第2話


 ――で、そう。

 話を戻して、マンドラゴラ。

 といきたいのだが。


 そのまえにまずは、アルメリアという少女についての話をしよう。


 アルメリアは最近この“街”にきたばかりの、小さなポーション屋の売り娘だ。ただ街と言っても、どこかにある平凡で長閑のどかな市街というわけではない。


 此処はいわゆる"要塞ギルド"だ。

 都市に魔物が入り込むのを防ぐために設置された防衛拠点、砦の1つ。

 冒険者が集い、日々戦いに明け暮れている。


 なかなかの激戦区だ。

 本当なら1パーティにつき1人、ヒーラーや神官が加入していることが望ましいが。


 このご時世、人手不足はどこも同じ。

 そうも言っていられないのが実情。


 だから次点のポーションがとても重宝ちょうほうされる。



「まぁ一言でポーションつっても、いろいろあるんだけどな。体力や魔力の回復、解毒、強壮、滋養。なかには攻撃力や防御力を一時的に底上げしてくれるなんてものもある。その点に関して言や、そこらのヒーラーや神官よりよっぽど芸達者だよ」



 冒険者たちにとっての必需品であり、まさに生命線なのだと。

 元冒険者だという、たまたま立ち話となった八百屋の店主が教えてくれた。


「中途半端な余り物を押し付けられるくらいなら、多少荷物が増えてもポーションの方がずっとマシ。便利で優秀、何より文句もタレねぇってな。そんなわけで此処『ガレイア』の街では、とりわけポーションの需要が高いんだ。けどなんだか最近、妙に魔物たちの動きが活発化してるみたいでよ」


「なるほど。それでポーションの生産が追いつかなくなっていると?」


「そういうこった。結局ポーションで事足りるつっても、造れる人間にしたってそうゴロゴロいるわけじゃねぇ。だから嬢ちゃんたちにお声がかかったってわけよ。卓越した『調合スキル』の持ち主たちにな」


「うーんと。卓越してるかは、ちょっと分からないですけど」


 大袈裟に持ち上げられて、アルメリアは困り笑顔で応じる。

 でもまぁ、つまりはそういうことだった。


 追いつかなくなってきたポーションの供給を間に合わせるため、ギルドはこのたび、そういう人材を幾人か派遣したり、内外から募集をかけることにしたのだと。


 店主も言った通り、そのうちの1人がアルメリアだ。

 さっき入場審査や手続きを終え、街に入ったところになる。


 これから順次、研修なりオリエンテーションを挟んで、アルメリアもポーション造りを手伝っていくことになるわけだが。



「じゃあつまり、これは……」

「おうよ、そういうこった」



 そこでいったん視線を正面に戻しつつ、チラと横目をやりながらアルメリアはおすおずと言う。やや気まずげな面持ちとなりながら、店主も頷いて。


 ここでちょっと、そもそもの話を挟みたい。

 なぜ今、2人がそんな立ち話をしているのか。


 今日この街にやってきたばかりで、お得意さまでもなんでもないアルメリアと店主が、なぜ……?


 答えはやや遠巻きで繰り広げられている騒乱にあった。

 最初にこの光景に出くわしたときは、いったい何事かと呆気に取られたものだが。


 いまの話で合点もいこうものだ。

 腑に落ちる。というのも。


「どけぇ、そのポーションは俺のもんだぁ!」

「おいテメェ、なにしれっと横取りしてやがる! それは俺が先に目をつけて……!」

「なぁこのポーション、ホントに大丈夫なんだろうな!? 下の方に何か沈殿してやがんぞ!」

「少し黄色味きいろみのかかった奴は気を付けろ! 昨日、それを飲んだ奴が何人か倒れてる!」


 何人もの冒険者が押し合い、へし合い。

 とにかくすごい喧騒ことになっているのだから。


「……わぁ」


 仁義なき、ポーションの争奪戦とりあい勃発ぼっぱつしていた。

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