第50話 その先へ
どれだけ戦い続けているのか、もう分からない。
スマートフォンの電池が切れてからは、今がいつで何時なのかも分からない。
赤黒い空は変わらず、沈みきらない夕陽はずっとそこにある。
朝も夜も来ないこの根ノ国では、時間はただ擦り減っていくだけだった。
腹が減れば食べる。
喉が渇けば水を飲む。
限界が来れば、ほんのわずかに目を閉じる。
その繰り返しだ。
それが何度続いているのか、誰も声に出さなくなった。
丘の上の拠点と最前線を、何度も往復した。
前回より先へ進んだと思えば、次には拠点の防衛にまで押し戻される。
斬っても斬っても、禍蛇の海は押し寄せてくる。
ズガァ――ッ!!
風と雷を纏った一撃が、黒い波を裂く。
弾けた禍蛇は塵となって消え、その隙間をすぐに別の個体が埋め尽くす。
「ったく……きりがねぇな!」
その横で、
双頭をまとめて焼き切った。
「減っているのか、増えているのか……先が見えぬな」
俺は、息を整える暇もなく次の群れへ踏み込んだ。
「フータ、デンスケ、まだいけるか?」
『まだまだ大丈夫だ!』
『あと少し、頑張る!』
前に合体してから何時間経っただろうか。
それとも何日か?
「もうひと暴れしたら、飯にしよう!!」
加速。
視界が引き延ばされる。
世界が遅くなる。
その中で俺は、目の前の禍蛇たちをただ、斬る。
斬って、斬って、斬って――
ふと、耳に刺したイヤホンから、
『大きな反応が来ます。警戒してください』
以前、神楽の湯宿や海水浴で突然現れた黒子たちは、
今、俺たちが連絡用に使っているイヤホンも、
禍蛇の海の中、孤島のように浮かぶ岩の足場に、
「ちっとは骨のあるヤツのお出ましか?」
「雑魚の掃除にはウンザリしていたところだ」
「少しは本気出せる相手ならいいっすねぇ☆」
この神たちの、真の本気を、俺はまだ知らない。
少し遅れて、
「すぐそこまで来ておるぞ」
空気が変わる。
ざわり、と。
禍蛇の海が、うねっている。
巨大な何かが、その奥で動いている。
「来たか」
次の瞬間――
黒い波が、爆ぜた。
ズォンッ!!
禍蛇の海を押し上げ、いくつもの巨大な蛇の頭が姿を現す。
「……多いな」
八本――いや、それ以上。
数え切れないほどの首が、ぐねぐねと蠢いている。
そのすべてが、一斉にこちらを向いた。
「
「いや、あん時のとは別モンだな」
その言葉と同時に、鎌首が跳ねた。
ビュォォオオ――!!
直径にすると五メートルは下らないであろう極太の首が、空気を裂きながら高速で迫ってくる。
俺は反射的に身体を捻り、すれ違いざまに斬り上げる。
ズバ――ンッ!!
一つ、首が飛ぶ。
黒い塵となって散る。
しかし――
「……え?」
瞬時に、その切断面から、ぬるりと新しい首が生えた。
「やっぱ再生するか。しかも速い!」
しかし――
ボコボコと切り口が沸騰し、次々と首が再生していく。
「おいおい、速過ぎだろ!?」
ドォンッ!!
数本の首がまとめて消し飛ぶ。
だが、そのたびに再生する。
減らない。むしろ増えていく。
「仕方ないのぉ……」
「皆のもの、離れておれ!」
振り下ろされた手のひらに従うように、巨大な光球は降下をはじめ、
やがて光球は、
「さすが、姉者だな」
「やったか!」
「やっぱ敵わないなぁ」
「
俺が言いかけたとき、
『まだです! 復活します!』
「なんだと!?」
「こやつ……不死身か!?」
「マジ!? どーやってやっつけるのさ!」
「くっ、もう一度じゃ! 特大のを喰らわせてくれる!」
再び
『皆さん、姉者の援護を! ユウキ殿、
「了解!」
いくつか向かってきた首を刎ねながら、ヤツの背後に回り込む。
俺は視線を落とした。
足元。
禍蛇の海。
その一部が、不自然に渦を巻いている。
「……そこか!」
雷嵐を纏った刀身を振り下ろす。
密かに『サンダーストーム・スラッシュ』と名付けているが、叫ぶのは自重している。
禍蛇の海が割れ、
「なっ……!」
尻尾側。
そこには、巨大な爬虫類系の頭が大きな口を開けていた。
そいつは、こちらには目もくれず、ガブガブと周囲の禍蛇を喰らっている。
喰らった瞬間、胴体が脈打ち、前方の首が膨れ上がる。
「……こっちが本体なのか?」
『ユウキよ! タイミングを合わせて討つぞ!』
「いつでもオッケー! やっちゃってー!!」
『ぬぉおおおお――!!!』
超巨大な光球が落下してくる。
無数の首が蒸発して消えていく。
「おりゃぁぁあああ!! サンダーストーム! スラ――ッシュ!!!」
必死に禍蛇を貪るデカ頭に特大の雷嵐を叩き込む。
ズドォォォン!!
雷の嵐が周辺を駆け巡り、連鎖的に禍蛇をビチビチと消し飛ばしていく。
そして静寂――。
一拍遅れて、
ボロボロと崩れるように、
それに呼応するように、周囲の禍蛇が動きを変えた。
潮が引いていくように、どこかへと消えてゆく。
地上に降りるのと同時に、
「もう限界だぁ」
「腹ぺこだなぁ」
ぐったりと俺にもたれ掛かる
「二人とも、よく頑張ってくれたな。俺も腹ぺこだぁ~」
俺も全身の力が一気に抜け、膝が笑いだす。
そこへ、
「ようやった。ユウキ、
「アマテラも、お疲れ。あんなデカいの二発も撃ったら、アマテラも腹減っただろ」
「な、なにを申すか。
頬を赤らめる
恥ずかしがるツボがよくわからない。
黒い波の密度が薄くなった、その先。
今まで禍蛇に隠されていた地形が、ゆっくりと姿を現す。
「道が……開けた」
俺は呟いた。
緩やかな起伏。
その先に、小高い丘が見える。
禍蛇の海の中に、ぽっかりと浮かぶように。
「第二の拠点に、丁度いいな」
「ようやく、先に進めるってわけだ」
俺は、息を整えながらその先を見た。
まだ遠い。
でも確実に近づいている。
黄泉の国へと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます