第2話 魔女・トリニア

 皆さんこんにちは!私はこの世界を気ままに旅している魔女・トリニアです。

 これからの話は私の旅の記録です。


 しかし、恐らく急にどこの馬の骨かもわからない女の旅の話をしても面白くないでしょう。


 皆さんに私を知ってもらうためにも、私の幼少期のお話を聞いていただきましょう。


 ー15年前 東の国 マフロ共和国


 小さい頃から魔法使いが夢でした。

 私の母国であるマフロは魔力という旧時代の遺物から、科学力という理論化された力が社会的地位を持つようになっていました。


 しかし私はこの魔力という、一見不確実で時代遅れな物に魅力を感じていました。理由は…今でもわかりません。しかしこうして今魔女として、毎日楽しく生きているのだから、この感性は間違っていなかったのだ、と信じています。


 私の家はあまり裕福ではなかったのですが、私自身勉強ができたので、いわゆる頭の良い学校に進学できました。


 富裕層は時代の潮流を読んでなのか、周囲の人間は科学の道に進みましたし、私の親や先生は魔法の道に進もうとする私を引き留めました。

 しかし、私の意志は揺るぎませんでした。

 科学の道に魅力を感じなかったのと、やはり魔力の科学ではできないような、「人智を越えた力」が持つ魅力には私の意志を固めるだけのものがあったのです。

 流石に魔法に使う棒を目の前でクラスメートに折られた時はへこみましたが。


 こうして私は14歳の頃、魔法が使えるようになりました。初めて魔法で宙を浮いた時の感触は未だに忘れられません。


 魔法を用いる職業に従事できる免許のようなもの、「魔女資格」の取得が必要なのです。


 ここで私の師匠について話します。

 その当時、魔女資格勉強として、学校に通うのが主流でした。しかし、私には学校に通うお金がなかったので、独学で勉強するしかありませんでした。 しかし、魔女資格試験は実技中心です。理屈だけの勉強では限界がありました。


 両親はそんな私を不憫に思ったのか、先生を用意してくれました。

 その人こそ、私の師匠である、リリィ先生です。

 かつては大魔法使いとして名を馳せていたようですが、年齢による衰えのため、今は隠居生活をしていました。


 私は彼女の家で住み込みで勉強することになります。

 彼女は私が彼女の家に着くなりいいました。

「では、家事をお願いします。ずっと1人でやっていたものですから、面倒でね~」


 私は少し驚きましたが、師弟関係ならそれぐらい当然ではないか、とも思ったものですから、毎日誠実に家事を行い、夜は懸命に勉強に励みました。


 しかし、どれだけたっても先生は魔法を教えてくれません。それどころか


「トリニア、家事が遅いですよ。師匠を待たせるのは感心しませんね」

 と言う始末。

 今考えても酷い先生ですね!

 当時の私もそう思ったのか、脱走を考えました。

 しかし、私の妙な優等生思想と、せっかく親が見つけてくれたという手前、そんなことはできなかったのです。


 そこで私は小さな工夫を始めました。

 まず、掃除は風魔法で、洗濯は水魔法で、料理は…少し苦戦しましたが、火魔法の応用でなんとかできました。


 魔法による家事の短縮化で、勉強の時間を増やすことに成功したのです!すごくないですか!?


 半年後、先生は唐突に言いました。

「私と勝負しましょう」


 勝負?勝負って戦うってこと?

 当時の私は困惑したまま、家から少しある湖のほとりで、元大魔法使いと勝負することになったのです。


 結果はもちろん惨敗です。先生が杖を振ると、湖が割れました。先生の使う、光線魔法、炎魔法になす術がなかったのです。


 しかし、一方で手応えもありました。


 先生はいいました。

「魔法を自然と使えるようになりましたね。これからは稽古をつけましょう。それでは明日、箒に乗る練習からです。あ、あと家事はこれからは私もしましょう」


 先生は私が家事を魔法で楽していたのを見抜いていて、なおかつそれが狙いだったようです。私はまんまと先生の手のひらの上で転がされていたのでした。


 先生は様々な魔法を教えてくれました。

 箒を乗る、炎や光線、変身魔法など、大抵の魔法を使えるようになりました。


 こうして1年後、魔法資格試験に合格しました。

 志望者が減っていたのもありましたが、それでも当時は世界が私を受け入れたような、希望が見えたように思えました。


 私は晴れて魔女になりました。先生は去り際こう言いました。


「あなたはもう一人前の魔女です。しかし、最後に教えることがあります。それは『魔女である前に人間であれ』ということです。今は意味がわからなくて構いません。しかし、この言葉は刻んでおいてください。あなたは魔女ですが、あなたがこれから会うことになるのは、魔女ではなく、一人一人それぞれの物語をもつ人間なのです。それでは、さようなら」


 この時、私はなんとか泣かないつもりだったのですが、多分泣いていました。

 私は振り返り、旅立ちました。


 こうして私はパーティー探し、一般人でいうところの就職活動のようなものを経て、勇者パーティーに加入しました。当時は骨を埋める覚悟でした。


 結局、その覚悟はとても脆かったのですがね。

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