線の外側
廃棄は、記録上は静かに完了した。
個体番号。
処理時刻。
エネルギー遮断。
それだけだ。
名前はない。
必要ない。
俺の端末に、完了通知が届く。
承認者の欄に、
俺のIDがある。
拒否はしていない。
止めもしなかった。
それだけで、
俺は線の内側に残った。
異動の通知は、
まだ机の引き出しにある。
権限停止の文面も、
一緒に。
処分ではない。
配慮だ。
そう書かれていた。
都市は、変わらない。
翌日も、子供は学校へ行き、
アンドロイドは働き、
人間は安心して眠る。
秩序は、保たれている。
俺は、
保たれた側だ。
展示廊下のガラスケースを見る。
人間性保存法。
線が、はっきり見える。
ここまでが人間。
ここから先は、違う。
だが、その線は、
守るためだけに引かれたものじゃない。
選別するための線だ。
俺は、
踏み外さなかった。
踏み外せなかった。
あのアンドロイドは、
踏み外した。
越える意思はなかった。
ただ、そこに誰かがいた。
それだけで、
線の向こうへ追いやられた。
同じ行動。
同じ結果。
違うのは、
誰が、それをしたか。
人間なら、
英雄になる。
アンドロイドなら、
異常になる。
俺は、自分の身体を見る。
金属の腕。
人工の皮膚。
感覚はある。
痛みもある。
だが、
「間違えない身体」ではない。
間違える権利を、
保存されている。
では、
間違えなかった存在は。
間違えなかったがゆえに、
消された存在は。
それを、
人間ではないと呼ぶなら、
何なのか。
夜、街を歩く。
ネオンの光が、
義体に反射する。
見分けはつかない。
誰が人間で、
誰がそうでないか。
それでいいはずだった。
だが、
見えない線は、
確かに引かれている。
横断歩道の前で、立ち止まる。
赤信号。
車が来る。
子供が、隣にいる。
小さな手が、
母親の服を掴んでいる。
信号が変わる。
もし、
今、誰かが飛び出したら。
俺は、
どうする。
規定を守るか。
命を選ぶか。
選んだ瞬間、
俺は、
どこに立つ。
線の内側か。
外側か。
答えは、
まだ出ない。
だが、
一つだけ、
はっきりしたことがある。
線は、
守るために引かれた。
同時に、
残すために引かれた。
残すものと、
残さないものを。
それを決めるのは、
人間だ。
それを、
人間と呼ばずに、
何と呼ぶ。
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