第二十回:共依存の檻(エターナル・ケージ)

「俺を、四つに分けてよ……」


翔太のその一言が、嵐の吹き荒れる室内を凍りつかせた。薬物で瞳孔が開いた翔太の笑顔は、この世のものとは思えないほど美しく、そして絶望的に壊れていた。


四人の女たちは、一瞬の静寂の後、互いに視線を交わした。 これまでは「自分だけのもの」にするために戦ってきた。しかし、今目の前にいるのは、独り占めしようとすれば霧のように消えてしまいそうな、脆い残骸となった最愛の男だ。


「……分かったわ。バラバラにするなんて、そんなもったいないことさせない」


**桜(さくら)**が真っ先に口を開いた。彼女は手に持っていた裁ち鋏を床に捨て、カランと虚しい音が響く。


「翔太くんが壊れてしまったのは、私たちのせい。だったら、私たちが責任を持って『修復』し続けなきゃいけないわね」


「ええ……」 美雪(みゆき)も御神刀を鞘に収め、血のついた手を自分の緋袴で拭った。その瞳からは理性が消え、深淵のような慈愛が溢れ出す。「神様はもう彼を守ってくれない。私たちが、彼にとっての唯一の神になるのです」


「あはは……。じゃあ、みんなで飼うってことだね?」 **白鳥(しらとり)**がカッターを仕舞い、翔太の足元に擦り寄った。「先輩を一人にしない。みんなでずっと、死ぬまで一緒にいてあげる。逃げられないように、ね」


黒井先生が、肩の傷を押さえながら立ち上がる。彼女は薬の入ったケースを取り出し、妖しく微笑んだ。


「私の家はもうめちゃくちゃだけど、もっと広くて、誰にも見つからない場所を知っているわ。そこで、私が彼の健康と、あなたたちの欲求を管理してあげる。……いいわね?」


もはや、そこには嫉妬も憎しみもなかった。あるのは「佐藤翔太」という壊れた人形を、一生手放さないという狂信的な共同独占欲だけだった。


四人は、抵抗する力を失った翔太を優しく、まるでお姫様でも扱うかのように抱き上げた。


「さあ、翔太くん。帰りましょう。新しい、私たちの『お城』へ」


桜が耳元で囁き、美雪が手を握り、白鳥が足を撫で、黒井先生がその首筋に再び鎮静剤を打ち込む。


翔太の意識が完全に闇に落ちる直前、彼は自分を囲む四人の女神(悪魔)たちが、今までで一番幸せそうに笑っているのを見た。


雨は止み、夜明け前の静寂が訪れる。 マンションの部屋は空になり、一人の少年と四人の女はこの世から姿を消した。


エピローグ

数年後。 人里離れた深い森の奥にある屋敷では、今日も穏やかな時間が流れている。 そこには、車椅子に座り、穏やかに微笑む一人の青年と、彼を献身的に、そして異常なまでの密度で世話し続ける四人の美しい女性たちの姿があった。


「翔太くん、あーんして?」 「翔太、髪を整えましょうね」 「先輩、今日はどのナイフを見たいですか?」 「佐藤くん、お薬の時間よ」


彼が何を選び、何を愛しているのか。 そんな答えは、もう、誰も必要としていなかった。


【完】

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可愛い彼女が三人いても、俺の毎日は命がけ~ Juyou @gtoair2446890

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