第31話 転校生
肝試しの翌日、神楽丘学園の裏手は巨大なフェンスで覆われた。
皆は、ついに旧校舎の取り壊しが始まったと思っているようだが、
俺だけは知っている。
きっと、
それが完成したら、また、
俺はその日が来るのを心待ちにしていた。
再会した時、第一声は何て言おうか。
前にもこんなことを考えたことがあったなと、思い出す。
あの時は、
今度は自重して、何かカッコいいセリフの一つや二つは言ってやりたいな。
そんなことを思いながら、あっという間に数日が過ぎていった。
◇
ある朝、ホームルームでの担任の第一声。
「えー、今日はね、珍しいことに、三人の転入生を迎えることとなりましたー」
高校で転校生が来るというのは、確かに珍しい。
それが三人ともなると、よっぽどだ。
「えー、それぞれ事情があるようですが、皆さん、仲良くするように。
えー、それでは、三人とも! 入ってきてー!」
担任は教室の外に聞こえるように声を上げた。
ガララッ! と勢いよく開け放たれたドアが、ガタッと外れる。
なんだか既視感がある。
俺も前はよくドアを外していた。
「おっとと……あぶねぇなぁ」
ガタゴトとドアを立てかけてから、大柄で筋肉質の男が入ってきた。
「(え……スーさん?)」
髪の毛は黒く短髪になってて、肌艶も若々しくなってはいるが、
紛れもなく
神楽丘学園のブレザーを堂々と着崩している。
次に現れたのは――
ポニーテールに束ねられた黒髪。若々しく、潤った肌艶。
しゃなりとした仕草で、教壇へと進む。
やはり学園のブレザーのようではあるが、若干アレンジされてないか?
そして何よりも、胸が控えめになっている!?
しかし間違いない。
そして最後に現れたのは――……誰だ?
腰まである艶のある黒髪。前髪パッツンが特徴的だが、
よく見ると、
もしかして……
「はい、それじゃあね、まずは三人に自己紹介を、ね。してもらおうか。
こっちの男子のキミから、お願いできるかな?」
「うっす」と小さく返事をした
【 須佐野 漢治 】
書き終えると「よし」と満足そうに頷き、向き直る。
「俺ぁ、
おおーと沸き起こる拍手喝采と、女子連中の黄色い叫び声。
【 大神 照子 】
「
太陽のような笑顔に、男どもが歓声を上げる。
「付き合ってくださーい」などと声を上げる不届き者までいやがる……どいつだっ!?
騒然となる教室。先生が教壇を叩いて落ち着かせる。
最後に、
【 月読 命 】
「
小声ながら、教室の隅々まで染み渡るような澄んだ声。
まるでさざ波のような歓声が教室を駆け抜けてゆく。
「はーい。それじゃあね、三人の席はひとまず一番後ろね」
あ、なるほど。
今朝、俺の並びに机が補充されてたのは、こういうことだったのか。
三人がずんずんと近づいてくる。
先頭を歩くのは
近づくにつれ、にんまりと笑みを浮かべながら……
俺も笑顔を浮かべて、手を上げていた。
パーン☆
教室に響くハイタッチの音。「おおー」と男子たちがどよめいた。
次に来た
「あ……」それ以上、声が出なかった。
続いて、
そして、いつも通りのホームルームが始まった。
◇
休み時間のたびに、教室の後ろ側は満員電車のようにすし詰め状態になる。
「大神さーん! お住まいは?」
「月読さまーこっち視線くださーい」
「照子って呼んでもいいか?」
……やいのやいの……
そんな有象無象に俺は窓際へと押しのけられていた。
「またあれ言ってやったらどうだ?」
「なんだよスーさん、あれって」
「ほれ、『アマテラは俺の女らぁ!!』ってやつよ。くっくっくっ」
「あ! や、やめろよ」
そんなことを言ってど突き合っていると、不良三人組が割り込んできた。
「オイ、転校生! 随分といい体格してんじゃねぇか」
先陣を切ったのは学ランだ。
「そんなザコと仲良しゴッコか~?」
リーゼントが続く。
「ちょっと俺らに付き合ってくれよ~」
もう一人、ねじり鉢巻きだ。
「ん? 何に付き合えって?」
「(スーさん、スーさん、絶対に手を出すなよ。あっちは普通の人間なんだから)」
「(わーってるって。心配すんな)」
「何をコソコソしてんだ~? コラ!」
あれ? ツチノコ騒動で芽生えた連帯感は……
ちょっとだけ仲良くなれたと思ったのは錯覚だったのか?
「便所虫はすっこんでろっつーの!」
「お手洗いくんはお手洗いくんらしく、便所に引き籠ってろ」
は?
便所虫……? お手洗いくん……?
プッチーン☆
「はぁ~? だれが便所だってぇ~!? ああ~!?」
近くの机を、三馬鹿トリオとの間に引き寄せる。
「てめぇら、順番にぶっ潰してやっから、かかってこい! ゴラァ!!」
ドンッ!
腕相撲スタイルで誘う。
「お? いい度胸してんじゃねぇか」
「教えてやらなくちゃだめか? 身の程ってやつを」
「その小枝みてぇな腕、へし折ってやっぞ」
バンッ☆
ダンッ☆
ベッターン☆
「(お、おい、ユウキ……そいつら、腕、大丈夫か? 骨やっちゃってねぇか?)」
はっ!
昔から、名前を弄られるとキレちゃうんだよなぁ……。
「あー、お、お前ら、大丈夫? 腕……」
「ってー……御手洗が、こんなに強ぇとか」
「今まで雑魚のフリしてたのかぁ? っつー……」
「腕、腕がー……」
「大丈夫そうだな。
お前ら、言っとくけどな、ここにいるスー、須佐野さんは俺より強いからな。
舐めた態度とってたら、自分の足で帰れなくなるぞぉー」
「ヒッ……す、すんませんでしたー!」
「み、御手洗、今までごめんな?」
「腕がー……」
幸い、こっちの騒ぎに気付いた者はいないようだ。
遠巻きに眺めていた女子は何人かいたようだが、男子が腕相撲でじゃれ合ってる程度にしか見てないだろう。
悪目立ちはしたくないからな――。
しかし、俺のそんなささやかな願いは、この日の昼休みに砕け散った。
◇
昼休み――。
俺の昼飯は今日も80円のおにぎりだ。
いつものように、鈴木と太田が俺の席に集まってくる。
でも、そうだ。
そう思ったが、すでに人だかりができている。
誰が案内するのかジャンケン勝負だーとか勝手に盛り上がっている。
「すまぬが、昼食は持参しておるでの」
「ふふっ。ユウキよ、お主の分もあるぞよ?」
『なにー!?』
『御手洗の分があるって言ったか!?』
『なんだなんだ!?』
『お前らどういう関係なんだー!?』
……ぎゃーすかぴーすか……
「騒がしいのぉー。ユウキは、
し――ん。
一瞬の静寂。
『うわー!』
『うそだー! うそだといってくれー!』
……ぎゃーすかぴーすか……
『月読さん! 俺は最初から君だけを見ていた!』
『月読さん!』『月読さん!』『月読さん!』
ターゲットを変える男子ども。
そうだな。
青春は短く、儚いもの。
一秒たりとも無駄にしている暇は無いのだ。
すると、
「ユウキ殿。お慕い申しております」
「は?」
『はぁ~!?』
『今! 今なんと!?』
『またかよ!!』
……ぎゃーすかぴーすか……
「ちょ、ちょっと待て。今日、初対面みたいなもんだよな?」
「
頬を赤くする
「ちょ、ちょっと待ちなさいよー!」
男子どもの壁が割れて、姿を現したのは……西園寺。
「あなっあなたたたたち、……(深呼吸)……御手洗くんとは、どういう関係?」
ビシっと指をさしてポーズを決める西園寺。
え? なんでお前まで出てくる?
……いや、なんとなく想像はつくけど……。
「ほほ~ぅ。なるほどのぉ~。おぬし、名はなんと申すのじゃ?」
「え? あ、あたしは……
「よしよし、マナよ。そなたも共に昼食にしようぞ。込み入った話は追々の?」
そうして、男子どもが嘆き散らかすのを横目に、豪勢に並べられた昼食をいただくのでした――。
悪目立ち、したくなかったんだけどなぁ。
どうなる? 俺の学園ライフ!
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