根ノ国・黄泉の国編
第45話 天照大御神
某所、根ノ国へと続く大トンネル――
「なあ、姉者……天照の姉者よっ。本当に良かったのか?」
「……何がじゃ?」
「何がって……ユウキを連れてこなかったことだよ」
その言葉に、足を止めた。
喉の奥がきゅっと狭まった。
ユウキには――今のユウキには、人の子としての人生がある……。
☼
――数ヵ月前。
黄泉の国の封印が破られ、大量の穢れが根ノ国へと溢れ出したのだ。
神々は集い、どう対処したものかと議論を重ねた。
しかし最後は「黄泉の国で何が起こっているのかが分からぬ限り、手の打ちようがない」という結論に至っていた。
そうしている間にも、穢れは根ノ国を蝕んでいるというのに――。
そんな折、
「姉様! ついに! ようやく! やっと見つけました!」
あんなにも嬉しそうに笑う
「
「誠か!!」
その瞬間、あんなにも心が晴れわたったのは、何千年ぶりじゃったろうか。
かつて、
その身を楔として、道を塞いだ神。
「タヂカラが……タヂカラが転生しよったか……ようやく……また会える……」
「しかし、いささか問題もあります――」
人の身に宿る魂は脆い。
いきなりすべてを思い出させれば、心も身体も耐えきれぬやもしれん。
下手をすれば、そのまま消えてしまうかもしれぬ。
だからこそ、考えたのじゃ。
ゆっくりと。
段階を踏んで。
魂を、記憶を、呼び起こす。
そのための――異ノ国観光。
最初は御手洗ユウキを、ただの器としてしか見ておらんかった。
冴えぬ顔をした、ただの人の子。
頼りなく、運も悪く、戦う力も持たぬ。
それが――
いつからであろうか。
共に笑うようになり、
時に怒るようになり、
守りたいと思うようになり――
逆に守られもした。
気が付けば、
うっかり「タヂカラ」と口にしたときなどは、ユウキを傷つけてしまったのではないかと気が気ではなかった……。
目の前にいたのは、御手洗ユウキという人の子じゃ。
じゃが、ユウキの中には確かに、
ユウキであり、タヂカラでもある。
胸の奥で、何かが軋んだ。
あのまま旅を続けていては、自分が壊れてしまいそうな気がして――
だから、終わらせた。
異ノ国の旅を。
・
・
・
やもすれば、黄泉の国の問題よりも、ユウキに会うために
じゃが、その間にも穢れは広がり続け、やがてそれは
そうなってしまっては、座して見ているわけにはいかぬ。
この事態はすべての神々に伝えられた。
当然、その報せは、弟者……
すると、やはり懸念していたように、
しかし
場所は神楽丘。
根ノ国へ攻め入るまで、まだ多少の猶予はあった。
ほんの少しの悪戯心と下心、
拭いきれぬ想いを抱え、
人の姿を借り、学び舎へと足を踏み入れた。
・
・
・
再会したあやつは、やはり、ユウキであった。
笑い、戸惑い、怒り、そして――。
そのすべてが、眩しかった。
だが同時に、思い知らされる。
あやつには、あやつの、人の子としての生がある。
友がいて、日常があり、守るべきものがある。
それを――奪ってしまって良いものか?
根ノ国へ、黄泉の国へと連れて行けば、また三千年前と同じようなことにもなりかねん。
今度こそ、本当に失ってしまうやもしれぬ。
気持ちが揺れ動く中、思いがけず出会った
『知らねぇよ。それを決めるのはお前さんじゃねぇ。人の子自身が決めるこったろ』
と、一蹴されてしもうたが……。
確かにそうかもしれぬな。
『そんなもん悩んでたって、どうにもならねぇ。なるようにしかならねぇよ』
あとは、真実を伝えるかどうか、じゃ。
思い悩んだ末、口から出た言葉は――
「おぬしは、大切な友人たちの近くにおれ。そして、おぬしが護ってやるのじゃ」
きっと、真実を知れば、あやつは共に行くと言ったに違いない。
だから言えなかった。
また、再び失うかもしれない。それが怖かったのじゃ。
いや、それ以上に、
真実を知った上で、拒まれるかもしれない――とも思ってしもうた。
それが一番、怖かったのじゃ……。
☼
『本当に良かったのか?』という
その答えは、変わらぬ。
だが――
胸の奥が疼く。
「これで良いのじゃ」
自分に言い聞かせるように、そう答えた。
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