第6話 神々の力
クエストの指示書にあった森へ足を踏み入れた途端、周囲の雰囲気が一変した。
草木や岩の陰から鋭い視線を感じる。
「ケッ! コソコソと……それで隠れてるつもりか?
見せてやるぜ! 神の力ってやつをな!」
ヴォン――……
ドガゴ――――ンッ!!!
大剣を振り下ろした瞬間、地面が激しく揺れ、オオカミどころか周囲の木々まで根こそぎ吹き飛んだ。
後にはクレーターのような巨大な穴だけが残った。
「ぉ、ぉぃぉぃ、おい! 少しは力を加減しろよ!
オオカミは吹っ飛んでっちゃって、あれじゃ回収できないし、
これ見ろよ! 地形が変わっちゃってるじゃんか!!」
思わず叫ぶが、
「ガーッハッハッ!
例え雑魚相手でも手加減なんてしねぇ!
俺はいつでも全力だぜ!」
一方、
そして、ひとつ頷いてから、スーッと両手を天にかざした。
「まだ隠れておるオオカミどもを一掃してやろう」
そう囁いた次の瞬間、彼女を中心に森の一帯が眩しい光に包まれた。
光が彼女へと収束したかと思うと、無数のレーザー光線のような鋭い光が周囲に向かって放たれる。
すると、草木の陰に隠れていた獣たちが慌てて飛び出してきた。
「はへっ!?」
普通に思い描いていた『オオカミ』とは似ても似つかない、
異世界の獣の容姿を見て、おかしな声が出た。
その獣は、顔が異様に大きく、それに見合った巨大な顎を持ち、足が六本あった。
大きな個体は二メートルほどありそうだ。
「ほう。こやつらが『オオカミ』かの?」
全身を焼かれて虫の息となった獣を前に、
「お、俺が知るわきゃねーだろ!」
目の前には、光に焼かれた獣たちが次々と崩れ落ちる地獄絵図が広がっていた。
それと同時に森の木々まで燃え始めた。
「ちょ、まっ!!! 燃えてる! 木! 森が燃えてるって!!」
「ふふふっ どうじゃ? これが太陽を司る神の力ぞ。ひれ伏すがよい!」
「誰に言ってんだよ! 火! 火をどーにかしろよ!」
俺が慌てふためいている足元で、
「ぉぉぅ、この匂い……美味そうな肉だなぁ。こんがり焼けてて……食べごろかな?」
俺は頭を抱え込んだ。
「呑気に喰っとる場合かー!!!」
神々が自由奔放に振る舞っている間にも、木々を燃やす炎は広がっていく。
どうする……。このままじゃ、辺り一面、火の海だ。
俺たちは異世界旅行どころじゃなくなる。
下手すりゃ、何らかの罪で追われる羽目に……。
その時、同行していた老人の神様が、静かな足取りでススーッと前に出てきた。
その佇まいはまるで散歩を楽しんでいるようで、燃え盛る森を前にしても眉一つ動かさない。
怪訝な表情を向けると、老人は自らを名乗った。
「ふぉっふぉっふぉっ、儂ぁ、
「ひと雨、呼ぶとしようかのぉ~」
次の瞬間、暗雲が空を覆い隠し、冷たい風が森を吹き抜けた。
ぽつりぽつりと降り始めた雨は、瞬く間に激しい豪雨へと変わり、
燃え盛る森の炎を一気に鎮火していく。
どしゃ降りの雨が、滝のように勢いを増す中、俺はただ立ち尽くしていた。
「ばぼ……ごぼびばぎべだびだいだんで(あの……もう火は消えたみたいなんで……)」
立ったまま溺れそうになるほど、雨の勢いは激しかった。
「ふむ。こんなもんかのぉ~」
そして、大きな虹が架かった。
「ほう……さすが、天之爺やじゃ。良い余興ぞ」
神々が何事も無かったかのように、虹の架かった天を仰ぐ中、
俺は別の場所に目が釘付けになった。
その場所は――
そこが大きな湖になっていた。
しかも、なぜか魚が飛び跳ねている。
(……なんなんだ、いったい)
こうして、俺たちの初クエストは、ひとまず目的を果たしたのだった。
◇
(死骸の回収袋を借りてきたけど……こんな状態、買い取ってもらえるのかな?)
袋を引きずりながら、『オオカミ』の残骸を見下ろした。
激しい雨に打たれたせいで、焼けた部分はすすが流れ落ち、ぐちゃぐちゃの泥と混じり合っている。
その異様な姿に、思わず顔をしかめた。
袋の数にも限りがあるので、比較的状態の良さそうで大きい死骸を回収して、
あとは穴を掘って埋めることにした。
「うまっ うまっ」
「……南無……南無……」
良い具合に焼けた肉をガツガツ喰らう
何か言葉を発しているようだが、うまく聞き取れない。
そんな神たちを、俺は密かに『モブ神様』と呼ぶことにした。
「おい、イナリ……お前、食ってばっかいないで、少しは他の神様を見習えよ」
「(もっもっ……ごくん)神によって弔い方が違うんだよ。
オイラの場合、こうして喰らってやることが最上級の弔いなのさ」
「そ、そうなのか?」
半信半疑で、
「……さあな。聞いたことねぇけど、そういうこともあるのかもな」
この漢は戦うことしか考えてなさそうだ。
その時、ふと気づく。
「……ってか、なんでイナリが食ってる
「(もっもっ)濡れないように(もっもっ)ガードしてたからさ(もっもっ)」
改めて周囲を見回すと、全身ずぶ濡れの俺に対して、他の神々はまったく濡れていなかった。
「あー……そういう力、あるよねー(ぶぇっくしょん☆)」
死骸の回収をモブ神様に任せて、日当たりの良い場所へ移動する。
すると、そこに、
つい先ほど誕生した湖の畔で、異ノ国の景色を堪能するかのように、しなやかに立っている。
「……やれやれ。異ノ国、満喫中ーってか?」
俺は呆れながらも、その神々しくも美しい姿に魅入っていた。
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