第10話 御神体

「あの小鬼、根ノ国の雑魚だよな?」


 須佐之男命すさのおのみことが、天照大御神あまてらすおおみかみの手を覗き込みながら呟いた。


「根ノ国じゃ、こんなモノ落とさなかったぞ?」


わらわも初めて見る石じゃ」


 なるほど。

 異世界の怪物が落とすアイテムといえば定番だな。


「これは多分、魔石の類だよ。異世界あるあるだ。

 何かの素材として使うか、売って金にする……ってとこかな」


「ほほぅ。さすが案内役じゃ」


 ふふふ。

 俺の知識が通じている。役に立っている感じが、ちょっと嬉しい。


「まぁ、こんな簡単に拾った魔石なら、たいした金にはならないだろうけどな。

 持って帰ってギルドで鑑定してもらおう」


 それにしても……


「スーさんが飛び出して行かなかったのは、ちょっと意外だったよ」


 あれだけバトルを熱望していた須佐之男命すさのおのみことだ。

 敵を見つけたなら、真っ先に突っ込んでいきそうなのに。


「んあ? お前、俺を何だと思ってんだ?

 お前はあれか、蟻んこを見つけたら、目の色変えて踏みつけるのか?」


「…………」


「俺が求めてんのは、血沸き肉躍る壮絶バトルよ! 雑魚に用はねぇ」


 オオカミの時は一方的に力をぶん回してたと思うが……今は黙っておこう。


「それに、」須佐之男命すさのおのみことは声を潜めて続けた。

「(天照の姉者は、小鬼ってのが大っ嫌いなんだ。視界に入ることすら許せないほどに。だから、下手に横から手を出すとあとが大変なんだよ)」


 な、なるほど。神様もあるんだと納得した。




「さて、ユウキよ。ギルドの依頼は、ここの遺跡の調査じゃったな」


 そうだそうだ。魔石の他にも何か――


 すると、風神かぜのかみが突然、何かを思い出したかのように走り出した。


「そうだ、こっちこっち!」


 そう言って壁の一部を指差す風神かぜのかみ

 見ると、岩の壁に小さな扉が設置されていた。


 “御扉みとびら”というのだろうか。


「俺、コイツに誘われてここへ来たんだ」


 風神かぜのかみが扉を開けると、黒い板のような物体が祀られていた。


「御神体、じゃな」


 天照大御神あまてらすおおみかみが、それを取り出すと、

 バラバラと、細かい金属片のようなパーツがこぼれ落ちた。


「え? ちょっと見せてくれ」


 特徴的な金属のフレームとガラスの板。


 間違いない。


 スマートフォンだ。


「それ、スマホだよ。ほら、これと同じ」


 俺は自分のスマートフォンをの隣に並べて見せた。

 同じ型のスマートフォンだ。


「なるほど……朽ちてはいるが、たしかに同じモノのようじゃの」


 新しい型のスマートフォンなのに、どうすればこんな状態になるのだろうか。

 オモテにあった社殿の朽ち方は、数十年……いや、下手をすれば百年近くは経っていそうだし。


「どうして、こんな場所にスマホが祀られていたんだろ」


 すると、少し離れた場所から稲荷神いなりのかみの声が聞こえてきた。


「おーい、みんな。こっちに来ておくれよー」


 何か見つけたようだ。


 行ってみると、衣装箱のような葛籠つづらが置かれていた。


 ……開けたら煙が出てきて、全員老人にってオチじゃないよな?


「ユウキよ、開けてみるのじゃ」


 あ、みんな、後ずさってってないか?

 でもまあ、びびっても始まらない。

 葛籠つづらはボロボロで隙間だらけだし、

 煙が込められているとは思えない。


 俺はそっと覗き込みながら蓋をあけた。



 葛籠つづらの中には、綺麗に畳まれた衣類が納められていた。

 学生服……ブレザーだ。

 経年劣化でボロボロだったスマートフォンと違って、こちらは比較的状態は良い。

 取り出して広げてみると、女物だった。

 デザイン的には、俺の時代と似た雰囲気だ。

 というか、似すぎてないか? 見覚えのあるエンブレムが刺繍されているし。


 葛籠つづらの底には、学生証もあった。



 神楽丘学園 三年

 大神 薫子おおがみ かおるこ



「あっ、やっぱり! 俺が通ってる学校の生徒じゃん!?」



 生年月日:慶平2年5月27日



「慶平って……いつ? 何て読むんだ? けいへい?」



 混乱する俺の隣で、天照大御神あまてらすおおみかみは頷いていた。


「なるほどのぉ~。異ノ国。ここは時空がひねくれているようじゃ」


「時空が?」


「うむ。恐らく、その衣類は、あの御神体の持ち主のものじゃろう。

 して、ユウキと同じ学園の生徒。

 しかし見知らぬ元号ということは、生まれた年が遠い未来か、

 もしくは平行世界かもしれぬが、そんな世界の存在は知らぬ。

 ゆえに前者、未来から来たのであろう」


「つまり、大神薫子さんは、俺よりずっと未来の時代の神楽丘学園の生徒で、いわば後輩になるのか。

 その彼女が、この異世界では数十年か、あるいは数百年も前に転移してきてた?」


「おそらくな。故郷を想って、オモテの社殿を建てたのかもしれぬ。ひとりでは無理な話じゃがな。原住民の協力があったか、もしくは他にも大勢で転移してきたのか、それとも……」


 そのまま、元の世界に帰ることはなく、この世界のどこかで土に還ったのか……。

 会ったこともない娘だけど、同じ学園ってだけで妙に親近感が湧いてしまい、

 彼女がこの世界でどんな苦労をして、どんな最後を遂げたのか、

 それを想うと、胸の奥がぎゅっと痛くなった。



「ここの調査は、もう良さそうじゃのう」


「そうだな。遺物は相当古い物だから、慎重に運ぼう」


 そうして俺たちは、風神かぜのかみとも合流して、冒険者ギルドへの帰路についた。





「こ、ここ、こ、これは! 物凄い大発見ですよぉーっ!!」


 俺たちが持ち帰った遺物を鑑定していた受付嬢が叫び声を上げた。

 遺物は例の『鑑定石さん』にかざしていたはずだが、

 今日の石はようだ。


「これは、伝説として語り継がれている“不滅の魔法少女”薫子様の、

 私物ではありませんかぁあああ!?」


 ん?


 どっかで聞いたワードだな。


 “不滅の魔女”……“不滅の魔法少女”……薫子様?


 “薫子”って、学生証に書かれていた名前だ。


「“不滅の魔法少女”ってのは?」


「読んで字のごとく、不滅なんです。

 不老不死にしてとてつもない魔力を持ち、

 歴史上なんども世界の危機を救ってくださっている、

 偉大な魔法少女なんですよぉおおお!」


 えらいテンションだ。


 俺は鑑定石さんを撫でまわしながら、石に向かって語り掛けた。


「で? この遺物は、どのくらいの値打ちがあるんだ?」


 しばしの沈黙――。


【おいおい、値打ちなんて付けられるわけねぇだろ。

 だいたい、それらはじゃなくてだぜ?

 薫子様の私物を勝手に持ち出して売買したとあっちゃ、お前……ヌっ殺されっぞ】


 相変わらず口の悪い石だ。


「まてまて。ってことは、その薫子様ってのは、まだ生きてるのか?」


【あったりめぇだろ? “不滅の魔法少女”なんだからよぉ】


 ええー……

 《彼女がこの世界でどんな苦労をして、どんな最後を遂げたのか……》

 あの時の、俺の胸の痛みを返してくれ。


【今はどこにおられるのかは、わからんがな。

 世界がピンチになったら、きっと……】


「ふ~ん。まぁいいや。

 調査のほうは完了したんだから、クエストの報酬は出るよな?」


 天照大御神あまてらすおおみかみ須佐之男命すさのおのみことが、ずずいっと前に出た。

 そして受付嬢を威圧するように、俺の両隣で仁王立ち。


「も、もちろんですよ。報酬は弾ませて頂きます!

 えーっと……あれがこうで、これがあーだから……

 ざっと、金貨80枚になります!」


 ギルド内が『おおー』とどよめく。


「良いではないか! これで当分の間、あの温泉宿に滞在できるな?」

「ああ、そうだな」

「よっしゃー!!」

「毎日旨いもん食えるのか!?」

「なんだよ、天照様たち、温泉宿に泊まってたのか?」

「ほーっほっほっ」


「ちなみに、この真っ赤な小石は、魔晶石ですね。

 綺麗ですが、特に使い道は無いので、買い取りはしてないです」


「……ま、それはいいや」


 他のモブ神様たちも、何枚かの金貨を稼いだみたいだし、

 これからだ。


 これから、始まるんだ。


 異世界、異ノ国豪遊ツアーが!!

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