第43話 国譲り神話の裏側で……
天岩戸事変のしばらくあと、
「やはり、根ノ国で良からぬ異変が起きているに違いない」
そう確信した
そこで見た光景は、想像を絶するものだった。
穏やかな黄昏時が永遠に続いていたはずの根ノ国が、真っ黒な穢れが蔓延る荒涼とした大地に変貌していたのだ。
次々と襲い来る穢れの化身ども。
その中に、悪鬼の姿を見つけた
根ノ国の異変。
ところが、
「今、おぬしらが大挙して根ノ国へと進軍したならば、その動向は
「そうなったならば、何のための進軍かを問われるはずじゃ」
「天岩戸事変の真相を暴かれるような事態は避けねばならぬ」
今、こうしている間も
一刻も早く駆け付けなければならない。
そのとき、
「
「仕掛けるのは
・
・
・
「
突然そんなことを言われ、
だが、
これには民たちも胸をなで下ろした。
ところが、間を置かずして、第二の使者が送り込まれてきた。
再び
民たちは大いに歓喜した。
そして最後に現れたのが、
それに対して立ち上がったのは、
負け知らずとなっていた
民たちの興味は、視線は、ただ一つ。
これから始まる、その勝負の行方へと向けられていた。
・
・
・
そこには、かつての美しい黄昏の景色はなく、荒涼とした大地がどこまでも広がっていた。
そして再会を果たす師弟――。
「スー殿! 長らくお待たせ申した。無事であるか!?」
「いよー、タジー。遅かったじゃねぇか。風と雷も一緒か。うまくやってそうだな。
こっちはもう粗方、穢れは払いのけちまったぜ」
根ノ国は、どこまでも静寂に包まれていた。
「弟者よ。遅くなってしもうた。許せ……」
「天照の姉者、いいって。気にするな。思う存分、暴れることができた。あの悪鬼もぶちのめしてやったぜ」
「姉上、穢れの群れが迫っております」
「けっ。まだ湧いてくるのか。あの悪鬼、死の間際に『日に千の穢れが倒されるならば、こっちは日に千五百の穢れを生み出す』とか抜かしてやがったが……本気だったようだな」
「スー殿、それならば我らで二千の穢れを退けましょうぞ!」
「
「ガーッハッハッ! どうやら、本番はこれからだったみてぇだな!
やるか!」
「やりましょうぞ! 俺たちが編み出した技を今こそ!
フータ殿! デンスケ殿!」
「「「
外見は
「お、お前、そいつらと合神……。こりゃ~俺も本気を出さなきゃなぁ~!!」
眼前に迫りくる穢れの群れ。
そして
穢れの群れを撃退すると、
「黄泉の国への道が、開いております」
「よーし。穢れの元を断ちに行くとするか。黄泉の国へ!」
根ノ国から黄泉の国へ続く唯一の道からは、禍々しい瘴気が流れ出ていた。
「これは想像以上じゃのぉ……そうじゃ、ちと
そう言って、
「あの八岐大蛇よりヤベェ気配を感じるんだが……月読の姉者は、どう見る?」
「……黄泉の国は、生者が赴く場所にござらん。我々とてそれは同じ」
「このまま、この道を塞いでしまうのではダメなのか?
かつてイザナギがそうしたように」
「こちらから塞いでも、またすぐに押し退けられてしまうでしょう。より強固に封印するのであれば、向こう側とこちら側、両方から封をする必要があります」
「ツクヨミ殿、向こう側から塞ぐとなると、誰かが向こう側に残らなければならないのでは?」
「俺らの中で、そんな役が務まるのはタジーしかいねぇじゃねえか。
冗談はよしてくれ、姉者。ガーッハッハッ!」
そこへ
「なんじゃ、楽し気じゃな」
皆が笑っていたので、
「それでは、行ってみるとするか。黄泉の国へ!」
そして、
彼らは慎重に黄泉の国に通じる道を進んだ。
先へ行くにつれて、瘴気が濃く重くなってゆく。
根ノ国生まれの
黄泉の国で生まれた
道を抜け、辿り着いた黄泉の国。
赤と黒、それに闇が支配する世界――
すぐ足元から湧きだすようでもあり、すでに巨大な穢れの胃袋の中に捕らわれたかのようでもある。奇妙な感覚に支配される。
何度か遭遇した穢れを撃退しながら、奥へ奥へと進んでいく。
そして彼らは、見てしまった。
そして察してしまった。
目の前に犇めいていたのは、八岐大蛇を遥かに凌ぐ穢れの群れ――。
「(あれを全て相手にするのは……さすがに無謀じゃ)」
「(……悔しいが、たしかにな。俺が本気になっても、半分も倒せねぇうちに返り討ちだろうぜ)」
「(一旦引き返しましょう。そして、黄泉の国への道を封じるのです。かつて父様がそうしたように)」
「(……やはり、こちら側からも塞ぐ必要があるのでは?)」
「(何のことじゃ、それは?)」
「(あの穢れの群れが根ノ国へ向かったならば、イザナギ様と同等の封印を施していたとしても、ひとたまりもありますまい。黄泉の国側からも道を塞ぎ、根ノ国側と呼応させることで強固な封印とするしか……)」
「(ど、どうしたのじゃ、タヂカラ。おぬし、何を言っておる?)」
「(しかし、そうするしか……)」
「(ダメじゃ! 誰かが黄泉の国に残り、道を塞がねばならぬのであろう?
根ノ国の封印は我ら
とするならば、ここに残るはタヂカラ、おぬししかおらぬではないか。
そんなことは、絶対に許さぬぞ)」
「(あ……ああ、そうだな。すまなかった、アマテラ。ひとまず根ノ国まで撤退しよう。みんなで、一緒に、戻ろう)」
「(そうだな、なにか妙案が浮かぶかもしれねぇし。いったん戻って、考えようや)」
そして静かにその場を離れようとした、その時、
三つ首の禍蛇に気付かれてしまった。
彼らは出口へと急いだ。
そして、根ノ国へと続く洞窟の前で、
「タジー、お前まさか……」
「このままでは、奴らを根ノ国まで引き寄せてしまう。三つ首、八岐までなら我らで対処できるが、あれは……」
「タジー、お前最初から覚悟を決めて……。わかった……。
いつの日かきっと、我らは戻ってくる。お前の覚悟を無駄にはしねぇ。
約束だ……我が友よ……きっとだ」
力強く握手を交わし、肩を叩き合った。
「スー殿、アマテラ様を、アマテラを頼む」
その様子を遠くから見ていた
しかし、
「なぜじゃ、タヂカラ! おぬしが、おぬしが言うたであろう! 『一緒に戻る』と……タヂカラ、戻ってこい! タヂカラ―!!」
その場に立っているのもやっとだった。
「すまぬ、アマテラ……。俺にはこうするしか………………」
根ノ国へと戻った
抵抗すると思われた
その眼差しは、わずかに揺れ、怒りでも誇りでもない、胸の奥に沈んだ迷いの色を浮かべていた。
やがて
「……そうじゃな。タヂカラが命を賭したのなら、ここで
まっすぐに前を見据えた瞳には、すでに迷いは残っていなかった。
――
――――――
――――――――――
「――以上が、決して語られることのない神話。
国譲りの陰で起こっていたことじゃ」
夢から覚めると、前よりも強く
力の源がはっきりしたことで、この力の使い方が手に取るようにわかる気がした。
そして、もうひとつわかったことがある。
「俺は……黄泉の国に残ったタヂカラは、そこで朽ちる前に、声を聞いていた」
「声、とな?」
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