第56話 極
六体の
一体は、黒炎を纏った大剣を肩に担ぎ。
一体は、長大な槍を静かに構え。
一体は、鎖鎌をゆらりと揺らし。
一体は、三つ首の大蛇を纏い。
一体は、無数の炎の礫を周囲に浮かべている。
そして――
最後の一体だけが、中央で腕を組み、仁王立ちのまま動かない。
「来るぞ!」
速い――が、さっき倒したヤツほどじゃない。
視える!
ギィィィンッ!!
腕に衝撃が突き抜ける。
「くっ……重っ!」
俺の相手は、大剣のヤツだ。
斬り上げ。
横薙ぎ。
身長ほどもある大剣を軽々と振り回し、間断なく続く。
視界の端で、
上空から、ドドドドッと撃ち合っているような音が響いてくる。
振り向く余裕はないが、
中央で動かない一体も警戒しながら、目の前の大剣を捌く。
一対一なら、なんとか――
なんとかしなきゃ!
その時――
「姉者――!!」
反射的に、周囲を見渡した。
態勢を崩して、地に伏せる
そこに迫る三つ首の大蛇が、スローモーションで視える。
黒子が何体か顕現するが、三つ首の勢いは変わらない。
大蛇が大きく口を開く。
そこまでは見えた。
残った首が突っ込み、土煙が舞い上がる。
ドゴォンッ!!
壁まで飛ばされ、その衝撃で広間の縁が砕ける。
岩盤が割れ、上へ続く崖道が崩れ落ちた。
「スーさん! ツクヨミ!!」
足がもつれそうになるのを無理やり踏み込んで、二人の元へ駆けつけた。
「姉様、ここへ――!」
そう叫んだ直後、
同時に、周囲に分厚い結界が張られた。
「弟者が――」
ゆらりと立ち上がった
右腕が力なく、ぶらぶらと揺れる。ボタボタと滴り落ちる鮮血。
右腕の裂けた肉から、折れた骨が飛び出している。
「ぐっ……下手打っちまったぜ」
それでも、左腕だけで大剣を掴み直した。
ドンッ!!
外から叩きつけられた一撃に、結界が軋む。
「……長くは持ちませぬ」
声は落ち着いているが、額には汗が滲んでいる。
維持しているだけで、相当な負荷なのだろう。
「弟者よ、腕を見せよ」
淡い光が傷口を包む。
だが――
肉は閉じきらない。骨も戻らない。
「……応急じゃ。戦える状態には程遠い」
「はっ……上等だ。片腕でも、蛇野郎の首くらいは刎ねてやるぜ」
だが、その呼吸は明らかに荒い。
強がりだ。
「ユウキよ」
名を呼ばれた。強い口調で。
びくりと肩が跳ねた。
振り向くと、
一瞬、視線を逸らし、言葉を絞り出すように言った。
「……おぬしだけでも、戻れ」
名を呼ばれた瞬間、そう言われるような気がした。
表情を見た瞬間、そう言うんだろうと確信した。
「……は? 何、言ってんだよ」
「おぬしの神威神装も、とうに限界を超えておろう」
確かに、
「だからって……俺だけ逃げろって言うのか?」
一緒に帰る約束は――口にし掛けて、すんでのところで飲み込んだ。
覚悟を決めた
ドゴォンッ!!
外の奴らは、容赦なく結界を叩き続けている。
結界が大きく歪む。
ビシッ、と細い亀裂が走る。
「おぬしだけなら、まだ間に合う。
ドクン。
イザナギの勾玉が熱く脈を打つ。
右腕はダラリと垂れさがり、左腕で大剣を握りしめる
頭から血を流し、額には玉のような汗を浮かべながら結界に集中している
胸の内をさらけ出すことができず、固く唇を結び震えている
「――アマテラ。俺は……まだ、諦めちゃいない」
ドクンッ!
「こ、この状況で何ができるというのじゃ!」
ドクンッ!!
「俺の、神威神装には――まだ、先がある」
「なっ……に……を」
「スーさん……、ツクヨミ……、アマテラ……。
その命……俺に預けてくれないか?」
一瞬の沈黙。
それぞれに、言葉の意味を飲み込もうとしている。
「まさか……お前っ」
「そんなこと……ユウキ殿の身が持ちません!」
「……できる、のか?」
「イザナギの魂もここにある。今なら、出来る!」
根拠は無かった。
もしかしたら、俺の身体が耐えかねて爆ぜるかもしれない。
でも今は、これに賭けるしかない。
「……くく」
「ガーッハッハッ! 面白ぇ!」
ズン、と一歩踏み出す。
「俺ぁ、お前に賭けるぜ!」
そう言って左腕を差し出してきた。
「スーさん、これで決めてやろうぜ!」
俺も、腕を差し出す。
ガシッ!!
力強く腕を組んだ。
次の瞬間、
熱く、荒々しく、爆発するような力が――
ドックンッ!!!
「……
目を伏せて微笑む
「ああ、あとは俺が何とかする」
そっと身を委ねてくる
静かな力。
冷たく、鋭く、澄んだ感覚。
ドックンッ!!!
「アマテラ」
「ユウキよ――強く、逞しくなったの」
俯きながら歩み寄ってくる
「やはり……おぬしは、
ぎゅっと、抱きしめられる。
「この身、この命、おぬしに託す」
そう言って、顔をあげ、そっと目を閉じる
「アマテラ――」
重なる唇。
ドックンッ!!!
ドックンッ!!!
ドックンッ!!!
全身が引きちぎれそうなほど、力が漲ってくる。暴れまくる。
「うぉおおおおおああああ――っ!!!」
ヤバいヤバいヤバい!
ちょっと、格好つけすぎたかも――
意識が飛びそうになる。
その時、イザナギの勾玉が光を放った。
すると、弾けそうだった力が滑らかに全身を巡り出す。
「「「
黄泉の国を揺るがすほどに、波動が広がっていく。
でたらめなほど力が湧いてくる。
そして――
「(うおおおお! なんだこりゃ! すげーぞ! 俺の本気よりすげーぞ!)」
「(はわわぁ~! 殿方に、殿方に抱きしめられてしまいましたぁ~! でもダメよ! 殿方は姉様のものなのですからぁ……でも、でもぉ~……)」
「(触れた……触れてしもうた……接吻!? キ、キッス!?)」
頭の中が、えらく騒がしい。
「あの……もしかしてだけど、みんなの心の声が駄々洩れになってっかもしんないから、その――」
「(ガーッハッハッ! んなこたぁ、どーでもいい! さっさとあいつらぶっ飛ばそうぜ!!)」
「(きゃわわぁ~!? 心の声が!? え、えと……ふみゃぁ~……)」
「(んな!? ユウキよ! 盗み聞きとは悪趣味じゃぞ! み、耳を塞いでおれー!!)」
無茶言うなよ……。
「
「(一緒にいるぞ~)」
「(大丈夫だべ)」
畏まってるだけか。
イザナギの勾玉も、存在を主張するかのように脈打つ。
「よし。そんじゃー、最終ラウンドと行こうか!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます