第4話
事の次第はまぁ、至ってシンプルだ。
確かに人手を増やしたおかげで、ポーション不足は一時的に解消された。
だが、数日も経つと――冒険者たちのあいだでは、あちこちで噂やレビューが飛び交うようになる。
「あの店は効きはいいけど、高すぎる」とか、
「こっちは効果時間は長いけど、味が死ぬほどマズい」とか。
そんな中――ただ1軒だけ、誰もが「これは」と口を揃え、
そう、それこそがアルメリアの店。
味よし、効き目よし、持続時間も申し分なし。
価格も高すぎず、安すぎず。
「ねぇねぇ聞いた!? あのお店のポーション、すっごく美味しいんだって!」
「あぁ、あの店だろ。赤毛の女の子がやってる」
「アルメリアちゃんだっけ。あの子、可愛いよなぁ」
そんな評判はあれよあれよと口コミで広がり、広がり。
で、気付けばこんなことになっていた。
ぶっちぎりの独走状態である。
ちなみに。
まだ開店前だというのに、押すな押すなの大混雑。
詰めかけた冒険者たちで既にごった返していると店先の様相に。
「……わぁ」
驚いているのは当人であるアルメリアもまた同じ。
呆気に取られたまま、ポカンと立ち尽くすばかりだった。
――とまぁ、そんなわけで。
アルメリアのポーション店は、いまや『ガレイア』で知らぬ者はいないほどの人気店となっている。
心理的な意味合いでほとんど追い剥ぎのようなメにあいながらも、どうにか客を
それからスリラー気味にフラフラと。
「はうぅ、疲かれたぁあ……」
直近に2人ほどできた友人たちのところにバタンキューすることも、またアルメリアの日課となっていた。
「お疲れ様ですわ。それにしても相変わらず、凄まじい人気ですことね」
「ホントにすごいよね、アルのお店! 今日も大繁盛! お客さんの数、こっそり数えてたんだけど昨日よりさらに増えてたよ! また最高記録更新!」
「そんなぁ……」
嬉しい悲鳴も、行き過ぎればただの悲鳴でしかない。
肩を揉まれながら、ぐったり。
天を仰ぐアルメリアだった。
そんな2人にも最近はお店を手伝ってもらっていて、もう感謝しかないのだが。
――で、そう。
話を戻して、マンドラゴラ。
別名マンドレイクとも呼ばれる、まぁ言ってしまえば"木の根っこ"だ。
でもただの植物ではない。
強壮、鎮静、解毒、
「マンドラゴラ? いや、ないない」
「つーかあれ、普通に都市伝説だろ?」
そんな風に
眉唾だ迷信だと片付けられ、地方によってはネタ扱いされてしまうこともしばしばと伝説級の逸品――超激レアアイテムなわけだが。
なんとそれが、この村の近くに生えていると言うのだ。
「えっ?」
いきなり飛び出したそのワードに、ドキッとなって手が止まる。
集中力がポーンと飛んでいって。
「あ、アル! それ……!」
「へっ……? わわっ!!」
ボフンッ――。
手元のフラスコから、モクモクと煙が立ちのぼったりもしたけれど。
「それにしても珍しいこともありますのね。アルメリアさんがこんな盛大に失敗なさるだなんて」
「疲れてるんじゃない? そりゃそうだよ。この頃ずっと働き詰めだもん。休みもまとまったのは取れてないだろうし……。ねぇアル、休みもちゃんと取らなくちゃダメだよ? 休むことも仕事のうちって、父ちゃんも言ってたんだから!」
「あ、ううん。ヘーキ、ヘーキ。今のはちょっと失敗しちゃっただけだから。それよりギルダ、さっきの話って……?」
「さっきの話? あぁ、マンドラゴラのことですの?」
「あ、そうそう。ところで、なに? そのマンド・ラゴラって」
「マンドラゴラ、ですわ」
失敗したポーション瓶の廃棄や掃除を手伝ってもらいつつ。
アルメリアが尋ねたのは同じくポーション屋の1人、ギルダ・ティーンレイクにだ。
ちなみに、もうひとりいる人懐っこい少女はスーラン・ハルジオン。
実は最初にこの街で知り合った、あの八百屋の店主の娘だったりする。
ただ家業ゆえか、あるいは生来ののんびりした性格のためか。
スーランは冒険者稼業とかその
だからまぁ。
「はぁ……もう、仕方ありませんわね」
などと言いながら、なんだかんだで面倒見の良いギルダがあれこれと教えてくれる。そこからまたトークが広がっていくわけだ。
「いいですこと? マンドラゴラというのは」
うんぬんかんぬん。
「へぇえ、そんな便利なキノコがあるんだ! それもこの街の近くに? すごいすごい!」
「キノコではありません。木の根っこです」
もし手に入れることができれば、この街のポーション事情も一挙に解決するだろうと。(おおおおと目を輝かせながら、スーランはすごい興味津々。)
「でもだったら、なんで採りに行かないの?」
「そう単純な話でもないのですわ」
いろいろ聞こえた。
まずもってどこに生えているのか分からないこと。
唯一それを知っていそうなのが最近、森の奥地に住みついたという魔女なのだが。
ガレイアの主力である三兄弟――ライナルト、ジルクリフ、レドックスの力をもってしても状況を打開できず、事態が
「おまけに最近では、魔王軍の幹部クラスまで動きだしているそうですし……」
「あっ、それなら私も聞いたよ! でもたしかレドックスさんが一人やっつけたって話だったよね?」
「ええ、そのようです。でも――もしかすると、彼らも狙っているのかもしれませんね。そのマンドラゴラを……」
だから一刻も早く、魔女を説得しなければならないのだ。
「彼女が中立を保っているうちはまだいいのですが……万が一、魔王軍に加担するようなことがあれば、形成は一気に傾くかもしれません」
「そんな……」
ちょっと深刻な雰囲気になりつつ、そんな話を……。
気まずかった。
何が気まずいって、もう全部だ。
後ろめたいというか、心苦しいというか。
とにかく申し訳なくなる。
「……? アルメリアさん、どうかなさいましたの? さっきからずっと黙っていらして」
「ごめんアルぅう、体も大事にしながらやっぱり頑張ってええ」
いまの話で心配より不安の勝ったスーランから抱きつかれたりもしたが。
「あ、ううん。なんでもない。なんでも……ないよ?」
アセアセと、アルメリアはその場をやり過ごすしかなかった。
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