、いつも眠そうにしている。

 御手洗くんに興味ありそうなことも言うけど、あれは本心じゃない。わかる。

 湯宿には露出多めの天宇受賣命あまのうずめのみことがいたけど、旦那さんがいるらしいし、稲荷神いなりのかみは……まぁ、大丈夫。


 ライバルは、大神さん。天照大御神あまてらすおおみかみ、ただ一人!



「ねぇ、御手洗くん。今度の土曜日、一緒に遊びにいこ? 二人で」


「あー、えっと、土曜日は――」


 御手洗くん……チラッチラッと大神さんを見てる。


わらわたちのことなら気にするでない。月読もおるので大丈夫じゃ」


「そ、そうなのか? じゃあ……いっか」


 何よー。神様の余裕ってこと?

 でも、そんなことでめげてちゃだめよ、あたし!


「嬉しい! それじゃ詳細はメッセするね♡」


 きゃぁー! 誘っちゃった誘っちゃった誘っちゃった!

 心臓飛び出ちゃいそう!

 はぁー、ちゃんと踏み出せた。


 初めてのデート。


 御手洗くんと、デート♡





――あっという間に土曜日――



 約束の時間より早く着くのが基本。って本に書いてあった。OK。十五分前。


 今日のルートは、水族館行って、イルカとペンギン見てランチして、

 それからショッピングモールでウィンドウショッピングしながら、御手洗くんの好きなものとか、いっぱいチェックしなくちゃ。

 それから――


「あれ、西園寺、早いな。待たせちゃった?」


「あ、ううん。あたしも、今来たとこだよー」


「んじゃ行こっか。水族館。俺初めてだわ」

「ふふふっ、あたしもー♡」


 ・

 ・

 ・


 御手洗くんは、クラゲが好き。ヒトデは苦手。


 御手洗くんは、イルカには興味なさそう。ペンギンは好き。でも匂いが苦手。


 御手洗くんは、カニが好き。見るより食べる方。ウニは苦手。食べるのも。


 ・

 ・

 ・


 水族館のフードコートでランチ♪


 御手洗くんの好きなメニュー、あるかな?


 その時、

 『ガーッハッハッ』と、聞き覚えのある豪快な笑い声――



「あれ? スーさん。アマテラたちも……え? なんで?」


「お! ユウキじゃねーか。奇遇だなぁー」

「なんじゃ、おぬしらも魚を観にきておったのか。偶然じゃのぉ」


「あ、あははっ そうね、偶然ねー」


 なんで……偶然? ホントに?


 大神さんたちは、そのまま水族館の順路を進んでいった。


 まあいいわ。さっさとランチを済ませて、次の目的地へ向かおう。


 ・

 ・

 ・


――ショッピングモール――


 御手洗くんは、ブランドには興味がない。安いものが好き。

 

 御手洗くんは、TVゲームが好き。だけど、あたしに気を遣っているのか素通り。


 御手洗くんは、ガチャガチャがちょっとだけ好き。でも、見るだけで回さない。


「オイラ、これ回してみようかな。『きつねうどん』が出たらアタリだなー」


「あれー? イナリ。こんなとこで何やってんだ? 一人か?」


「ユウキー! オイラたち、買い物に来たんだ。みんないるぞ?」


「おぬしら、また会うたおうたのぉ」


大神さん。あははは、偶然、かしら?」


 ……これは、偶然なんかじゃない。


「(御手洗くん、あたしたち、尾行されてるんじゃ?)」


「い、いや。ホントは今日、あいつらのスマホを買いに、ここに来る予定だったから、きっと偶然だろ? 水族館にいたのはビックリしたよな」


 あ………………そうだったんだ。


 神様たち、こっちで生活するのに、必要なものを色々買ったりしなきゃなんだ。


 『わらわたちのことなら気にするでない』って……大神さんたちと、先に約束してたってこと?


 それなのに……あたしは自分のことしか考えてなかった。


 なんか、ダメだな。あたし、ダメだ。

 すごく心が狭くて……醜い。



 ……反省、します。



「大神さん! スマホ、もう買ったのかな? 良かったら一緒に選んであげる」

「ぉ……いいのか? 西園寺」

「うん。他にも買い物あったら一緒に、ね?

 デートはまた、いつでも出来るし(……出来るわよね?)」


 チラッと御手洗くんに視線を送ってみる。


「あ? ああ。そ、そうだな」


「おお、マナよ。それは助かる。が……、スカイツリーの時間は大丈夫かえ?」


「え?」


 どうして、デートコースの次の目的地を知ってるのよ……


「あ」


 御手洗くん? 目が泳いでるわよ?


「あは、あはははは! いや、まさか、行く先々へ付いてくるとは思わなくって」


 やっぱり偶然なんかじゃなかったのね。


「…………もぉ」



 それでも、あたしは負けない。

 絶対、絶対! 負けないんだから!!

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