第3話
最初は何の騒ぎかと目を丸くしたものだ。
無事に入場手続きは済んだものの、いろいろ始まるまでにはまだ少し時間がある。
「せっかくだし、少し街を見て回ってみようかな」
軽い気持ちで散歩に出てみたのだが。
「あれ……? なんか向こう、ずいぶん騒がしいような……?」
出くわしたのがこんな喧騒でビックリ。
「えっ、ちょっ……! 何これ、ケンカ!?」
と、とにかく……! 早く止めなきゃ!
勢いで一歩、踏み出しかけたところ。
「おいやめときなって嬢ちゃん、ムダだ」
気にかけてくれたのだろう。
取り巻きのなか、声をかけてきたのがたまたま隣に立っていた八百屋の店主だった。
そのまま立ち話にシフト。
雑談チックに話していたというわけで。
「ところで嬢ちゃん、見ねぇ顔だな。此処へは最近来たのか?」
「はい、今朝着いたばかりです。アルメリアっていいます。ポーション作りの応援に行けって言われて来ました」
「ポーション作り? あー、そうだそうだ。そういや、新人が何人か来るって話があったな」
目線を上にやりながら、思い出したように店主が頷く。
「あの、それで……これは一体?」
「ああ、これか」
そんなやりとりをキッカケに、話題はポーションのことへと移っていったのだった。
――で、そう。
話を戻して、此処は 『ガレイア』と呼ばれる要塞ギルドだ。
役割や戦況についてはさっき話した通りで、とりわけポーション需要の高い激戦区となっている。
だが、ここで強調しておきたいのは――。
その需要に対して、供給があまり追いついていないということ。
いや、正確には少し違うのかもしれない。
「本数はまぁ一応揃ってる。問題は質なんだよ」
「質……?」
ここでちょっと踏み込んだ話にはなるが。
ポーションの調薬にはぶっちゃけ、腕前の差……つまり上手い下手がある。
調合師の技量により、ポーションの出来栄え。
つまりは服用した際の効き目や効果時間にだいぶ差が出るのだ。
「体力や魔力の回復量、解毒薬なら効き始めるまでの時間――まあ、色々あるわな。あとは飲みやすさも大事だ」
「飲みやすさ?」
「要は味だな。良薬口に苦しとは言うが、
「それは……確かにそうですね」
「中には一定の割合で、副作用があるなんてバクダン調合師もいてな」
早い話が、ピンキリということ。
ポーションの価格は品質に左右されるので、よく効くものはそれなりに値も張るが。
「いざってときの命綱となれば、あまり安いものじゃ不安ってのが人の心理だ。ついでに品質の良いポーションは、ランクの高い冒険者に優先して回される。ここまで言や、もう分かんだろ?」
「なるほど……それでこんなことになっていると」
残り物のなかで少しでもマシなものを獲得しようと我先に。
殺到した冒険者たちによる早い者勝ちの奪い合い。
それがこの騒ぎの発端と、どうやらそういうことのようで。
ちなみにまだ「おらー!」とか「この野郎!」と取り合いはワーギャーと続いていた。当分、収まりそうもない。
「言っとくが、この街じゃもう、こんなの日常茶飯事だからな」
「止めなくて、いいんですか……?」
「そりゃあ、止めた方がいいに決まってるだろうけどよ……。しゃあねぇだろ。言っても聞かねぇし、なんかもう見慣れちまったんだからよ」
どこか投げやりに、諦め混じりの嘆息を付く店主だった。
「ところでその腕、どうかしたのかい?」
「あぁ、これはちょっと……いろいろありまして」
包帯で吊った、ほぼ治りかけの腕骨折。
そこの経緯はちょっと濁しつつ。
「ま、そういうことだからよ! いろいろ骨の折れることもあるだろうが1つ、嬢ちゃんの力も貸してくれや! 頼りにしてんぜ!」
「はぁ……」
気前の良いニッカリ笑顔で、「頑張れよ〜!」と送り出される。
そんな入場初日から、アルメリアのポーション作りの日々が幕を開けたのだった。
ところが。
それから半月あまり、事態はちょっと想定外の展開を迎えている。
まずポーション不足についてだが、これはある程度緩和されたと言ってよいだろう。人手が増えたことでポーションの生産量も大幅に伸びたからだ。
「新たに加わった調合師らがそれぞれの持ち場で店舗を構えたことにより、客足も徐々に分散されつつあるようです」
「そうか……! それは良かった!」
そうと聞いたとき、ギルド長もほっと胸を撫で下ろしたものだ。
これで少しは状況も落ち着いてくれるかと。
しかし、それから数日と間をおかず、思いもよらない報告が飛び込んでくる。
「なに!? また冒険者たちがモめている!? ポーションの取り合いだと!?」
いったいどういうことかと、急ぎ現場に足を運んでみれば――。
「これは……!」
まさかだった。
一度は収まったはずのポーション争奪戦が、ある店先で再び勃発しているではないか。
そして同じく、その様相を遠巻きに見やりながら。
「こいつぁ、たまげたぜ……」
呟いたのは、あの八百屋のコワモテ店主である。
お見それしたと、そう言うほかない。
なにせ。
「どけコラァ!」
「ちょっと、押さないでよ!?」
「頼む、対価ならいくらでも出そう! 我にポーションを売ってくれぇ!」
といった喧騒をまえに、戸惑いの色を浮かべている店主――赤毛の少女にとても見覚えがあったからだ。
「まさか、ここまでだったとはなぁ……」
あのときこそ訳知り顔でレクチャーしたし、軽いノリでひと肌脱いでやってくれ的な後押しで送り出したけど。
「嬢ちゃん」
騒ぎの中心。
そこにいたのが他ならぬ、アルメリア・リーフレットで。
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