第36話 夏休みといえば、海でしょう・後編

「じゃじゃーん! どお? 御手洗くん♡」


 元気に現れた水着姿の西園寺。

 淡いピンク色のオフショルダーに、ミニスカート付き。

 露出した肩と太ももが眩しい!


「水着っていうか服みたいで可愛いね。似合ってるよ。すごく」

「うんうん。すごく良いですよ! 西園寺さん、西園寺さぁ~ん♡」

「安定の清楚系ヒロイン装備、守りと攻めのバランス、完璧でござるよ♡」

「困ったな。今日は海を見に来たのか、キミを見に来たのか、分からなくなってしまうよ(ふっ)」


 ふふ~ん♡ と満足気にポーズを決める西園寺。



 次に登場したのは、天照大御神あまてらすおおみかみだった。


 真紅のビキニ!

 シースルーのホルターネックが胸元のラインを美しく際立たせ、

 腰に巻かれた白いパレオがさりげなく太ももを隠す。

 それがかえって、目を惹きつける。


「ぉぉー」

「ほぁー♡ 大人っぽいです……てか、大人ですねぇ」

「まるでCGではござらぬか!? 破壊力が限界突破するでござるよー!!」

「見事……美しい……どんな言葉も陳腐になってしまう」

「大神さん! それは反則よ、反則!」


 当然じゃと言わんばかりに、神ポーズを決める。

 後光のエフェクトは自粛したらしい。



 そして、九条のお待ちかね。月読命つくよみのみことが現れた。


 紺色のワンピース。

 片肩だけを通すワンショルダー、ウエストにはカットアウトが入り、くびれが際立っている。

 こちらも腰には白いパレオが軽く巻かれ、落ち着いた色合いの中に柔らかなアクセントを添えていた。


「ぉぉぉー」

「片方の肩だけってのが、妙にそそりますねぇー」

「大人クール系の完全体!! 完成度高すぎでござるよー!!」

「ううー月読さんも大人過ぎる……反則なんだからー」

「うむ。さすがじゃのぉ」


「ああーどうにかなってしまいそうだ!!

 ボクは今日、この日のために生まれてきたと言っても過言ではない!

 それほどまでに魅力的だよ。月読さん!」


 知らない客たちもどよめいている。

 周りがどれだけ熱くなろうとも、月読命つくよみのみことは相変わらずのクールビューティー。

 さらりと髪をかき上げ、颯爽と目の前を通り過ぎていく。

 そして、砂浜に設置されたパラソルの下に横たわった。


 九条はもう、その横から離れないだろうな。



 そんな喧騒の中、ひょこっと顔を出したのは稲荷神いなりのかみだ。


 ……なぜかスクール水着。

 胸元には『イナリ』と書かれた布まで縫い付けてある。


「……」

「これはこれで、あり突破のありでござるよ」

「かわいいー♡」


 稲荷神いなりのかみは、風神かぜのかみ雷神かみなりのかみと一緒に走り去っていった。



 最後に「おっまたー♪」と登場したのは天宇受賣命あまのうずめのみこと


 古代エジプトの踊り子のような水着――

 もう、ちぃパイ見せちゃってじゃん!?


「あー♡」

「なんと!?」


「え? え? 見えちゃってるわよ? いいの? ねぇ、いいの?」

 西園寺がうろたえている。


「ちょ、旦那さん! なんとか言ってやって!」


 寡黙に座っていた猿田彦命さるたひこのみことは、頬を赤らめてひと言。


「良き♡」


「……なんでやねん。なんでここで晒すのは良くって、混浴はNGなんだーっ!?」


「なーによユキりん。混浴はダメっしょ? ね、ダーリン♡」


 くぅぅ……。


 天宇受賣命あまのうずめのみことは、猿田彦命さるたひこのみことと二人、手を繋いで立ち去った。



「さて、ユウキよ。我らも楽しもうぞ♪」


 そうだな。

 思えば、こんなに楽しそうに笑う天照大御神あまてらすおおみかみを見たのって、いつ以来だろう?


 異ノ国……いや、もっと前か。


 


 いつなのか、どこなのか、分からない。


 が……


 微笑む天照大御神あまてらすおおみかみ


 爆笑する天照大御神あまてらすおおみかみ


 恥じらう天照大御神あまてらすおおみかみ


 いくつもの表情が一瞬だけ浮かんでは消えていく。



「ほ~ら、御手洗くん!」

「なにをボーっとしておるのじゃ?」


 西園寺と天照大御神あまてらすおおみかみに手を引かれて、我に返った。


「あ、ああ、ごめん。よーし! 遊ぶぞー!!」



♪~


 波打ち際で水を掛け合い 笑い声が潮風に溶けていく

 浮き輪に乗ってぷかぷか揺れて 青い空を見上げる

 砂浜に城を築いて 子どもみたいにマジになって


 沖まで競争して 熱い砂に寝転んで

 まぶしい空を仰いでしばし休憩


 屋台のかき氷で舌を染めて 砂に埋められて笑われて

 ビーチボールを追いかけ 砂を蹴って走る


~♪



 俺たちは海を存分に満喫した。


「そういえば、スーさんとあの三人組はどこ行ったんだ?」

「ひとけのない岩場の方で修業だーとか言ってましたよ」

「じいさんたちの姿も見なかったな……」

「天之爺やたちなら、海の家の奥で雀卓を囲んでおったぞ」

「御手洗くん、喉渇いてない?」

「飲み物買って、パラソルんとこ戻ろうか。九条と月読、まだ一緒にいるかな?」


 などと言いながら戻ってみると、ちょっと不穏な空気が漂っていた。


『お姉さ~ん、そんなガキほっといてさ~、オレたちと遊ぼうぜ~?』

『その水着、めっちゃ似合ってるね』

『ちょっとでいいからさぁ、付き合ってよぉ~』


 どうやらナンパ男たちが月読命つくよみのみことに目を付けたらしい。


 九条がすっくと立ち上がった。


「キミたち、大人しく去りたまえ。この人は、キミたちのような軽薄な男が声をかけてよい人ではないのだよ」


 九条のヤツ……煽るねぇ。

 ヤバくないか?


『なんだ? ボクちゃんの出る幕じゃねーつーの』

『大人しく去るのはお前だよ。ボクちゃん?』

『おら、どいてろ』


 ドカッ☆


 あいつら、九条を蹴り飛ばしやがった。

 間に割って入ろうとしたが、天照大御神あまてらすおおみかみが俺の腕を掴んだ。

 月読命つくよみのみことがゆっくりと立ち上がる。


 しかし、起き上がった九条が、蹴られた腹をさすりながら間に立ちふさがった。


「ぐっ……こ、この人に、近寄るな」


『ガキが、しつけーよ』


 ドゴッ☆

 バキッ☆


「ぐはっ……月読さんは……ボクが、守ります!」


 殴られても立ちふさがる九条。

 あいつ、意外と根性あるんだな……。


 そこへ、須佐之男命すさのおのみことと、満身創痍状態の三人組が戻ってきた。


「あ? なーにやってんだ、お前ら。俺の連れに何してくれてんだ?」



 ナンパ男たち、ご愁傷様です……。




「さてと、わらわたちは、もちっと遊ぶとするかのぉー。

 弟者よ、おぬしたちも来るがよい」


 九条と月読命つくよみのみことを二人きりにしようって魂胆だな。


「そういや、イカ焼き食ってなかった。屋台の方、行こうぜー」

「あたし焼きそば食べたーい」

「エビやホタテも焼いてたぞー」

 ……わいわい、がやがや……


 振り向くと、月読命つくよみのみことに膝枕してもらっている九条が見えた。

 ナイスファイトだったぜ、九条。





――夕暮れ時――


 人もまばらになった砂浜に勢ぞろいして集合写真を撮った。


 どこからともなく現れた何人もの黒子たちが、

 みんなのスマホを預かってポジションに着く。


 神楽の湯宿にも大勢いたけど、あの黒子たちはどこから湧いてくるのだろうか。


『はーい、こっち視線くださーい☆』

『つぎ、こっちですよー☆』

『こっちもねー☆』

『はいヤオヨロズ☆』


 なかなか忙しない黒子たちだ。


 夕日を背にして撮った写真は逆光だったけど、

 良い想い出になったかな。





 帰りのバスの車内では、騒がしかった一日が嘘のように、穏やかな時間が流れていた。

 遊び疲れた皆は、心地よいバスの揺れに身を任せ、次第に眠りへ落ちていく。


 月読命つくよみのみことは九条の肩にもたれ、小さな寝息を立てていた。昼間あれほど寝ていたというのに、まだ眠るらしい。

 当の九条はというと、困惑した表情のまま石像のように固まっていた。


 そんな中で、俺も――

 最後部の座席の真ん中で、西園寺と天照大御神あまてらすおおみかみに挟まれ、微動だにできずにいた。

 右も、左も、柔らかい。

 これは、眠るわけにはいかない。眠れるわけがない。



 楽しかった夏の一日は、こうして静かに終わっていく。

 この時間が、いつまでも続けばいいのにと思った。


 ――まじで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る