第52話 厄災の神
宴の余韻は、朝も夜も来ない空の下で、ゆっくりと消えていった。
第二拠点の周囲では、
瘴気のコブを一つずつ潰し、禍蛇の再発を抑え、周囲の警戒を固める。
そのお陰もあってなのか、あの黒い波は、もうどこにも見えない。
代わりに広がっているのは――
ひび割れ、荒れ果てた大地。
削り取られたような岩肌。
命の気配を一切感じさせない、剥き出しの荒野だった。
「……静かすぎるなぁ」
ぽつりと呟いたのは、
敵がいないことへの不満も感じられる。
「嵐の前の……かのぉ」
その視線の先。
地平の向こうに、ぽっかりと口を開けた暗闇が見える。
あれが――黄泉の国へと続く道。
「今までにないくらい、大きな力を感じます。大きすぎる……。
黄泉の国から溢れ出しているのか、それとも……」
「根ノ国のラスボスが待ち構えている、のかな?」
ドクンと脈を打ったのは、俺か、イザナギの勾玉か……。
緊張感を昂らせる。
俺は余裕ぶって鼻で笑ってみせた。
「このまま進むぞ!」
その後ろに、俺と
さらに俺たちの後方には――
「周囲への警戒を怠るなよー」
「先行部隊の護衛は、抜かりなく務めさせてもらうよ」
◇
どれくらい歩いただろうか。
振り返ると、はるか遠くに第二拠点の灯りが見える。
周辺の景色に変化はないが、
確実に、黄泉の国へと続く道に近づいている。
近付くにつれて、空気が重くなっていく。
肺の奥に、何かが沈殿していくような感覚。
不安なのだろう。
そのとき――
目の前の空間が揺らいだ。
次の瞬間、人の形をしたナニカが姿を現した。
黒より暗い闇の身体。
輪郭は歪み、実体があるような、ないような、おぼろげなナニカだ。
一拍遅れて、禍々しい空気が、ブワッ広がってきた。
そして瞬時に理解した。
『アレはヤバい』
すぐにでも逃げ出したくなった。
しかし、
前に出る。
どうして、アレに立ち向かえるんだ?
「
「これで禍蛇が姿を消した理由がわかりましたね」
…………。
「……え、どういうこと?」
禍蛇が姿を消した理由が語られない間に耐えかねて、思わず声が出た。
『わからないの?』とでも言いたげな、冷めた表情の
「根ノ国に溢れていた全ての禍蛇は今、あれに凝縮しています」
そう言って、
禍蛇をがぶがぶと喰らっていた八岐大蛇の尻尾がフラッシュバックする。
「全ての禍蛇を……喰らったっていうのか?」
「どうりで、姿が見えねぇと思ったら、一点に集まって待ち構えていたってわけか」
「黄泉の国は目前だってのに。やっぱ、素直に通しちゃくれねぇか」
笑っている!?
「アマテラスよ。ここは俺とフッシーに任せてくれ。あいつを足止めすっから、その間にあんたらは黄泉の国へ向かいな」
その肩には、ピシッピシリッと雷がほとばしっている。
「ふむ……。まずは、あやつらのお手並みを、拝見させてもらおうかのぉ」
◇
ゆらゆらと揺らぐ
首……と呼んでいいのかも分からないが……。
人の形をした輪郭がぐずぐずと滲み、そこから黒い煙とも泥ともつかないものが垂れ落ちては、地面に触れる前に消えていく。
不意に、
次の瞬間、とても耳障りな……黒板を爪で引っ掻くような音が鳴り響いた。
ギキィキギィッ――!!
「っ……ぐ……!」
随分と迷惑な挨拶だ。
後ろの
そして左右に展開した。
すると、
槍のように鋭く、鞭のようにしなりながら、それらが一斉に二柱へ襲いかかる。
轟音とともに、雷を纏った太刀筋が黒い腕の束を薙ぎ払う。
ズシャ――ッ!!
十数本まとめて弾け飛ぶ。
だが、散った黒い腕が空中で蠢き、すぐさま別の腕へと形を変える。
反対側に展開した
完全には視認できないが、空中で黒い腕が弾けるように消し飛んでいる。
しかし、ほとばしった黒いしぶきは新たな腕となってどこまでも
二柱とも、防戦一方だ。
「フッシー! タイミング合わせろ!」
「りょ!」
そう叫んだ
大技を繰り出そうとしているんだ。
「うぉおおおりゃぁああああー!!!」
空が裂けたような閃光が走り、巨大な雷が
「おりゃぁぁああああ!!」
そして――
雷に拘束された
ドッパァ――ンッ!!
「どうだ!」
腹のど真ん中を射抜かれた
一瞬硬直したあと――
完全復活した。
ギキィキギィッ――ギィッギィッ!!
そして耳障りな声を上げる。
「効いてない……のか?」
俺の喉から、乾いた声が漏れた。
しかし、
二刀による高速斬撃が、
ぱっくりと開いた胴体から、触手が飛び出してくる。
「うっわ」
さっきまで彼がいた場所に、何本もの触手が突き刺さる。
ドドドドドッ!!
その間も、
「こ、こいつはぁ、ちとキツイな……」
歯が立っていない。
誰の目にも明らかだった。
「タケ、フッシー、無理するでない! 一旦引くのじゃ!」
「くっ! こ、ここは俺らで何とかするから、おぬしらは先へ行け!!」
そうは言われても、これ以上進めば、あの黒い腕はこちらにも伸びてきそうだ。
ここは協力して戦うしか――
その時、後ろの方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
かしましい声が――。
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