第51話 いざ決戦!……の前に

♪ドドォ~ン カッドォ~ン

 ドドォ~ン カッドォ~ン


 ピョォ~ ヒャラリロォ~♪


 第二拠点の設営が落ち着いた頃、まるで祭りのような宴が始まった。



 天宇受賣命あまのうずめのみことが舞い踊り、

 稲荷神いなりのかみと一緒に、踊り子タイプの黒子たちも場を賑わせている。



 炊き出しも、今までになく豪華だ。

 いつもの餅汁の他、お団子やら串焼きやらが振る舞われている。



 八岐大蛇やまたのおろちを討伐したあと、禍蛇の数が一気に減ったとはいえ、ここは最前線だというのに。


 いや、だからこそなのか。


 この第二拠点からは、黄泉の国への入口が微かに見えている。


 禍蛇の数も減ってきた今、

 最後の決戦へ向けて、英気を養う儀式なのかもしれない。



「おほ~ユウキ~、お前も~呑んでっか~?」


 千鳥足の建御雷之男神たけみかづちのおのかみが、一升瓶を握ってやってきた。


「タケさん、俺まだ高校生。未成年っすよ~」


「ミセイネンが~なんらってんら~? そいつらぁ、葦原中つ国あしはらのなかつくにの決め事らろぉ~。ここがどこだかぁ、言ってみろぉ~お~?」


 既に出来上がっている……。

 神たちが英気を養うのに呑む酒。

 何かしらの御利益とか、意味があるのかもしれない。


「そんじゃ、一杯だけ――」


「よし! それでこそだ! ほれ、グッといけ、なぁ~」


 建御雷之男神たけみかづちのおのかみがどこからともなく取り出したグラスに、トポトポと注がれる酒。

 瓶のラベルには『白鷹』と書かれている。

 詳しくは知らないが、普通に売られている酒だよな。

 神酒とかじゃないんだ……。


 ぐびび――


「お~、よぉしよし。い~ぃ呑みっぷりじゃねぇ~か。もっといっとけ~」


 すっと通る喉ごし。あとからふわっと温かいのが残る。


 ドクン。


 いやいや! 喉の奥が! 胸が熱い!


 酒のせいなのか、天宇受賣命あまのうずめのみことたちの舞によるバフ効果なのか、鼓動が高鳴る。加速していく。


 ドクンッ!

 ドクンッ!!


「あ! タケ! お前、ユウキに酒呑ませたのか!?」


 ドスドスと現れたのは須佐之男命すさのおのみことだ。


「お~スサノンらねっか~呑んでっかぁ~?」

「なんだよ、もうベロベロじゃねぇか。相変わらず酒に弱ぇなぁ。つーか『スサノン』言うなや」


 須佐之男命すさのおのみことは、建御雷之男神たけみかづちのおのかみから一升瓶を取り上げた。


「ユウキ、お前、大丈夫か?」


「ん、大丈夫ですじょ……れ? ぐるぐるしてるかも……水もらってくるろ」



 激しく舞う天宇受賣命あまのうずめのみことを横目に、ふらりふらりと――


「ユウキよ、どうしたのじゃ? おぼつかない足取りで」


 ドクンッ!!!


 天照大御神あまてらすおおみかみの声に、胸が大きく呼応する。


「あ~、アマテラらぁ~」


「ぬ……おぬし酒を、呑まされたのか? 仕方ないのぉ。そこで待っておれ」


 岩に腰かけて待っていると、天照大御神あまてらすおおみかみは水を持ってきてくれた。


「少しは落ち着いたか?」


 言いながら、俺と密着するように腰を下ろす天照大御神あまてらすおおみかみ


 ドクンッ!

 ドクンッ!


「あ、ああ。ありがとう。落ち着いたー、かな?」


 天照大御神あまてらすおおみかみと、こんな風に二人きりになるのは久しぶりだ。

 二人きりとは言っても、神々が呑んで歌って踊っている傍らで、だけど。


 三千年前、黄泉の国に一人残って楔となった天手力男命あめのたぢからおのみことの話を聞かされてから、俺の中でずっと声がしている。

 俺は天照大御神あまてらすおおみかみに伝えるべきか否か、迷っていた。


 ドクンッ!!


「アマテラ――

 、アマテラを悲しませてしまって済まなかった……ってさ、

 俺の中のタヂカラが……そう言ってる、気がする」


 天照大御神あまてらすおおみかみは、天宇受賣命あまのうずめのみことたちの舞に視線を向けたまま、静かに応えた。


「もうよい。おぬしこそ、辛い決断だったのじゃろ?

 それに、おぬしは……こうして帰ってきてくれた。それでよい――よいのじゃ」


 俺の中の天手力男命あめのたぢからおのみことへの言葉。

 胸の奥が締めつけられて、目頭が熱くなる。


 俺はそっと、天照大御神あまてらすおおみかみの手を握った。

 すると、天照大御神あまてらすおおみかみはそっと俺の肩にもたれ掛かってきた。

 柑橘系の心地よい匂いが鼻をくすぐる。


「ユウキは、一緒に行くと言って追いかけてきてくれた。

 一緒に帰るとも言ってくれた。

 その言葉、信じておるぞ」


 天照大御神あまてらすおおみかみの肩に手を回して、ぐっと抱き寄せる。


「アマテラ――……あっ、熱っ! アチチっ!」


 突然、胸に同化している勾玉が激しく熱くなった。


 イザナギの勾玉。

 伊邪那岐命いざなぎのみこと!?

 目の前で娘さんとイチャコラしてたら、そりゃパパ怒るよね!


「あっれ~? お二人さんって、お熱い仲だったんすね! にひひ☆」


 経津主神ふつぬしのかみがニヤニヤしながら通り過ぎていく。


「姉様、こんな場所で殿方とそんな……」


 いつの間にか背後に月読命つくよみのみことが呆れ顔で立っていた。


「や、これは、そんな」


 珍しく狼狽える天照大御神あまてらすおおみかみ


 そこへ、串焼きを両手に持った風神かぜのかみが駆けてくる。

 お団子の皿を持った雷神かみなりのかみ、餅汁の丼を持った稲荷神いなりのかみも、そのあとを追ってくる。


「ユウキー、いっぱい食べてるかー?」

「いっぱい食べとかないともたないぞ、ユウキー」

「ユウキ、餅汁もまだまだあるぞ~」


 みんな笑っている。


 天津神あまつかみたちも、

 国津神くにつかみたちも、

 肩を組み合って、呑んで笑って歌っている。


 須佐之男命すさのおのみことは、櫛名田比売くしなだひめに酒を取り上げられて涙目になって、

 その傍らで、すでに出来上がっていた建御雷之男神たけみかづちのおのかみは、空き瓶を抱いていびきをかいている。



 目指す黄泉の国は、もう目前だ。

 この宴が終わったら――




♪ドドォ~ン カッドォ~ン

 ドドォ~ン カッ


 ドドドン!


 締めの太鼓が、ひときわ大きく鳴り響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る