第6話 女子会

夏が終わり秋を迎えると、本格的に収穫の季節だ。麦やキビ、芋等、村人総出で行われる。弓が得意な者は、冬に向けて狩りに出る。大陸の南に位置する為平地は冬でも雪は降らないが、標高の高い山村は薄っすらと雪に覆われる事もある。寒さに強い野菜なら多少は育つが、食料の備蓄は大事な仕事だ。

 収穫が終われば、村全体で収穫祭が行われる。自然の神々に収穫した野菜や穀物を供え、実りに感謝を捧げるのだ。この時は、酒やご馳走を持ち寄って宴会が開かれる。そして、今年は村の若いカップルの結婚式も執り行われる予定となっていた。

「わー、それ、結婚式の衣装なの。めちゃ可愛い。」

新婦は、今年17になったセラで、愛嬌のある顔だちの小柄な少女だった。藍色の生地をベースに色鮮やかな糸で、極彩色の羽を広げた鳥と、蔦の絡まる植物が描かれている。村の女性達が分担して刺繍を入れたのだそうだ。それに、レースの様に細い糸を編んだヴェールを被る。当日は、髪を編み込んで花を飾ると言っていた。

「フィーもたまにはスカートを履いたらいいのに。絶対に似合うと思うわ。」

衣装のサイズを確認しながら、セラが振り返る。この日彼女の家には、去年結婚したばかりのリリファと、今年15になるアイナが集まっていた。

「そういえば、フィーっていつもズボンだよね。」

アイナが不思議そうに首を傾げた。村の女の子達は、皆、長いスカートを履いているからで、フィーの様にシャツとズボンという服装は珍しい。

「うーん、スカートだと戦闘の時動き辛いんだよね。」

現在、村の守りの主力はフィーだ。村の男連中を軽々とあしらうのみならず、仲間内でも剣では最強らしい。だから、魔獣がいつ来ても即対応出来る様に、彼女は剣を手放さない。

「お祭りの時くらいはいいんじゃない?私のお古で良かったら、仕立て直して着れる様にしてあげる。」

リリファが年上ぶって提案する。服を作る生地は貴重だ。サイズが合わなくなった服や、綻びた服も、長さを変えたり、綻びに当て布をして刺繍を施したりして大切に着ているのだ。

「えー、勿体ないよ。そんなに着る機会なんて無いのに。」

「フィーは誰か好きな人いないの?」

この年頃の女性が集まれば、当然話は恋バナとなる。リリファは既に結婚しているし、セラも相手が決まっている。因みに、アイナも来年には隣村の青年と結婚する予定だ。となると、注目がフィーに向くのは必然だった。

「えー、それとこれって関係あるの?」

これまで同年代の少女達とほとんど交流の無かったフィーは、彼女達の意図が掴めずにいた。

「もちろん、好きな人の心を掴む為よ。」

「そうそう。いつも男装の女の子がおめかししたら、大抵の男は落ちるわ。フィーは美人だから、とびきり綺麗にしたら絶対に惚れると思う。」

「そうなの?」

見た目を重要視しないフィーにはいまいち分からない感覚だが、女性達は揃って力強く頷いた。

「男なんて単純だから。」

「見た目も大事。」

「フィーのスカート姿、私も見たい。」

「じゃあ、お願いしようかな。」

 長い間、女性らしい服装等着る事は無かった。だからといって、特別嫌いな訳では無い。それに、いつもと違う彼女の姿に、どんな反応を見せるか楽しみでもある。

「それで、フィーの好きな人って、村の人?」

「それは無いと思うわ。フィーの仲間の人達って、みんな村の男達と違って垢抜けてるもの。」

「レティは綺麗でかっこいいし、リオも結構イケメンだよね。」

「レティね。」

金髪碧眼の美青年は、密かに村の女性陣のアイドル的な存在になっているという。まさに絵に描いた様な王子様と言わんばかりの外見だ。それも分からない心境では無い。

「もうちょっと小さい時は、もっと女の子みたいで、本当に可愛いかったのに。」

まるで成長した事が大きな損失であるかのように、フィーはため息を吐いた。その様子を見て娘達は顔を見合わせる。

「レティでもリオでも無いなら。」

「まさか、ディオンさん?」

「ないない、それはないでしょ。だっておじさんだし。」

3人はこそこそと話し合う。

二人の若者と比べると、どうしてもディオンは霞んでしまう。確かに、腕のたつ魔法使いではあるが、普段はいつも寝ているイメージで、いまいち印象に残らない。そもそも年齢的に対象外であり、近所のおじさんくらいにしか、見ていないのだ。

「ふふ。何か楽しみになってきた。リリファ、ありがとう。私、絶対に落として見せる。」

「うん。頑張って。応援するから。」

「フィーが結婚する時は、私も衣装の刺繍するわ。任せて。」

こういう繋がりも悪く無い。

国を出る時には、ずっと定住する事無く出会っては別れていく、そんな生活を送っていくものと思っていた。同年代の娘達と恋バナで盛り上がる日が来るとは想像も出来なかったのだ。

たとえ、長い人生の中の一瞬の出来事だったとしても、その一瞬であるからこそ尊いのだと、フィーは胸に灯る暖かさを噛み締めていた。





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