第47話 いざ、根ノ国へ

 根ノ国へと続く大トンネル。

 神楽丘学園側からやってきたのは、神々の精鋭部隊のようだ。


「待たせたなー」


 先陣をきって現れたのは、武の神と呼ぶに相応しい雰囲気を纏っている。

 須佐之男命すさのおのみことを思わせる、荒々しい強者の匂いがする。


「よぉ、久しいな」


 須佐之男命すさのおのみことの真正面で仁王立ちする神。


「あやつは、建御雷之男神たけみかづちのおのかみじゃ。雷の武神。

 こと戦闘ともなれば、弟者と並ぶ実力の持ち主じゃ」


 天照大御神あまてらすおおみかみが小声で教えてくれた。

 それが聞こえたのか、須佐之男命すさのおのみことが反論する。


「姉者よ、ばか言っちゃいけねぇよ。俺の方がまだまだ数段上だぜ。

 タケの実力っていうなら、そうだなぁ……のユウキといい勝負なんじゃねぇか?」


 と、親指を立てて俺を指し示す。


「ああ? 『ユウキ』だと? ……人間じゃねぇか。いや……混じってるのか?」


 ギロリと睨みつけるような視線を向け、俺を値踏みするかのように、頭の先から足の先までゆっくりと視線を滑らせてくる。


「あ、どもっす。えっとー、ユウキっす。天手力男命あめのたぢからおのみことのー」


 どこまで喋って良いのか悪いのか……そういえば、神様相手に自己紹介なんて、今までやったことがなかったような。

 俺はチラチラと天照大御神あまてらすおおみかみに視線を送った。


 すると、天照大御神あまてらすおおみかみは俺を手で制して、間に入ってくれた。


「こやつはの、天手力男命あめのたぢからおのみことの魂を宿した人間じゃ。

 今回、根ノ国、果ては黄泉の国までも同行することになる。

 人間じゃからと侮るでないぞ? 実力のほどは、弟者が申したとおりじゃ」


 建御雷之男神たけみかづちのおのかみは、信じられないとでも言いたげな表情で、俺を二度三度と見直し、眉をひそめた。


 合流した他の神々も「ほほう」と声を上げて、俺を値踏みするように見つめ、互いに顔を見合わせていた。


 ざわつく場を切り裂くように、月読命つくよみのみことの声が響いた。


「新たな穢れの群れが来ます」


 一瞬で警戒態勢をとり、シンと静まり返る。


 トンネルの奥から、うにょうにょと奇妙な音が響いてくる。

 やがて、地面を埋め尽くすほどのツチノコ……禍蛇と、その奥には双頭の大蛇が群れをなして迫ってくる影が見え始めた。


 須佐之男命すさのおのみことは、俺の肩にドンと手を置き、

「丁度いいじゃねぇか。ユウキ、見せつけてやれ。やれるな?」と不敵に笑う。


 あの数相手にか? 冗談……じゃなさそうだな。

 逆に、今ここで、あの程度の群れを対処できないようなら、ここから先へは行かせない。

 そんな気迫を感じ取った。


 ようし……やらいでか!


「もちろん、やってやるさ」


 武者震い。


「フータ! デンスケ!」

「おお!」

「まかせろ!」


 風神かぜのかみがぬるりと入り、

 雷神かみなりのかみが静電気を伴ってチリッと溶け込む。


 え!?


 イザナギの勾玉も、激しく脈打って反応している。

 前よりも力がみなぎってくる!

「ぉおお!!」


「「「神威神装かむいしんそう・サンダーストーム!!」」」


 前回は力に振り回された感があるが、今回は――

 駆け巡り、斬りまくり、元の場所へと戻る。

 風と音が遅れてついてきた。


 ドッパァ――――ン★


「(ユウキ、のあれ……毎回叫ぶのか?)」

「(サンダーストームってのは、なんだべか?)」

「なんていうか……そう! これは、男のロマンよ」


 建御雷之男神たけみかづちのおのかみは、目をぱちくりして俺を見ている。


「え? あーっと……なるほどなるほど。まあまあ、やれそうなのは分かった。

 しかし、随分と余裕ぶってるじゃないか、人間よ。さっさと穢れを倒しに――」


 穢れの群れがいた方に振り向いた建御雷之男神たけみかづちのおのかみは言葉を失った。

 押し寄せてきていたはずの穢れの群れは、すでに消し飛んでいる。


「もう倒してきたぜ?」


 目を丸くして絶句する神々の中で、須佐之男命すさのおのみことだけは満足げに頷いていた。


「なんてこった――。なんてこった!!

 ユウキ、と言ったか。すげぇ技持ってんじゃねぇか!!

 そうかそうか。認めてやるよ。ハッハッハッ!

 でもま、俺の本気にはちぃとばかし及ばないだろうがな!

 アーッハッハッハッ!!」


 ……見た目と雰囲気だけじゃなく、言うことも須佐之男命すさのおのみことと一緒なんだな。


「さすがわらわが選んだ男じゃ! 想像の遥か上をいっておる!」


 天照大御神あまてらすおおみかみは自慢げに頷いている。

 久々に頂きました『わらわが選んだ男』。


「みなのもの、これで分かったであろう? ユウキはただの人の子ではないのじゃ」


「「「おおー!!」」」と歓声が上がった。


 それと同時に、


 ドォン……。


 トンネルの奥深くから、重たい衝撃音が響いた。

 足元の地面がわずかに震える。


 須佐之男命すさのおのみことが、ゆっくりとトンネルの奥を睨んだ。

 月読命つくよみのみことは目を閉じ、静かに気配を探る。


「穢れの群れ……大物が迫ってきます」


「ほう」


 建御雷之男神たけみかづちのおのかみが口の端を吊り上げる。


 トンネル奥の闇が、ゆっくりうごめくと、さっきの倍はありそうな禍蛇と双頭の大蛇、そのさらに奥から、三つ首が姿を現した。


 異ノ国で戦ったヒドラによく似ている。それが群れを成して迫ってくる。



 須佐之男命すさのおのみことが、鼻で笑った。


「懐かしいのがいるじゃねぇか。なあ、ユウキ」


 建御雷之男神たけみかづちのおのかみが、肩を回す。


「俺も久しぶりに腕が鳴るな」


 大剣を片手でぶん回す須佐之男命すさのおのみこと

 雷を帯びた剣を静かに構える建御雷之男神たけみかづちのおのかみ


 二柱の武神が、同時に前へ出た。

 

 圧巻――


「ユウキ、お前に見せてやる」


 そう言って、須佐之男命すさのおのみことはニタリと笑った。


「異ノ国の俺が、まだまだ『本気』じゃなかったってことをなぁ!!!」


 次の瞬間、

 須佐之男命すさのおのみことの大剣が閃いた。


 地を這う衝撃波はトンネルの奥深くまで一直線に走り、穢れの群れを吹き飛ばす。

 三つ首のヒドラまでもが、その一撃で消し飛んでいく。


「フッ。相変わらずの力技だな」


 建御雷之男神たけみかづちのおのかみがスラリと剣を振る。

 轟く雷鳴のごとき一撃とともに、眩い雷光が一直線に奔った。

 三つ首のヒドラも黒焦げになって消えてゆく。



 二柱のたった二振りで、禍蛇と双頭の大蛇を殲滅。

 三つ首のヒドラも、その数を減らしていた。


 残った三つ首のヒドラ数匹が突進してくる。


「あ、良かった。俺の出番、残ってるっすね」


 二刀を携えた神が、すすっと前へ出た。


「フッシー、あとは任せてよいか?」


 そう言って、建御雷之男神たけみかづちのおのかみは剣を納めた。


「全部、貰っちゃっていいよね?」


 フッシーと呼ばれた神は腰を低く落とし、スラリと二刀を構えた。

 須佐之男命すさのおのみことは大剣を地面に突き立てて、腕を組んで頷いた。


「にひっ★」


 土煙を残して、フッシーの姿が消えた。


 と、ほぼ同時に、数体残っていた三つ首のヒドラの首が全て弾け飛んだ。



経津主神ふつぬしのかみ。剣を扱わせれば、右に出る神はおらぬ」


 天照大御神あまてらすおおみかみが、そう言いながら前へと歩み出た。


 すると、須佐之男命すさのおのみこと建御雷之男神たけみかづちのおのかみが、

「「俺には及ばないがな!」」と張り合う。


 やっぱり、この二柱は同類だ。



 ヒドラの残骸が黒い塵となって消え去ると、トンネルは再び静まり返った。




 しかし、その静寂もつかの間、再び神楽丘学園側から重い足音のような振動が伝わってくる。

 相当な人数がこちらへと向かってくるようだ。


 また増援の到着か?


 トンネルの奥にいくつもの光が灯り、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


 やがて、その姿がはっきりと見えた。

 甲冑をまとった軍勢。


 数十……いや、百は下らない。


天津神あまつかみたちに申し上げる!」


 よく通る低い声が響いてきた。


 建御雷之男神たけみかづちのおのかみが目を細める。


「……あいつか」


「我らは、葦原中つ国あしはらのなかつくにを治める大国主おおくにぬしの命を受け参上した、国津神くにつかみの軍勢にございます」


 ざわ……と神々の間に緊張が走る。


 天照大御神あまてらすおおみかみが一歩前へ出た。


「おぬし――建御名方神たけみなかたのかみではないか! 久しいな。

 して、国津神くにつかみの軍、じゃと?」


 巨大な槍を携えた神が頭を下げる。


「はい。大国主おおくにぬしは申されました」


 そして、力強く言った。


葦原中つ国あしはらのなかつくにを穢れより守る戦いであるならば、それは高天原たかまがはらだけの戦いではない」


 後ろの軍勢が、槍を地面に打ちつける。


 ドンッ!!


 響く重い音。


「この地に生きるすべての神の戦いである、と」


 須佐之男命すさのおのみことがニヤリと笑う。


「ほぉ……」


 建御雷之男神たけみかづちのおのかみも、腕を組んで微笑んでいる。

 旧友に向ける表情だ。


 槍を持った建御名方神たけみなかたのかみは顔を上げた。


「我ら国津神くにつかみは、大国主おおくにぬしの命により、穢れの討伐に加勢いたします」


 そして、槍を胸に当てた。


 天照大御神あまてらすおおみかみは、しばし黙って軍勢を見渡した。


 そして、ふっと笑う。


「よかろう」


 その声は、はっきりとトンネルに響いた。


「ならば、共に戦おうぞ」


 国津神くにつかみたちの間から、歓声が上がる。




「機は熟した! いざ、根ノ国へ!!」


 ピシッ☆


 天照大御神あまてらすおおみかみは、畳んだ扇子でトンネルの奥を指し示した。


 このノリ、久しぶりだ。

 気持ちが昂る。


「「「「おおー!!」」」」


 神々と一緒に、俺も雄たけびを上げていた。



 須佐之男命すさのおのみことと並んで、建御雷之男神たけみかづちのおのかみ経津主神ふつぬしのかみ

 天津神あまつかみの中で、武の頂点に立つ三柱が揃ったと言っていい。

 そこへ、国津神くにつかみたちも合流したとなると、前代未聞の大合戦が幕を開けようとしている。


 そして、その渦中に俺がいる。


 これは戦争じゃない。

 けど、ただの戦いでもない。


 これは――

 世界を元に戻すための、浄化のための合戦なんだ。

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