第40話 文化祭の出し物は

 夏休みの終盤は、お約束の宿題に追われる日々だった。


 神楽の湯宿に集まって、朝から晩まで……遊びと勉強、半分ずつくらい。

 毎日が合宿のようで、楽しかった。


 なぜか隣のクラスの不良二人組まで参加するようになって。

 あいつら五人は、宿題そっちのけで修業に明け暮れていた。


 須佐之男命すさのおのみことが「キャッチボールするか!」と言い出したときは、さすがに止めに入った。

 あいつらは普通の人間なんだから、冗談抜きで死んでしまう。



 そうして始まった新学期!


 最初の大イベントは、文化祭だ。


 神楽丘学園に来て初めての文化祭。

 俺たちのクラスの出し物は、演劇に決まった。


 しかも演目は――



 【 イザナギとイザナミ 悲劇の神話 】



 知っている人も多いであろう、神話である。



 順調に進んでいたホームルームだったが、

 神話のあらすじが書かれたプリントを見て、吠えたヤツがいた。


「おいおい! この話、まじで言ってんのか!?」


 ……ざわざわ、ざわざわ……


「(スーさん、急にどうしたんだよ)」


「だってお前……イザナギの両目からアマテラスとツクヨミが、そして、は、鼻からスサノオが誕生したっつーんだぞ!?」


 確かに……そんな内容だったな。


「それじゃあ何か? 俺らは『目くそ鼻くそ』か!?」


 クラスのほとんどの奴らは、ここにいるのが本物現役の三柱だとは知らない。


「(何を申すか。そなたは鼻くそかもしれぬが、わらわたちは清らかな涙より生まれたのじゃ。のう~月読よ)」


 月読はスンとしたまま無言で応えた。


「(アマテラもスーさんも、とりあえず落ち着けって。話がややこしくなるから)」


「(しかしよぉー……)」


 そこで、大神(天照大御神あまてらすおおみかみ)が立ち上がった。


「それでは、こういうのはどうでしょうか。最近流行りの『新解釈』という体で、私たちが新たな脚本を書き起こす、というのは?」


 それは面白そうだと、満場一致で採用された。

 新しい脚本は、大神と月読が担当することになった。


 神話の当事者たちが書き起こす脚本。

 さてさて、真実が語られるのか、それとも……。



 主な登場人物は元の神話とそう変わらないらしいので、先に配役を決めておくことにした。



 まず、イザナミ役に西園寺が選ばれた。

 すると西園寺の強硬なご指名により、イザナギ役は俺に決定。

 二人の間に誕生する火の神であるカグツチ役は、ジャンケン勝負で鈴木になり、

 そして、のちに誕生する三柱…アマテラス役、ツクヨミ役、スサノオ役は、そのままご本人たちが演じることになった。

 名前がそれっぽいからという理由で指名されていた。


 その他、ナレーターと、黄泉の国の軍勢として『穢れ人』をクラスの大半の奴らが担当することになった。





「姉さま、どこまでの真実を脚本にするおつもりですか?」


「そうじゃのぉ~。我らの誕生までなら、包み隠さず真実を語っても良かろう。

 学園の演劇、しかも『新解釈』と銘打つんじゃ。『そうだったかもしれない』程度にしか見られんじゃろう」


 夕食のあと、天照大御神あまてらすおおみかみ月読命つくよみのみことは脚本の内容について話し合っていた。


「あの神話って、そんなに真実と違ってるのか?」


「違ってるどころじゃねぇっつーの。

 考えてもみろ? 目ん玉や鼻から神が生まれるか~?」


「や、まぁ、そう言われれば、妙な話だなーとは思っていたけれど……」


「あの神話が語られた当時はのぉ、清らかだったのじゃ」


「えっと……体に付着した穢れを洗い流したら、目や鼻から生まれたって話が?」


「そうじゃ。今は逆に違和感しかないがの。あの頃は、われらが生まれた国が、問題だったのじゃ」


「生まれた国?」


「姉さま、わたくしは、そろそろ――」


「あ、ああ、そうじゃったの。……そっちは、どんな様子じゃ?」


「――もう、間近に迫っております。あまりときの猶予はありますまい」


「そうか……。それまでの間、よろしく頼む」


 何やら、意味深な言葉を交わして、月読命つくよみのみことは出掛けていった。

 探偵業の方が忙しいのだろうか。


 須佐之男命すさのおのみことまでも深刻な表情を見せているのが少し気になった。





 数日後、脚本は無事に完成し、クラスでの初読みも好感触だった。

 初稿のまま、ほとんど修正なしで決定稿になった。



「うふふ♡ 御手洗くんとあたしは、ラブラブの夫婦なのね♡」


「西園寺……元の脚本のままなら、お前、ゾンビになって俺を追いかけてくるんだぞ」


「そうだったとしてもぉー、それはそれで、ひとつの愛のカタチよ♡」


「ところで、アマ……大神。最初のカグツチや、三柱が誕生するシーンって、どう表現するんだ?」


「『どう』というと?」


「だって、生まれてくるのは、赤ん坊のはずだろ?」


「うーむ。そうじゃのぉ……」


「赤ん坊を人形にしちゃったら、四人の出番がなくなっちゃうしなぁ」


「そうじゃ。せっかくの演劇じゃ。みなで演じるのが楽しかろう」


 大神は、悪戯っ子のように笑うと、道具係の奴らに何やら指示を出していた。





 それから毎日、放課後は神楽の湯宿に集まり、演劇の練習を続けた。


「これ、マナよ。何度も言わせるでない!

 おぬし、ちとユウキにくっつきすぎじゃ」


「ええー、だってぇ、イザナミとイザナギは、ラブラブな夫婦なんでしょ?」


「まぁ、夫婦と言われればそうじゃが、神はそんなにベタベタせぬのじゃ!」


 そんな練習風景を、稲荷神いなりのかみは不思議そうに見物していた。


「ユウキとマナは夫婦になったのか?」


「そうよ♡」「違うわ!」


 天照大御神あまてらすおおみかみが、ヤキモチ妬いているみたいで、なんだか新鮮だなぁ。


「姉さま? この最後のシーンですが……わたくしたち三人ともをユウキ殿が?」

「そうじゃよ。構わぬよな? ユウキ」

「ああ、まぁ、問題はないと思うが……正気か?」

「人の子じゃったなら、そうするのであろう?」


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 準備は順調に進み、文化祭の当日を迎えた。

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