第15話 油揚げを求めて
「アイタタタタ……こいつぁキツイな」
神楽の湯宿の部屋で、
「……ったく、無茶しすぎなんだよ」
今朝の特訓で、何度目かの取り組みのときに
「俺も歳をとったもんだなぁ。まさかユウキにやられるとは、な」
「いやいや、疲労が溜まってたんだろ? 毎日の風呂でもザバザバ暴れ続けてたし。
ちょっとじっとしててよ」
薬屋で買ってきた湿布をべたりと貼ってやる。
「おお~ぅ。こいつぁ効くなぁ~。スーッとしていい感じだぜ」
その姿勢でキメ顔されても、様になってないがな。
「今日はこのまま寝てろよ。俺たちはちょっと出かけてくるから」
「おう、そうさせてもらうぜ。気をつけて行ってこいよぉ」
俺は肩をすくめて、部屋をあとにした。
◇
「油揚げ♪ 油揚げ♪」
その上を、
「まさか、異ノ国にも油揚げがあるなんてなぁ~。
オイラ、想像しただけでヨダレが止まらないよぉ~」
「こっち来てから、豆腐だって目にしてないのに、本当にあるのかよ?」
すると、
「風の噂に間違いはないぜ!」
「ふ~ん」
今回は俺と
――数日前――
「
おぬしらは、好きにしておるがよい。
ユウキよ、強くなったとはいえ、無茶だけはせぬようにな」
そう言って、
そして、
仕方なく、三人で出かけることにしたのだ。
「油揚げは~♪ 狐の正義♪ もう~、油揚げしか勝たん!」
いつになく上機嫌な
◇
村に到着した俺たちは、唯一の油揚げ職人だという男の元を訪ねた。
「すんませーん。こちらで、油揚げが頂けると聞いてきたんすけど……」
「油揚げ♪ 油揚げ♪」
『油』と書かれたのれんを潜ると、白ひげの老人が一人。
「ほう……あれを食べたいか……だがなぁー、食材を切らしていてなぁ」
「食材? 何が必要なんだ? 俺たちでどうにかできるなら採ってくるけど」
「ほう……そうか。お前さんたち、冒険者か。そんなら頼めるかの」
冒険者になら頼める? 少し、嫌な予感がした。
「な、何が必要なんだ?」
「ほれ、あっこに見える山にな、イノシシがおるで。そいつの胃袋が必要なんじゃ」
指さす方を見ると、森に囲まれた小高い山が見えた。
「イノシシの……胃袋? 油揚げの食材、だよな?」
「そうじゃよ? あれがなきゃ、どうにもなんねぇべ」
異ノ国の油揚げだからなぁ……作り方も違うんだろうなぁ……
「わかった。そんじゃ、ちょっと行って獲ってくるよ」
「最近は、魔獣化してるそうじゃけ、気ぃつけてのぉー」
老人は別れ際にサラリとヤバいこと言ってきた。
魔獣……。
俺を殺しかけた熊の魔獣が脳裏をよぎった。
「リベンジ、させてもらおうじゃねぇか」
体の内から力がこみ上げてくる。
怖いはずなのに、笑っている自分に気づいた。
「俺もスーさんと同類になっていくのかなぁ」
◇
「油揚げを食いにきて、まさか魔獣退治する羽目になるとはなぁ」
森の奥へ進むと、不穏な空気がどんどん濃くなっていく。
「イナリ、フータ、周囲を警戒しててくれよ」
「わかった」「アレじゃねぇか?」
「よし……え? アレ?」
「ヤバ! デカ過ぎじゃね!?」
熊の魔獣よりも、一回り大きく見える。
「こっち来るぞ!」
その巨体は、赤いオーラを揺らめかせて、木々を押し倒しながら迫ってきた。
しかし、その突進は、あまりに直線的で、容易に躱すことができた。
「なあ、ユウキ……勝てる? あんな大きい魔獣に、勝てる?」
心配そうに声をかけてくる
「ああ。ヤツの攻撃を喰らいさえしなければ、な」
「それでか?」
俺は、以前『初級者応援キャンペーン』で買ったナイフを握っていた。
「…………」
「ユウキ! そっち行ったぞ!」
最小限の動きで躱しながら、ナイフを突き立てる。
ガイン☆
まるで鉄の板に突き立てたような感触だ。手が軽く痺れた。
「あれ? 勝てないかも?」
イノシシの魔獣は標的を代えて、
「イナリ! 避けろよ!」
声を上げた瞬間、イノシシの魔獣と目が合った。
矛先をこちらに向けられたのがわかる。
こっちが避けなきゃ、と思った瞬間、脚がもつれた。
イノシシとの距離、スピード。崩れた姿勢からの回避行動。
色々な思考がごちゃ混ぜになる。
「ヤバ(い)……避け(られない)……死(ぬかも)……」
次の瞬間、俺の身体は宙に浮いていた。
弾き飛ばされたのではない。
ふわりと浮いていた。
飛んでいた。
「(ふぅ~間に合った。てか成功するとは思わなかったぞ)」
頭の中から、
「フータか? なにが起こったんだ!?」
「(合体だよ、合神って言うのが正しいんだっけ?
懐かしい風を感じてたから、もしかしたらって思ったけど、うまくいって良かった)」
合体……合神!? 俺の中に
よくわからないが、とにかくこれで……
「これで、やれるのか!?」
「(そいつぁ、ユウキ次第だな。俺は力を貸してるだけだから)」
やっぱりよくわからない、いや――
なんかわかるような気がする。なんだろう、この感覚。
理屈はわからない。でも、できると確信していた。
イメージだ。
イメージするんだ。
風のように宙を舞い、風の刃をナイフに宿し、敵を切り裂く。
どんなに硬い体も、一刀両断――
スパ――――
ズル、ズズン……。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
気が付くと、イノシシの魔獣は首を切り落とされて沈黙していた。
「す、すっげー……イメージどおりだ……」
そして、スイスイと空を飛べる快感。重力からの解放感がたまらない。
「(もういいだろ? 離れるぜ。これ、腹減るんだからさ)」
空中で、パッと隣に
途端に重力に引かれて落下――
ドサッ★彡
「あだっ! お前、いきなりそりゃねぇだろー」
腹が減るというだけあって、相当に何かの力を消耗する技だったのかもしれない。
「でも、助かったぜ。フータ。お前スゲー技もってたんだな」
「ああ? 何言ってんだよ。あの技は(ぐぐぅ~)。あー、ダメだ。腹減ったー」
俺は
「さて、捌き方とかわかんねぇし、このまま持って帰るか。
あ、でも血は早めに抜いた方が良いんだっけ? こういうのって……」
今にもかぶりつきそうな
イノシシの後ろ脚をロープで縛り、木に吊るしてみた。
◇
「おーい、じいさん。イノシシ獲ってきたぞー」
ズズーン。
「ん、帰ったのか……って、何じゃこりゃー!?」
「え……こいつ、イノシシじゃないのか?」
「い、いやぁー……こんなバカでかいイノシシ、初めてじゃけぇ……
これを、子ども三人だけでかぁ……
冒険者ちゅうのは、なんともはや……たいしたもんだぁ」
「そんじゃ、これで、油揚げ、作ってもらえるな?」
「うむぅ。それなんじゃがのぉ……まさか、こげな直ぐに獲ってくると思わなんだが、もうひとつ必要な食材があっての」
「なんだよ……異世界クエストあるあるだな。いいぜ、また採ってくるから」
「いや、それがの……ほれ、お前さんの後ろの畑」
振り向くと、枯れかかった草がしょぼしょぼした畑が広がっている。
荒れ放題だ。
「『月豆』ちゅう、豆なんじゃが。不作続きでのぉ……」
すると、
「これなら、オイラがなんとかできそうだ」
そう言って、自信たっぷりに笑ってみせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます