第11話 選ばれた男
その村は、山間に佇む小さな集落だった。
村の中央を流れる小川を挟むように、いくつもの木造の家屋が立ち並んでいる。
その向こうには田畑が広がり、のどかな風景がどこまでも続いていた。
「こんな平和そうな村で、本当に魔物の被害とか出てるのか?」
俺が周囲を見渡しながら呟くと、
「この村、なんかおいしい匂いがするぞ! 焼き魚かな? それとも焼き芋?」
「イナリは食い物のことしか頭にないんだなぁ~」
俺が呆れていると、
「ガーッハッハッ! 平和な村なら、飯も酒も楽しめるってもんだろ!」
「ユウキよ! 早く荷物を持って来ぬか! 村人たちが集まっておるぞ!」
「早くって言うんなら、自分の荷物くらい自分で持てよなー!」
俺は今、二人分の荷物を背負っている。
「ジャンケンで負けたのは、おぬしじゃ。しかも、自分から勝負を挑んできたのであろう?」
たしかにそうだが、あれは――
◇
小一時間ほど前のこと。
「村はまだかのぉー。いい加減疲れてきたのぉー。
そうだ、ユウキよ!
色目ってやつだろうか。
「アホ抜かせ! 何が悲しくて他人の荷物まで……あ、そうだ!
ジャンケンで負けた方が勝った奴の荷物を持つことにしようぜ!!」
・
・
・
◇
その結果がコレである。
「おい、フータ。後ろからちょっと押し上げてくれよ。
できんだろ? お前の風でちょろっと」
「嫌だよ~。そんなことしてたら、腹減るじゃんか。子どもに頼るなよな~」
くっ。
確かに見た目は子どもだが、お前、それでも神様だろが?
ようやく村の広場の入り口が見えてきた。
そこまで、あとちょっと、最後の上り坂が、
疲れ切った俺の足腰に追い打ちをかける。
「ひぃ~、ふぅ~、ひゃぁあ~。よ、ようやく着いたかぁ~」
入り口の門をくぐると、広場に集まった村人たちが
「いやぁ、なんと美しいお方じゃけぇ」
「まるで天女様じゃあ」
「肌艶も若々しくてぇ」
「お天道様みたいな笑顔じゃのぉ」
「オラの女房になってくんろ!」
「いいや、儂じゃ~!」
「歳を考えろ、じじぃ共! オレんとこさ嫁げば、ええ思いさせてやるけぇ~」
……やいのやいの……
「皆さまのお気持ちはとても嬉しいのですが、
「なんと!? すでに殿方が」
「なんじゃ~、ぱっとせん殿方じゃのぉ」
「こげな麗しい奥方がおってなぁ」
は?
殿方?
奥方?
何を言って――
すっと俺の隣に寄りそった
「
この先、いかなる
いかなる国へ赴こうとも――
生涯、傍らに置くのは、このお方ただ一人、と」
村人たちが悲嘆に暮れる中、
「(こういう連中はしつこいゆえ、テキトーに話を合わせるのじゃ)」
お、おう。
そういう、こと、だった、のか。
しかし、この状況――
腕に押し付けられた豊満な胸♡
露天風呂で見た裸体がフラッシュバックしてくる。
耳にかかる甘い吐息……。
そして、密着してみて改めて実感する。
俺よりやや低めの身長差が、神様と凡人の距離感を狂わせる。
「(ちょ、おまっ、ち、近いって)」
村人たちが一瞬嘆くのをやめて睨みつけてくる。
「(これ、黙らぬか。村人に聞かれるではないか)
なにを今さら照れておるのじゃ? 旦那様は♡」
だ、旦那様――旦那様――旦那様――……
なんだ!? この胸の高鳴りは!?
硬くなった首をギギギと回して
演技なのだろうが、頬が赤くなっている。
いや、そんなはずはない。神様だぞ?
どくんっ♡
――神様だとしても、俺は今、一人の女性として
その時、チラリと上目遣いで俺を見上げる
ぐはっぅ!
なんという破壊力!?
慌てて首を回して顔を逸らしたが、高鳴る鼓動は抑えられない。
そんな俺の動揺を他所に、希望を失った村人たちはバラバラと解散していった。
ただ一人、村長らしき老人を残して。
そして、するりと俺の腕は解放された。
いつもの声色に戻る
「そなたが、依頼を出した村長じゃな?」
「いやはや、村の若い衆がお騒がせしました」
若くない衆もいたぞ。
「よいよい。調査は明日からにするとして、まずは温泉宿へ案内してもらおうかのぉ」
◇
――事の発端は、今朝訪れた冒険者ギルドでのことだった。
懐具合も温まったことだし、異ノ国を観光であちこち巡るのも良いが、
はぐれてしまった神様たちも探さなければならない。
冒険者ギルドでなら何か情報を得られるかもしれないと、立ち寄ってみた。
すると、緊急の依頼が舞い込んでいた。
近隣の村の周辺で魔獣が目撃されたらしく、調査と討伐の依頼だった。
手練れの冒険者はおらず、ほぼ俺たちを指名するカタチでの依頼だった。
「その村に、温泉宿はあるかの?」
「ええ、清見温泉の村ですので、神楽の湯宿には劣りますが、ありますよ。温泉宿」
決め手は温泉宿だった。
今回、
他のモブ神様たちは、はぐれてしまった神様たちを探しにどこかへ散っていった。
俺たちは、
♨カポ~ン♨
「はぁぁああ~、癒されるぅぅうう~」
清見温泉の露天風呂。
神楽の湯宿の露天風呂よりは小さいが、白濁した泉質は悪くない。
豪快に湯をかき回す
ばしゃばしゃと泳ぎ回る
既視感の光景。
ひとつ、神楽の湯宿とは大きな違いがあった――。
『ここも良い湯じゃのぉ~』
男湯と女湯を隔てる壁の向こうから、
正直、今夜は期待していただけに残念でならない。
期待していただけに……。
「どうした? ユウキ。浮かない顔をして。
姉者と一緒に浸かれんのが、そんなに残念なのか?」
ぬぐぅっ、図星っ!
「ななな、なに言ってんだよ、スーさん。ば、ばかなこと言っちゃうよぉ~(ぶくぶくぶくぶく)」
顔を沈める俺の慌てっぷりを見ながら、「ガーッハッハッ!」と豪快に笑う
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