第5話 オオカミ討伐

 天照大御神あまてらすおおみかみたちは『Sランク』に三ツ星が追加された『Sランク以上』という認定となった。

 一方、俺は『Gランク』にバツが三つ追加されて『Gランク以下』として冒険者登録された。

 そして各自、ランクが刻まれたドッグタグを受け取った。


 本来であれば、登録料がかかるところだが、こちらの懐事情を説明したところ、

 周囲にいた冒険者たちが、「珍しいものを見せてくれたお礼だ」といって、立て替えてくれた。


「さて、これで我らも冒険者じゃな!」


 天照大御神あまてらすおおみかみが豊満な胸を揺らして、輝かしい笑みを浮かべると、ギルド内の冒険者たちから拍手喝采が巻き起こった。


「よぉし、そんじゃ早速、ドラゴン退治に行くとするかー!」


 須佐之男命すさのおのみことが拳を振り上げると、ギルド内の冒険者たちがどよめいた。


 ドラゴン!? いくら神様が一緒だと言っても、広範囲にブレスなんか吐かれでもしたら、Gランク以下の俺なんかひとたまりもない。


「ダ、ダメダメ! 死んじゃうから! 俺が!!

 まずは簡単なクエストから受けてかなきゃ、ダメだよ!」


「なんだと!? バトルは!? 闘う相手は!?」


 須佐之男命すさのおのみことは眉を吊り上げた。


「大丈夫! だと思う……何かしらの獣退治とか、そういうの。あるよね?」


 受付嬢に視線を送ると、「心中お察しします」と言わんばかりに、気の毒そうな笑顔を向けてくる。


「まずは簡単なやつからこなしていくのが、

 異世界、異ノ国の醍醐味ってヤツなのさ。

 案内役の俺が言うんだから、間違いない」


「ふむ、なるほど。ここでは、俺たちは挑戦者ってことだな!?

 い~じゃねぇか! ガーッハッハッ!」


 この漢の扱い方、ちょっと分かった気がする。


「えっと、そういうわけなんで、

 初心者でもできそうな簡単なクエストってありますか?」


 受付嬢は依頼書の束を取り出した。ドサッ★


「ええと……通常は、ランク差が大きいメンバーでパーティを組むことは認められないのですが、皆さんは最初からご一緒に行動されているようですので、今回は特例ということで、パーティ申請も受理させていただきます」


 そう言いながら受付嬢は、突然宙に浮かんだパネルをテキパキと操作している。


「パーティ? 宴か?」


 須佐之男命すさのおのみことは首をかしげている。


「あー、『パーティ』っていうのは、数人でチームを組んで冒険をする……仲間ってことだよ。

 で、めっちゃ強い冒険者が、めっちゃ、よ、弱い冒険者を連れてって、じ、実力以上の経験値や報酬を得させる行為ってのは推奨されないんだ。

 理由はまあ色々と、ね」


 説明しながら、自らの言葉が、グサグサと心に刺さってくる。


「よくご存知ですね(ニコニコ)パワーレベリングと呼ばれる行為が行われてしまうと、実力に見合わないランクへ引き上げられてしまうので、後々トラブルのもとになってしまうのです」


 受付嬢は身を乗り出し、小声で続けた。


「金持ちの道楽息子が高ランクの称号欲しさに……お金でランクを買うような行為が横行した時期があったんですよ」

 

「うんうん。ですよねぇ」


 得意げに頷く俺を見て安心したのか、受付嬢はもとの場所に戻り、今までで一番の真面目な表情を見せる。


「皆さんにおかれましては、そのようなことはないと、私が判断させていただきます」


「ありがとうございます!

 俺なんかは、もう、ただの案内役ですから。

 危ないことは全て彼らに任せます。

 何ならランクなんか上がらなくたっていいんです。

 (チート能力も無いし、下手に戦おうとしたらマジで死んじゃうから!)」


「ええっと……それでは、こちらのオオカミ討伐はいかがでしょうか。

 初心者向けとしては、少し難易度は高いのですが……Sランク以上が大勢いらっしゃるので問題はないと思います。

 近隣の村で家畜を襲う被害も出ているので報酬は割高です。

 1匹につき銀貨10枚、群れを追い払うことが出来れば、追加報酬も出ますよ」


 受付嬢が示した報酬に、金銭感覚のない俺たちは全員が首をかしげた。


「この辺りの物価について、ちょっと聞きたいんだけど……この人数で一晩宿を取ろうとしたら、どのくらい必要になるかな?」


 受付嬢は俺の後ろに並ぶ神々を見渡して、しばし宙を見つめてから答えた。


「お宿のグレードにもよりますが、最も安いギルドの宿でしたら素泊まりで銀貨30枚です。

 丘の上の温泉街でしたら食事付きで金貨1枚~5枚、えっと銀貨に換算すると100枚~500枚程度になりますね」


「温泉街とな!? ユウキよ! 今宵の宿はそこで決まりじゃ!

 必要なだけの金を用意するのじゃぞ!」

「豪華な食事付き!」

「温泉だ!」

 ……やいのやいの……


「まてまて! 落ち着けって!」


 盛り上がる神々を必死に宥めながら、受付嬢に確認を続けた。


「そのオオカミの討伐なら、最低でも10匹は倒さなきゃだよな。

 何匹も出るのか? あと、倒した数はどうやって報告すれば良いんだ?」


【まったく……流石はGランク以下だぜ。何にも知らねぇんだな!】


 カウンターの傍らに置かれたままになっていた鑑定石さんから声がする。


 キッ! と石を睨んでから受付嬢に視線を戻すと、

 受付嬢は一瞬目を泳がせたが、何事もなかったかのように答え始めた。


「報告では、群れで行動しているということでしたので、最低でも10匹以上はいると思われます。

 討伐数についてはギルドタグの方に自動的に登録されます。

 あと、死骸を持ち帰って頂ければ、素材として買い取ることも可能です。

 死骸の状態によるので、綺麗な死骸ほど高くなります」


「なるほど……死骸か。

 空間収納とかマジックバッグみたいなのは無いのかな?」


 異世界の定番だ。


「……空間収納? マジックバッグ? 初めて聞くので、この辺りには無いと思いますよ。

 死骸を持ち帰る用に、ギルドから袋を貸し出すことはできますが……まぁ、代金は後払いでも良いですよ」


 異世界の定番……無いのか。


【オオカミに喰われねぇように気張ってけよ!

 そして生きて帰ってこい。Gランク以下……ぷぷぷっ】


「ぬぐっ!」


 石と受付嬢をキキッと睨みつけたが、相変わらず受付嬢はニコニコと微妙な笑顔を保っていた。


 兎にも角にも、こうして、俺たちは最初のクエストとして「オオカミ退治」に挑むことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る