第8話 森の遺跡
朝陽が差し込む温泉宿の部屋――。
俺は心地よい疲労感に包まれながら布団の中で伸びをした。
「いい宿だったなぁ……こういう贅沢ができるなら、この旅も悪くないよなぁ」
昨夜の豪華な夕食と露天風呂を思い出し、贅沢な気分に浸る――が、
一瞬で現実に引き戻される。
バサァ! と、布団が勢いよく剥ぎ取られた。
「これ、ユウキよ! いつまで寝ておるのじゃ! 朝食が出来ておるぞ!」
着崩れた浴衣の隙間から、すらりと伸びる太ももが眩しすぎる。
さすがは太陽を司る神様だ。
「ほほぉ~? おぬし、朝から元気一杯ではないか」
「ばっ! ちっ! ちっげーよ! これはそんなんじゃねーし!」
慌てて布団を引っ張り返して包まった。
そんな様子を見て、
「くっくっくっ。はよぉ~起きて来ぬか。飯が冷めるぞ」
手をひらひら振りながら部屋を出ていく
◇
温泉宿の広間には、豪華な朝食がずらりと並んでいた。
湯気の立つ味噌汁に、ふっくら炊き立てのご飯。
そして焼き魚の香ばしい匂いが食欲をそそる。
「朝から、こんなに食べていいのか!?」
「いいねぇ! 朝から豪勢な飯、最高だな!」
「お前ら、いつでも元気一杯だなぁ……」
呆れたように二人を見ていると、
「旅は朝食から活力を得るものじゃ。ユウキもしっかり食べるが良いぞ」
「まあ……これだけ美味しい飯を食べられるのも今のうちだけかもな……」
俺は残金を気にしながら呟くと、箸を手に取った。
◇
豪華過ぎる朝食の残りを、お弁当にしてもらい、温泉宿を後にした。
そして冒険者ギルドへ向かう道すがら、俺たちは商店街に立ち寄った。
ちなみに、今の俺は神楽の湯宿の浴衣姿だ。
というのも、今朝のある出来事のせいで――
・
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「ユウキ! ユウキの服、まだ乾いてないな。それに、ちょっと臭いぞ」
そう言って、
「やっぱ一晩じゃ乾かないよなぁ。うぇっ……これは、生乾き臭が酷いな」
すると
「乾かすのなら
パアアァァ☆と輝きだす
それを見た
干してあった俺のブレザーが、メラメラと燃え始めた!
・
・
・
そうして、神楽の湯宿の浴衣を借りて――今に至る。
さすがに浴衣で冒険というわけにはいかないので、新しい装備を買い揃えることにしたのだ。
【初級者応援キャンペーン】と書かれた、ひときわ目を引くのぼりが立っている店に入ってみた。
「こちらの初級者向け装備一式、今ならキャンペーンでお安くなってますよ~!」
店主が満面の営業スマイルで勧めてきたのは、
簡素な革のジャケットとズボン、しっかりとした造りのブーツ。
それと、ポーチが付いたベルトだ。
比較したわけではないが、品は良さそうだったので即決した。
追加でバックパックとナイフも購入した。
ちょっとまけてもらって金貨1枚を支払った。
「ふむ、なかなか似合うではないか。冒険者らしくなったのぅ」
「これで残金は、銀貨10枚だけどな……」
俺は肩をすくめながら、浴衣を袋に詰めこんだ。
◇
冒険者ギルドに顔を出した俺たちは、次の稼ぎ(冒険)に向けた依頼を探した。
「次は何か落ち着いたやつがいいな。危険の無い採取系とか、調査系とか……」
受付嬢にお願いすると、彼女は依頼書の束を手に取りながら少し考え込んだ。
昨日のやかましい石は棚にしまわれていた。
静かでよい。
「こちらはいかがでしょう?
最近発見された古代遺跡の調査依頼です。比較的安全かと思いますよ」
「そう、そういうやつ! 安全第一で!」
ところが、その言葉を聞いた途端、
「なんだよ、安全って。もっとド派手なほうがいいだろ!」
「オイラもなんか冒険がしたいなぁ」
「まぁまぁ、落ち着けって。
遺跡ってのはな、古代の秘宝が眠ってることが多いんだ。
めっちゃレアな発見があるかもしれねーぞ?」
俺は大袈裟にニヤリと口元を歪めて見せた。
「秘宝!? お金になりそうだな!」
「もちろんさ! また温泉に泊まりたいなら、こういう依頼を受けなきゃだろ?」
「ふむ。あの温泉宿なら、
「また美味い飯も食べられるな!」
騒がしい彼らを横目に、受付嬢が少し微笑みながら軽く頭を下げる。
「では、どうかお気をつけて。
遺跡の場所は地図に記載していますので、ご確認ください」
こうして、俺たちは遺跡調査の依頼を受けて、冒険者ギルドを後にした。
モブ神様たちは、それぞれ別の依頼を受けて散っていった。
みんなで稼いで、今夜も温泉宿に泊まろう作戦、ってわけだ。
◇
目的の遺跡までは、緩やかな丘陵地帯を抜ける道が続いていた。
穏やかな天気の中、のんびりと歩を進める。
「ねえねえ、秘宝ってどんなものがあるんだろうな?」
「ふむ……金銀財宝かもしれぬし、古代の叡智が詰まった文献かもしれぬ。
「俺としては、誰もいない安全な場所でさっさと終わるのが一番だな」
ぼそっと呟くが、
「つまんねぇこと言うな! 男なら危険な道を選んで突き進め!」
「そんなんじゃ命がいくつあっても足らないよ……こっちはただの凡人なんだから」
そして地図が示す遺跡に到着した。
「これは、神社……か?」
思わず声を漏らすほど、それは和の形を残していた。
しかし本来の美しさは、森に呑まれ消え失せている。
鳥居のような古びた木にはツタにびっしり纏わり憑き、根元はひび割れている。
左右には倒れ伏した狛犬の像が苔に覆われ、片方は頭が転げ落ちている。
社へ続く石段はほとんど土に埋もれ、ところどころ崩れ、歪み、森に侵食されていた。
「この異ノ国でも、神を祀る風習があったようじゃのぉ」
「ん? 異ノ国ってのは、神様の信仰がないのか?」
「ふむ。
「ふ~ん……。それなのに神社か。あ、それだからこんなに朽ちてるのか。
でも、あの温泉宿、『神楽の湯宿』って名前だったし、鳥居もあったよな」
「そうじゃのぉ~」
いつもは高慢で高飛車な態度の
崩れかけた石段を上ると、その先にある社殿は、
屋根が半壊し、梁がむき出しのまま傾いていた。
「人に忘れられてから何年、何十年、いや、何百年も経ってそうだな……」
朽ちた社殿の前で息を呑んだその瞬間――
奥の闇から、ひやりと肌を撫でる風が吹き抜けた。
ただの風じゃない。
重い。ざらついている。
何かが混じっている。
思わず社殿から距離を取る俺をよそに、
「……ふむ。これは……風じゃな」
「おう? ……なるほど。風だな」
「ほんとだな! 風だな!」と笑顔になる。
なに? なに!?
この風が、なんだっていうんだ!?
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