第17話 帰らぬ光
「ただいまー」「帰ったぞ~」「~♪」
油揚げの村を朝早く出発した俺たちは、昼前には神楽の湯宿に到着した。
腰の具合は良くなったみたいだ。
「おー! 帰ったか! お? 随分と楽しんできたみてぇだな」
流石は
この漢の楽しみといえば、一も二もなく戦闘だ。
俺が更なる力に目覚めたこともお見通しなのでそう。
「目を見りゃわかるぜ。お前ら――
物見遊山がてらに旨いもん、たらふく喰ってきたって目だ」
……ダメだ。
いっこも当たってない。
「アマテラは?」
「姉者か?
「そっか……」
『ちょっと様子を見てくる』と言っていたから、昨日のうちに戻っているものだと思っていた。
まあ、今日か明日には戻ってくるだろう。
俺たちは昼間っから露天風呂に浸かり、旅の疲れを癒した。
なるべく
♨カポ~ン♨
午後からは特訓。
病み上がりの
以前は少ししか押せなかった大岩も、今はどこまでも動かせるようになっている。
「おお。またパワーアップしたんじゃねぇか? 早いとこ勝負してぇなー」
「無理しないでくれよ~。また腰が鳴っちゃうから」
特訓のあとは、また露天風呂に浸かり、豪華な夕食を愉しむ。
贅沢な暮らしだよなぁ。
でも、
神々と出会って、こんな場所に来て、まだひと月も経っていないのに、
いつの間にか、家族と一緒にいるみたいな感覚になっていたことに気付いた。
そういえば、元の世界での俺はどういう扱いになっているんだろう。
行方不明だろうか。
本当の家族や、学校の奴らに心配されてたりするだろうか。
いつか帰ったときに、どう説明しようか――……
少しだけ考えて、考えがまとまらないまま、先送りすることにした。
◇
油揚げの村から帰ってから数日が過ぎた。
このまま帰らず、俺たちだけこの世界に取り残されるなんてことはないだろうな……と、心配が膨らんでくる。
モブ神様たちも頑張って稼いできてくれているが、神楽の湯宿の滞在費もそろそろ底をつくかもしれない。
「なぁ、スーさん。アマテラから何か連絡とかないのか?」
「ん? 連絡? 手紙とかか?」
「いや、もっとこう、念話的なもので話せたりしないの? 神様同士って」
「んな便利な能力はねぇよ。お前らはあれだろ? すまあとなんとかってやつで」
「スマートフォンな。うーん……どうしたもんかなぁ」
一応、俺『案内役』ってことだったし、
「よし! 今日はギルド行って、稼げるクエストを受けよう!
俺も戦えるようになったんだし。あ、そうだ、あの石にギャフンと言わせてやるぜ。フフフっ」
◇
「こんちはー、久しぶりっすー」
久々の冒険者ギルドは、変わらぬ雰囲気だった。
テーブルを囲む冒険者たち。掲示板でクエストを吟味する冒険者たち。
そして、ちょっと暇を持て余してそうな受付嬢。
「あら、久しぶりですね。他のお仲間さんたちは毎日せっせと稼いでますよ~?」
俺たちがサボってたみたいに、チクリと刺してくるじゃないか。
「まぁ、色々あってね。それよりも――」
後ろの棚に目をやると、鎮座してやがった。鑑定石さん。
「俺も、ちょっとだけレベルが上がったと思うんだけど、鑑定してもらえるかな?」
「あー、はい、いいですよぉ」
痛々しい者を見るような視線を投げてくれるじゃないか。
しかし……くっくっくっ。目にもの見せてくれよう!
「では、どうぞ、こちらの鑑定石さんに、手を置いてください」
よし、いざ勝負の刻!!
鑑定石さんに手を置いた瞬間、かつての
【ぉお? お前、こんな短期間で随分と伸びたじゃねぇか!
これならBランク、いや、Aランク認定ってとこだな! チッ】
おい、今、舌打ちしなかったか? まぁいい。
「ふっふっふっ。俺の中で眠っていた獣が目を覚ました。それだけのことさ」
いつの間にか、ギルド内にいた冒険者たちも集まってきて、一時騒然となった。
「それじゃ、金になるクエストを出してもらおうか。
俺たちの実力に見合ったクエストを、な(にやり)」
そうして出された魔獣討伐のクエストを、俺たちは難なくこなしていった。
◇
太陽を司る神だけあって、不在が続くと光が消えたようだ。
今日は久しぶりに、
しかし、今一つ力が入らず、何度も投げられてしまう。
「どうしたどうした? お前、日に日に弱くなってってねぇか?」
「……んー、あぁ」
「……姉者が戻らないのが、そんなに気にかかるのか」
「そんなんじゃ! ない、けど……」
「そんな腑抜けた顔してっと、姉者が戻ってきたら笑われちまうぞ?」
「……戻って……くるかな」
「そりゃ、そのうち戻ってくるだろうよ」
「『そのうち』っていつだよ。俺たち、このままこの国に置き去りなんじゃ……」
「んなわけねぇだろ。考えすぎるな! ほら、もう1本、全力でこい!
余計なこと考えずに、力を出し切ってみせろ!」
そうは言われても、考えてしまう。
置き去りにされたとか、そういうことじゃない。
俺は、
あの高飛車で高慢ちきな高笑いを聞きたいだけなんだ。
「うぉぉおおおお!」
「そうだ! もっと本気でこい! もっとだー!!」
モヤモヤした思いを振り払うように、
そこへ、
「お~い、天照様が戻ったぞぉ~」
!?
「どおりゃぁぁああああ!」
「な、なんだとぉ~!?」
◇
何日ぶりだろう?
第一声は何て言おうか。
もう帰ってこないと思ったとか、文句のひとつでも言ってやろうか。
それとも――
「アマテラ!」扉を開けるのと同時に叫んだ。
「おー、ユウキよ。久しぶりじゃのぉ~。ようやく戻って――」
色々言いたいことはあった。
でも、
俺は――
無言のまま、抱きしめていた。
ぎゅっと力をこめて、
「アマテラ――」
「こ、これ、ユウキ……ど、どうしたというのじゃ?」
はっ! と我に返った。
慌てて
「あ……ご、ごめん。その、あまりに帰りが遅いから、し、心配してたんだ」
「そ、そうか、心配してくれてたか」
そこへ、
「おー、姉者。随分遅かったじゃねぇか。ユウキがしょぼくれて大変だったんだぞ?
なあユウキ? なんだ、そんな隅っこで、まだむくれてんのか?」
「…………」
視線を逸らして誤魔化そうとするが、これはもう、誤魔化せるレベルではない。
「ふふっ。皆にも心配かけたようじゃのぉ~。この異ノ国という所は、どうにも時間軸がひねくれておってのぉ。おぬしたちのいるここに戻るのに、一苦労じゃったわ」
「時間軸?」
『不滅の魔法少女』と呼ばれている薫子を思い出した。
遠い未来から、遥か昔の異ノ国に飛ばされてきて、今もどこかにいるという……。
「アマテラも、大変だったんだな」
「それはもう大変じゃったぞ。
そうじゃ、ほれ、土産を持ってきたぞ。イナリが喜びそうな……、油揚げじゃ」
「あ、アマテラ……それ『油揚げ』じゃなくて……」
「ぁー……『アブラーゲ』じゃんか……オイラ、それは、ちょっと……」
「スーさん、味見してみろよ」
「なんだ? イナリが飛びつかねぇってのは珍しいな。そんじゃ遠慮なく――」
俺は
・
・
・
ゲ■■■自主規制■■■自主規制■■■自主規制■■■
爆笑の渦に包まれる神楽の湯宿。
ようやく、以前の日常が戻ってきた。
初めて見る、
それを見て、腹を抱えて爆笑する
こんな日が、続いて欲しいと心底思った。
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