第23話 記憶の断片

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 赤……黒……暗く深い闇……

 そして、全身に纏わりつくような、禍々しい空気。


 須佐之男命すさのおのみことの背中が見える。


 の前を歩いているようで――走っているようでもある。


 すこし先には、天照大御神あまてらすおおみかみの後ろ姿もある。


 それに、もう一人の女神――知っている。月読命つくよみのみことだ。


 俺たちは、赤く黒く暗いどこかを急いで移動しているんだ。


 向かう先には洞窟が口を開けているのが見える。


 その洞窟のずっと奥から、かすかな光が見える。


 この禍々しい空間からの出口なんだ。


 みんなは洞窟の奥へと進んでいく。


 しかしだけ、洞窟の前で立ち止まる。


 須佐之男命すさのおのみことが振り返り、何かを言っている。


 断片的にしか聞き取れない。


 『タジー……友……いつの日か……きっと』


 そうか。

 ここで俺たちはお別れするんだ――


 力強く握手を交わし、肩を叩きあう。


「スー殿、アマテラ様を、アマテラを頼む」がそう言った。


 須佐之男命すさのおのみことは頷き、ゆっくりと背を向ける。


 その向こうから、何かを叫びながら駆け戻ろうとする天照大御神あまてらすおおみかみ

 しかし須佐之男命すさのおのみことに、がっしと捕まれ、洞窟の出口へ向かって引きずられていく。


 『なぜじゃ……おぬしが…………、一緒に戻ると…………タヂカラー!!』


 タヂカラ……?


 視界が歪む。


 急激に体力が、気力が……抜けていく。


 最後の力を振り絞り、巨大な岩の壁で洞窟を塞ごうとしている。


 文字通り、全身全霊。全ての力と魂を込めて、大岩を動かす。

 全身の骨が軋み、至る所の筋が断裂していくのがわかる。


 あぁ、これはもう――はここで終わる覚悟ができていたんだ。


「すまぬ、アマテラ……。俺には、こうするしか………………」


 洞窟を塞いだ大岩には、の手形がくっきりと残っているのが見えた。


 なんで岩に綺麗な手形が残るんだ……?


 の意識が闇に呑まれて行く中、

 俺は、そんな、どうでもよさそうなことを疑問に思って――


 ――

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「――でな、あやつめ、生意気にも水の中に三つの首を隠しておったのじゃ」


 天照大御神あまてらすおおみかみの声がする。


「そんじゃ三つ首じゃなくて、六つ首だったのか?」


「いやいや、それがじゃ。一つ首を飛ばすと二つ、三つ生えてきおる。

 キリがなくてのぉ。ついつい本気を出しそうになってしもうたわ」


 まどろみがふっと剥がれ落ちた。


 そうだ。


 俺たちは二手に分かれて、ヒドラ討伐に向かったんだ。

 天照大御神あまてらすおおみかみの方も、倒せたみたいだな。


「湖……干上がったりしてないだろうな。アマテラ」


「だ、大丈夫じゃーって、おお、ユウキ! 目覚めたか!」


「ここは――宿屋か」


 宿泊している艶月亭えんげつていの部屋だった。


「あ、スーさんが運んでくれた……のか?」


「おうよ。急にぶっ倒れるから、焦ったぜぇ」


 ぐぐぅ~と腹が鳴った。


「あはっ、あははははっ。フータじゃないけど、腹減っちゃってもう」


「ガーッハッハッ! その様子じゃ大丈夫そうだな」


「そうじゃな。では、皆で参ろうぞ!」


「え? え? どこに?」


「宴じゃ、宴! 皆、街を救った英雄の登場を待ちわびておるぞ!」


 俺たちは艶月亭えんげつていのホールへと向かった。





 扉に手をかける前から、向こうの熱気が伝わってきた。


 笑い声に口笛、手拍子、それに調子っぱずれな楽器の音。


 思いきって扉を押し開けた瞬間――

 音と熱と匂いが、どっと押し寄せてきた。



 艶月亭えんげつていのホールは、

 立ったまま酒を飲みかわす者も多く、超満員状態だった。


 ステージ上では、ちぃパイを露わに天宇受賣命あまのうずめのみことが舞っている。

 投げ込まれた金貨がステージの床を覆い、灯りを受けてきらきらと波打っていた。



「英雄たちのご登場だぞー!!」



 扉の近くにいた酔っ払いが叫ぶと、それに呼応するようにホール全体が震えあがった。

 大きな歓声が壁を、天井を揺らす。皆、木のジョッキを掲げて何か叫んでいる。


「ささ、英雄たちも飲んで飲んで!」


 気づけば、泡立つジョッキが俺の手にも握らされていた。


 ……どう見ても酒だよな、これ。

 ソフトドリンクを注文する雰囲気ではない。


『それでは改めましてー! 街を救った英雄たちにー! カンパーイ!!!』

『わぁぁああああ!!!』『おぉぉおおおおお!!!』


 もう完全に飲み込まれている。


 俺たちもジョッキをぶつけ合った。

 豪快にイッキ飲みする須佐之男命すさのおのみこと

 天照大御神あまてらすおおみかみは、控えめにふた口、三口。


 ……異世界だし、今くらい良いだろう。

 俺もジョッキに口をつけた。


 初めての


 空きっ腹に酒はヤバいと聞いたことが……



@@@



 そのあとの記憶は、飛び飛びだ。


 料理の山を運んでは平らげる稲荷神いなりのかみ風神かぜのかみ

 その山に向かって「俺にも喰わせろ!」と飛び込んでいく俺。


 ガハハと笑う須佐之男命すさのおのみこと


 ちぃパイを晒したまま抱きついてくる天宇受賣命あまのうずめのみこと


 冒険者たちに囲まれる天照大御神あまてらすおおみかみを見て、乱入していったような……。


「アマテラは俺の女らぁ!! 話がしたいなら俺を倒してからにしれらろぉ!!」


 俺が何か恥ずかしいセリフを吐いて……

 驚いたような、安心したような笑顔を見せた天照大御神あまてらすおおみかみ


 それから、押し寄せた冒険者たちと腕相撲大会が始まって、次々と瞬殺して……


 そうだ。最後に須佐之男命すさのおのみことと勝負した。

 勝敗の行方は…………思い出せない。


 そこで記憶は途切れている。



 気が付くと、艶月亭えんげつていのホールの床で寝ていた。


 瓦礫と化したテーブルがひとつ……。


 何人もの冒険者たちが同じようにゴロ寝している。


 天照大御神あまてらすおおみかみは、ボックス席で稲荷神いなりのかみの尻尾を纏って寝息を立てている。


 姿は見えないが、聞こえてくる豪快なイビキは須佐之男命すさのおのみことに違いない。


 そんな中、隅っこの席で一人、盃を傾ける老人の姿が目に留まった。

 老人は俺の視線に気付くと、ちょいちょいと手招きをした。



@@



「よう、若いの。ちっとは落ち着いたかのぉ」


「ん、んーまあ。じいさんは元気だなぁ。みーんな潰れて寝ちゃってんのに」


「ほーっほっほっ。酒を飲んでも呑まれるなってな。

 ところでお前さんと一緒にいる須佐之男命すさのおのみこと――あの男の昔話なんぞを知っとるかの? 良ければ、年寄の昔語りに付き合わぬか?」


「スーさんの……昔話?」


 この老人も、なにかしらの神様なのかな?


「目も覚めちゃったことだし、聞かせてもらおうかな」


 俺は老人の対面に腰を下ろした。

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