第3話 月読命
事の発端は、
畳んだ扇子で口元を隠しながら、「我らにも息抜きが必要じゃろう」などと言い出した。
「天照の姉者よぉ、今の時代、毎日が息抜きみたいなもんじゃねぇか。これ以上何しようってんだ?」
「うむ。弟者の言いたいこともわかる。そこでじゃ」
「『異ノ国』へ行ってみようぞ!」
バッ☆
そう言い放つと同時に、勢いよく扇子を広げた。
「見たことのない風景、味わったことのない料理……どうじゃ?
想像するだけで心が躍るではないか?」
「おお、天照の姉者、そいつぁ面白そうじゃねぇか!」と目を輝かせた。
「異ノ国つったら、あれだろ!?
魔王とか竜とか!
ぅぉおおー! 激しいバトルの匂いがプンプンするぜぇ!!」
一方、月の女神たる
「興味はありませんが、姉上たちが行くというのなら、同行いたしましょう」
月の女神らしい冷然とした声で、スンとした姿勢を崩さない。
だが、その内心では――
『異ノ国のグルメ? はわわぁ~どんなお味なのでしょう!
肌ツヤが良くなるような幻の温泉があると伺ったこともありますし、
異ノ国満喫ツアー! しっかりとリサーチしておかなくては……』
次々と妄想が膨らみ、密かにギュッと拳を握りしめていた。
決して表情には出さないが、内心ではワクワクが止まらないのである。
◇
いざ、異ノ国へ旅の準備が整い、
「さて、皆の衆、出立じゃー!!」
◇
――そして、その光が収まってゆく。
「……あれ?」
異ノ国へ転移すると意気込んでいた神々の多くは、元の場所に立ち尽くしていた。
「どうなったんだ?」
「わしら、置いてけぼりかの?」
「人数制限があった……とか?」
「あの妾、術式しくじったんじゃねぇか!?」
……ざわざわ、ざわざわ……
残された神たちは口々に囁き合っている。
その場に残された
「……そうですか。それならそれで、構いません」
しかし、その袖の中には、異ノ国の美味しそうなグルメ情報や癒しの温泉、絶景ポイントなどを妄想して描いた『月読の異ノ国 お満喫ガイド』が忍ばせてあった。
その指先が僅かに震えているのに気付いた神が、ポツリと呟く。
「月読様……本当は楽しみにしてたんだべな……」
◇
数日後──
「姉様たちが異ノ国で無事に旅を終えられるよう、静かに祈りを捧げましょう」
焚火にくべられた『月読の異ノ国 お満喫ガイド』が、メラメラと燃えていた――
日本神話は終わらない 角山 亜衣(かどやま あい) @Holoyon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。日本神話は終わらないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます