第3話 名も無き「国」の話

パーティーから追放された後、私は王都フルートを去り、最初の目的地はギルバルト公国という国です。


私がまだ見習いだったころ、先生から話は聞いていました。ギルバルト公国には周辺国にはない、独自の文化があり、人々は活気に溢れているそうです。


パーティーメンバーとして近くに訪れた時は

フルート王国と戦争など政治的な事情で入国できなかったのですよね…


戦争で壊れていないと良いのですが…


しばらく箒で飛んでいると、明らかに周りとは違った雰囲気の町が見えてきました。地図を見るにあれが、ギルバルト公国でしょう!


私が都市の入り口から入ろうとすると、武装した門番に呼び止められました。


「失礼ですが、貴女の職業と目的を教えてくれますかな?」


「私は魔女の旅人、トリニアです。ギルバルト公国には旅人ですので旅…観光です」


すると門番は顔色を変えて言いました。

「ギルバルトだと!その言葉はこの国では禁じられている!ここはフルート王国領ギルート地方だ! 旅人というのも怪しいな…まさか反逆者の身内ではあるまいな! 魔女というならば、魔女資格を出せ!」


そんな怒鳴らなくても、、と思いましたが、槍を突きつけられているので素直を従いましょう


「はい、これでいいですか?」


私が魔女資格証を出すと、門番はまだ疑ってそうな顔をしていますが、通してくれました。


「やはりモフロとかいう向こうの大陸の人間は魔女でも無知なんだな。」


と門番に去り際に言われ、かなりイラッときましたし、やけに心に引っ掛かりましたが、大人の余裕で無視してあげましょう。


しかし、この街の地図を見ると、「ギルート地方」と書かかれています。本当に滅んでしまったのですね。

そういえば町の人々の顔も心なしか暗い気がします。


とりあえず町を探索しましょう。先生は、昔ギルバルトの噴水を見て、その美しさにとても感動した、と言っていました。確か公爵家の屋敷の前にあったはずですが、地図にはのっていませんでした。


私は公園のベンチに座っている老夫婦に尋ねることにしました。


「すみません、旅の者なのですが、少し道をお聞きしても? 」

するとおじいさんはにこやかな顔で言いました。

「おや、こんなかわいらしい娘さんが今時旅ですか…こんな空っぽのところに何を求めてきたのかわかりませんが、私でよければ」


「公爵家の屋敷の近くにあるという噴水を見たいのですが、それはどちらに? 」


私が尋ねると横に座っていたおばあさんが血相を変えて大きな声で

「あなた! 何てこと聞くの!? 公爵様は…もう…失礼な娘ね! どこかに行って頂戴! 」と、


また怒鳴られてしまいました。すみません、と言いつつ、何があったのかをおじいさんに尋ねました。

おじいさんはため息をつきながら、さっきのにこやかな顔とは違ってもはや世界に絶望しているかのような表情で言いました。


「今から3年前、ギルバルトは隣国のフルート王国と戦争になった。フルート王国はこの大陸の覇者と言っても良い。小国ギルバルトはすぐに占領された。その後は酷かった。まず広場には公爵家の人間の首が晒された。流石に子供には手を掛けなかったそうだが、今は行方不明だ」


首が晒された、その事実はまだこの世界を知らない私にとって衝撃を受けるには十分な内容でした。鳥肌が立っているのが自分でもわかりました。


おじいさんは続けて話しました。

「占領軍の兵士の行いは酷かったよ、私の息子はパン屋をやっていたんだが、『パンが不味い』という理由で殺された。息子のパンはここらで一番美味しいと評判だったのにな。それに…」


と言い掛けたところでおじいさんが語りを止めた。私が不思議に思っているとおじいさんは黙って指を指す。その方向を見ると、兵士の姿が見えました。

おじいさんはまた口を開けて

「んで、噴水だったか。それはこの道をまっすぐ行って、突き当たりを右に曲がると見えてくるよ。それではまたね。かわいらしい旅人さん。良い旅を。うちの家内が怒鳴ってすまなかったね」


私はおじいさんにお礼、おばあさんに謝罪し、案内通り、噴水…もといかつての公爵家に向かいました。


「これが…先生の言っていた噴水…? 」


廃墟の前に佇む、苔むしった石の物体はもはや噴水とは呼べない何かでした。もちろん水が出ているわけがありません。


残念ですが、これがこの国、いや地方の現実なのでしょう。


あまりこの魂が抜けたような場所に長居はしたくありませんが、今から別の国に移動するとなると遅くなってしまいますね…

仕方ありません、宿を探しましょう。


幸い宿はすぐ見つかりました。木造の昔ながらの宿です。


明日は朝早く出発しましょう…


ー夜


夜になり、私は少し小腹が空きました。

そういえば追放されてから何も食べていませんでしたね。

しかしこんな夜遅くにやっているお店なんてあるのでしょうか?


少し歩くとまだほんのり明かりが見える酒屋がありました。ここでいいでしょう。


中に入ると店員らしき青年と、何かの地図を囲って、旗を掲げている団体客がいました。


「いらっしゃい! 空いてる席に座って! 」


そう言われ、席に座ると、店員がこちらにやってきて

「こんばんは! 初めてのお客さんだよね! うちはギルバルトの名産のワインが自慢だよ!酒が飲めるなら是非! 」


そういわれると注文するしかないですね。

しかし色々気になることもありますね…


「ではそれを。あと、小腹が空いたので何かおつまみもお願いします。あの…質問なのですが、あなたさっき『ギルバルト』って言いましたよね?ここでは禁止されていると聞いているのですが…

あと、あそこにいる方々はどんな集まりですか?確かあの旗はギルバルト公国の旗ですよね?あ、スパイとかではないですよ! これ、私は旅人の魔女です」


資格証を出しながら私が一気に質問すると、彼は困り顔をしながら答えてくれました。


「はいはい、あんたがスパイじゃないぐらい見ればわかるよ。ギルバルトが禁止なんてあいつらが言っているだけだよ。ここは誰が何と言おうギルバルトだ。あそこの団体は『青年ギルバルト団』といって、祖国解放のための組織だ」


「解放」という言葉が私の心に響きました。ここは魂が抜けたような場所と思っていましたが、それは誤解だったようです。まだ、この「国」を忘れない、忘れさせないようにする人々がいるならば、外面は無くなったとしても、中身は、魂は生きているのでしょう。


そのグループはギルバルトの民族歌などを囲って歌っていました。


そう私が物思いに沈んでいると、そこのグループにいた男性がこちらに来ました。

その人はとても顔立ちが整っていて、きれいなスーツに身を包んでいました。


「こんにちは。旅の方。私はこの青年ギルバルト団のリーダーをしております、バルトロ・リカルドと言います。リカルドとお呼びください。そして、旅人さん、あなたにお願いがあるのです。引き受けていただけますか?」


「わたしは旅人です。申し訳ないですが、政治的な運動には協力できません。ごめんなさい」


私がそう断りを入れると、リカルドさんは手紙を取り出しました。

「政治的な運動ではなく、これは私個人としてのお願いなのです。旅人さん、この手紙を、隣国の、パルナチア連合国の、リカルドの家に届けてくれませんか? そこに私のワイフが住んでいます。私はそこには行けません。ですから旅人さん、この手紙を、どうか…」


こんな誠実で儚い願いを叶えられないならば、私は魔女失格でしょう。


「わかりました。必ず届けることを約束しましょう。あなたのこれからの人生に幸あれ」


リカルドさんはニコッと笑い

「本当にありがとうございます。そうだ、このまま別れるのは惜しい。是非私たちの宴に参加しませんか? 」

と提案してきました。


「非常に魅力的な提案ですが、私は旅人で、どこの団体にも肩を持ちたくないのです」


そういって、私は酒屋を出て、宿屋に戻りました。


ー朝


目が覚めると、やけに広場のほうがやけにざわついているような気がして、そこに向かいました。


広場に向かうと、人が何かステージのようなものの周りに群がっており、何か余興が始まるかのような雰囲気がありました。

群衆を掻き分け、前に出ると、そこには磔にされた人と、兵士らしき人が5人ほどいました。



磔にされている男は整った顔立ち、ボロボロになってはいるが、明らかに上等なスーツ、間違いなくリカルドさんでした。


兵士の1人がが高らかと叫びました。

「このものは国家の秩序を乱す大罪を犯し、我らの王国の正統な領土であるギルート地方の独立という何の根拠のない過激な思想を流布した! これは死を持って贖う以外に方法はない! 」


そういって、磔にされたリカルドさんに銃口が向けられました。

その瞬間を、銃声が曇天の空に響く瞬間を、見てしまいました。


その時、私の中で何か暗い感情が蠢いている感触がしたのです。

宿屋で私はリカルドさんから託された手紙を読みました。


差出人の名前は「トロバ・リバルト」。恐らく偽名でしょう。彼は自分の名や顔が割れているのを察していたのかもしれません。

手紙の内容はシンプルでした。



最近、調子はいかがですか?

夜は冷えますので、体調に気をつけて

うわさによるとそちらではお祭りを

なされるそうですね。

来年は是非そちらに訪れたいものです。


良いお土産をもってい

きます。

手紙の最後に、君を愛しています


物語の主人公なら、一般人ならこれを届けるのが責務でしょう。

しかし、私には出来ません。あれを見た後、リカルドの奥さんに見せる顔がありません。私はただの魔女で、ただの旅人でした。

ごめんなさい、本当にごめんなさい。

私は手紙を引き出しにしまった。


夜、どうしても確かめるべきものがあり、昨日の酒屋に向かいました。


中に入ると、明らかな昨日と違う臭いがしました。


床に赤い液体広がっているのに気づきました。


…血です。


それは向こうの部屋から広がっていることに気づいたので、扉を少し開け、覗くと、

中でイスに縛られた兵士が複数人の男に囲まれていました。


中で何が起こっているのかは容易に想像がつきます。


私は黙って扉を閉め、荷物を纏めて、すぐにこの「国」から旅立ちました。


私のこの地でのお話は終わりです。


ー数ヶ月後


私はギルバルトから遠く離れた国にいました。ふと落ちている新聞を拾い上げ、読んでみると見出しに「ギルバルト独立派が過激化、武力衝突へ」と、


「終わりは、来ないのですね」


私はそう呟き、新聞をゴミ箱に投げ入れました。

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次の更新予定

2026年1月18日 18:00
2026年1月25日 17:00
2026年1月31日 18:00

追放魔女の放浪記 まめざかたろう @Monday25

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