今日来てよ




数日経ち、そよ風が温度を保ち始めた頃。先日と同じように机の前で腕を組んでいた。


相変わらずキリッとした佇まいで、整った顔がこちらを見つめる。


「どしたの…?風紀委員長」


恐る恐る声をかける。


「……田嶋くん、今日の昼休み風紀委員室まできてくれない?」

「…なんか、やらかしたっけ?」


記憶を辿る。

ちょくちょく注意はされているが、呼び出されるほどのことをしてないと思う。


焦っている内心を察したのか、少し微笑んで声を掛ける。


「校則違反に対しての呼び出しじゃないわよ。少し、話したいことがあるだけ」


何かやらかしたわけではなく胸を撫で下ろす。


「今じゃだめなの…?今日昼ごはん持ってきてないから、売り切れる前に買いたいんだけど」

「今は…恥ずかしいからだめ。お昼は…その、お弁当作ってきたから大丈夫…だから、来て」


風紀委員長直々の呼び出しに周りの視線を集める。その注目に耐えきれず、二つ返事で返した。





———






お昼休みになり風紀委員室の扉を開けると、クールな佇まいですでに座っていた。


初めて入ったが真希以外に人はいなく、椅子と机しかなくてどこか寂しさを感じる。


「誰もいないんだね」

「お昼はあんまり誰もこないから。はい、これ…」


手招きをする彼女の隣へ座るとスッと風呂敷を渡される。


「ありがと」


渡された風呂敷を開くと、彩り豊かな美味しそうなお弁当が出てきた。そして、好物の唐揚げもあった。


「「いただきます」」


二人で手を合わせて食べ始める。

まずは卵焼きと思い、口に運んでいると横から視線を感じた。


その視線を気にしないようにしながら食べると、自分好みに甘めで美味しかった。

そして、飲み込んだのを見ると緊張した面持ちで言葉を紡ぐ。


「美味しい…?」

「めっちゃ美味い」

「ほんと!?えへへ……良かったぁ」


顔を綻ばせる。

机の前で腕を組んでいた風紀委員長はそこにはいなかった。


それから少しの間黙々と食べ進めた。


「手作り?」

「…そ、そうだけど。たまたま早く起きたから作ろっかなって思っただけ……」

「へぇ〜やっぱ風紀委員長はすごいね。すごく美味しかったからまた食べたいや」


口元の綻びを手で隠し照れ臭そうににする。


「…早く起きれたらね」


再びお弁当をたべ始める。

さっきと違ってどこか駆け足で食べているように見えた。


「そういえば、今日はなんでここに呼んだの?」


本日の本題に入る。


「だって…」


顔を俯け、少し言いづらそうにする。


「この間連絡してって言ったのに、くれないから…」

「おばさんに会いに行くってやつか」

「うちに来るってやつよ」


少し怒っているような、悲しんでいるような表情をする。

忘れていた訳では無いが、確かに連絡しなさすぎたかもしれない。


「う〜ん俺はいつでも行けるけど、いつが都合いい?」

「…今日」

「今日?」

「今日来てよ」


唇を尖らせ、あの頃のように突拍子もないことを言う。

いきなりで驚いたが、別に予定は無いため断ることなく了承した。


それからしばらく昔話に花を咲かせて、気づいたら時間が経過していた。


「あ、もう昼休み終わっちゃうね」

「そろそろ戻んないとだな」


壁にかけられた時計は、授業開始3分前を指していた。

廊下から少しだけ聞こえていた話し声も殆どしなくなっていた。


「…また、一緒に食べたいな」


時計を見ながらぼそっと言葉を漏らす。


「…ん、なんか言った?」

「なんも言ってない!…ばか」

「なんでばか?…まぁ、また一緒に食べような」

「…っ…!聞こえてるじゃん!」


地団駄を踏み怒るその表情は、どこか楽しそうだった。




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