第十九回:壊れた人形の告白

嵐の吹き込むマンションの一室。割れた窓から雨が降り注ぎ、飛び散った血痕を冷たく濡らしていく。


黒井先生が注入した未知の薬物のせいで、俺の脳内は熱く焼け付いていた。心臓の音が耳元で爆音のように鳴り響き、目の前の四人の女たちが、恐ろしい化け物のように見えたり、慈愛に満ちた女神に見えたりと、歪んで見える。


「あ……あぁ……」


俺の口から、意味をなさない声が漏れる。


「翔太くん!? しっかりして!」 **桜(さくら)**が血のついた鋏を放り出し、俺の顔を両手で包み込む。 「先生、あなた彼に何を打ったの!? 彼の目が……焦点が合っていないわ!」


「ふふ、最高の愛よ……」 肩から血を流しながら、黒井先生は恍惚とした表情で笑う。「これで彼は、私がいなければ呼吸の仕方も忘れるようになる。脳が私の記憶だけで埋め尽くされるのよ……」


「黙りなさい!」 **美雪(みゆき)**が御神刀の切っ先を先生の喉元に突きつける。その手は怒りで激しく震えていた。「これ以上翔太を壊すなら、この場であなたの魂ごと切り裂きます!」


「あはは……。先輩、壊れちゃった?」 **白鳥(しらとり)**が虚ろな目で俺に近づき、俺の頬をペロリとなめた。「壊れた先輩も可愛い……。ねえ、いっそのこと、動けないように手足もバラバラにしちゃいましょうか? そうすれば、誰にも奪われないもんね?」


四人の歪んだ愛の言葉が、俺の壊れかけた脳に直接流れ込んでくる。 その時、俺の中で何かが「プツリ」と切れた。


「……もう、いいよ」


俺は、自分でも驚くほど冷めた、感情の消えた声で呟いた。


「桜も、美雪も、白鳥も……先生も。みんな俺のことが好きなんだよね? 俺を独り占めしたいんだよね?」


四人が息を呑み、俺を見つめる。


「だったら……俺を四つに分けてよ。腕、足、心臓、頭……。そうすれば、みんな平等に俺を持っていけるでしょ? 喧嘩もしなくて済むし、俺も……もう、こんなに苦しまなくて済むんだ」


俺は空っぽの瞳で、四人に微笑みかけた。 それは、絶望の果てにたどり着いた、狂気の「正解」だった。


「さあ、誰から切る? 最初に心臓が欲しいのは誰?」


その瞬間、それまで殺し合っていた四人の女たちが、同時に恐怖で顔をこわばらせた。自分たちの愛が、最愛の男を「人間」ではない何かに変えてしまったことに、ようやく気付いたのだ。


だが、彼女たちの狂気は、それですらも飲み込んでいく。

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