第38話 夏祭りの神さま・前編
「神坂町夏祭り! ユウキよ、祭りじゃ!」
神とくれば、やはり、お祭り好きらしい。
「祭りだと!?」
「夏祭り!」
「ほほぅ……」
当然、
「ちょすちょす♪ 祭り? アタイの出番じゃーん♡」
「……隠せよ。ちぃパイ」
ちょいちょい出掛けているみたいだ。
とにもかくにも、集まれるメンバーで一緒に行こうと盛り上がった。
◇
「あれ? アマテラ、今日は高校生モードなんだな」
「うむ。大人の身体だと、ちと胸がのぉ。窮屈なのじゃ」
でしょうね。
深紅の浴衣には太陽と雲文様、白金の帯がよく似合っている。
深い藍の浴衣には月と星の柄があしらわれていて、
銀色の帯が神格感を漂わせている。
「祭り♪ 祭り♪ 夏祭り♪」
狐の面が描かれている。
真っ白な帯も似合ってるじゃないか。
意外だったのは
オレンジに花火柄の、ちゃんとした浴衣。
はだけていない!
ちょっと足が出すぎてる感はあるが、まぁ許容範囲だ。
鈴木と太田は、ひと足先に会場入りしているそうだ。
九条は当然の如く、
海での一件で甘い展開が期待されたものの、翌日には
「御手洗くーん♡ おまたせー」
西園寺は、淡いピンクの
「あ、大神さんたち、今日は高校生なのね? それでも……」
うむ。それでも胸の大きさには差がありすぎる。
しかし西園寺、
負けてないぞ。
◇
町にある古びた神社が夏祭り会場になっていた。
なかなかの人だかりだ。
「神坂神社……初めて来たなぁ」
「あたしは小さい頃、よく遊んでたよ♪」
西園寺は地元だもんな。
「どんな神様が祀られた神社なんだ?」
「えっとー、えっとー、わかんない」
すると、
「
「
「そうじゃな。この国の大地を創り、守り続けていると言われておる」
さすがは神様だ。わかるんだな。
「ここの神社の神主さん、もう十年以上前に亡くなられちゃって、それからは今日みたいなお祭りの日とか、年末年始とかに、他所から神主さんが来てくれてるんだよ」
「へぇ~。じゃあ普段は無人なんだ」
「うん。町の人が管理してくれてるみたいだよ」
寂れた神社か。
一瞬、異ノ国で朽ち果てていた神社を思い出した。
でも今、ここは大勢の人たちで賑わっている。
どれだけの人が
けれど、今夜くらいは
そんなことを勝手に想像していた。
提灯の光、セミの声、遠くから聞こえてくる太鼓の音。
そして屋台の匂い。
たこ焼き、焼きそば、フランクフルト。
射的に、お面に、金魚すくい。
でっかい電球の形をしたボトルに入ったソーダ水。
小さい頃は大好きだった、わた飴。
立ち並ぶ露店の中ほどまで来たところで、周辺が騒がしくなってきた。
神社の広場へ向かおうとする群衆に、ぐいぐいと押される。
ドクン。
この胸の鼓動、高鳴り。覚えがある。
何かに取り憑かれたような、正気を失ってそうな目をした男たち。
間違いない。
バフ効果を振りまいて……。
もみくちゃにされているうちに、みんなとはぐれてしまった。
「わっぷ……み、御手洗くん!」
手を差し伸べて引き寄せる。
「西園寺! よかった。他のみんなとは完全にはぐれちゃったな」
「ふぇぇ~、みんな急にどうしちゃったんだろ? 有名人でも来てるのかなぁ?」
「ははは、きっとそんなとこだ」
「ねぇ御手洗くん。あたし、ちょっと人混み酔っちゃったみたい……」
「ああ、俺もちょっと疲れちまった。少し静かなとこで休もうか」
俺たちは屋台の灯りから離れ、人通りの少ない神社の横へ移動した。
さっき食べた焼きそばの味がどーだったとか、
アメリカンドッグには砂糖かケチャップかとか、
そんな他愛もない会話を続けていたが、ふっと言葉が途切れた。
提灯の灯りが、風に揺れる。
なんだか緊張した空気を感じる。
西園寺は、さっきから何度か口を開きかけては閉じている。
俺も落ち着かなくて、視線を泳がせていた。
「……御手洗くん、あのね」
西園寺が小さな声を震わせる。
顔を上げた西園寺と、目が合う。
いつもの明るい笑顔じゃない。
少しだけ震えた瞳で、まっすぐ俺を見ていた。
そして――
西園寺が、ゆっくりと息を吸った。
その時、
『いやぁ~若い者はいいやねぇ~』
「うわぁあ!?」
「え?」
いつの間に現れたのか、
俺たちの背後の岩に、見たことのない老人が腰かけていた。
「な、なんだ、じいさん。びっくりさせんなよ」
『なんだとはなんだ。随分なご挨拶じゃねぇか。え~?』
この現れ方……昔語りの老人に似ている。この老人も神様なのか?
『普段はだーれも来ない寂れた場所によぉ、正月と夏だけこんなに集まってよぉ、騒がしいったらねぇよな』
……口の悪い老人だ。
『だいたい、お前さんがた、この神社が誰を祀ってるかも知らんのだろう?』
「あ、えっと、
『おお? なんだなんだ、お前さん。よく知ってるじゃねぇか。若ぇのになぁ』
「は、はあ、まぁ、友人の受け売りだけどね」
『そうかそうか。せっかくだから、このジジイのボヤきを聞いてってくれよ。な?』
「え、ええ」
「御手洗くん……?」
西園寺が心配そうに見上げてくるが、大丈夫となだめる。
『まったくよ~、ここが誰の神社かも知らねぇで拝んでくヤツが多いのよ。
こないだなんてよ、ボロっボロな車転がしてきて「事故に遭いませんように」なんて、お前、交通安全の祈願だよ。こちとら大地の神だっつーのによ』
あ、やっぱ神様だった。しかも、
『なー、そのボロ車を、ちょっと見てみりゃなんだ。オイルは換えてねぇわ、ブレーキパッドはすり減ってるわで、いつ事故ってもおかしくねぇってもんよ。こっちは自動車整備士じゃねぇっつーの。なんだかわからんけどプラグ抜き取ってやったわ。カッカッカッ』
「あは、はははは」
まぁ、プラグを抜かれたなら車は動かず、整備工の世話になっただろうから……
結果的に祈願は達成された……のか?
『あれも多いのよ。恋愛成就。こんなジジイに愛だ恋だとまぁ~。俺がもちっと若けりゃお前、相手してやってもいいがな? カッカッカッ。まぁ、そうもいかねぇし。大好きな先輩が何かの試合で勝てますようにーとか言うからよ、安産の御守り持たせてやったこともあったな』
……よく喋るなぁ。
『したっけよぉ、数年後にな、子連れでお参りにきた家族がいてよぉ。あんときの安産の御守りぶら下げてなぁ。
――今思えば、いい時代だったなぁ』
ボヤいてばっかだけど、良い仕事してんじゃん。
すると、そこへ若い神主さんが現れた。
『またこんな場所で……ほら、祭事が始まりますよ』
『おお、もうそんな時間か。いやなに、良い若いもんに会ってな』
老人、
最後に、
『お前さん、もうじき忙しくなるじゃろうが、まぁ――……頑張れよ』
そう言い残して、すーっと姿が消えていった。
「御手洗くんってばぁ」と、西園寺に揺さぶられる。
「誰と喋ってたの? もしかして、オバケ?」
え……西園寺には、視えてなかったのか。
「いやぁ……多分、神様だ」
『もうじき忙しくなる』……また異ノ国へ行くとか言い出すのか?
その時、社殿の裏手から、数人が言い争っている声が聞こえてきた。
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